私の一枚

被災地で歌う意味を教えてくれた出会い 大島花子さん

  • 2016年5月9日

2011年の冬、福島県相馬郡新地町の仮設住宅にて、被災者の荒和子さんと

写真:一人ひとりに歌を丁寧に届けていきたい思いで歌う大島花子さん
一人ひとりに歌を丁寧に届けていきたい思いで歌う大島花子さん

写真:今年の3月には「週間USEN HIT 演歌/歌謡曲ランキング」で1位を獲得した大島さんのシングル「親父」(AQUA RECORDS 税込み500円)
今年の3月には「週間USEN HIT 演歌/歌謡曲ランキング」で1位を獲得した大島さんのシングル「親父」(AQUA RECORDS 税込み500円)

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 これは、福島県相馬郡新地町にある仮設住宅への慰問コンサートで知り合った荒和子さんとの写真です。彼女は仮設住宅のまとめ役として、入居者の悩みを聞き、外部との窓口の役回りなどをしていた方で、チャリティーコンサートを行うにあたり、とてもお世話になりました。今もお付き合いが続いています。

 新地町は宮城県との県境にあり、東日本大震災で甚大な被害を受けましたが、救援の手がすぐに届かないなど被災地として取り残されがちだった場所でした。私はボランティアをしていた友人たちの縁から新地町でコンサートを行うことになり、何度も通うようになったのです。

 正直なところ、私は被災地で歌うことがいいことなのか最初はよくわかりませんでした。でも、私自身にも父・坂本九を突然亡くした経験があり、「悲しみは癒えることはない」という思いを長年抱えてきました。そんな気持ちをお話しさせていただきながらみなさんと触れ合おうと、仮設住宅の集会室でコンサートを行ったんですね。すると涙を流して聴いてくださる方がたくさんいらして、とてもよかったと言っていただき、私自身大きな力をもらえたんです。

 コンサートの後に仮設住宅の荒さんのお部屋を見せていただくと、とても狭い一室にラジカセが一台ぽつんと置いてありました。彼女は津波ですべてを失った後にこれを買い、父の歌っていた「上を向いて歩こう」を毎日聴いている、と。周囲からはラジカセはぜいたくだと言われたそうですが、彼女は「これで好きな音楽を聴く時間が自分には絶対必要だ」と話してくれたんです。それを聞き「音楽はおにぎりのように直接おなかを満たせなくとも、こういう形で被災者の心に必要なものになる」と教えていただき、それは歌うことの意味を悩んでいた私への答えとなりました。

 昨年、荒さんの新築した家に泊まらせていただき、たくさん食べて、しゃべってとても楽しい思い出ができました。私は「悲しみは癒えることがない」と言いましたが、その悲しみを乗り越える必要もないし、様々な悔いとともに忘れる必要もないと思っています。そして悲しみの種類は人の数だけある。私は父を亡くしたときに泣く気持ちにならず、周囲から「泣けば楽になるから泣いていいよ」と言われるのがかえって苦痛でした。ですから誰もが、自分の中にある悲しみを否定せず、そのままの感情を大切にしてほしいと今は考えています。そして、だからこそ、悲しみだけでなく、喜びの感情もたくさん分かち合いたいと常に思っているので、荒さんの新居に遊びに伺い、ともに喜べたことは本当にうれしかったです。

 こうした経験を経て、一人ひとりの方の気持ちにさらに寄り添いたい。私の歌を待ってくださる方たちに歌を届け、小さくても様々な方の心に灯をともしていきたい。そんな思いで、今は歌っています。

         ◇

おおしま・はなこ 歌手。東京生まれ。東洋英和女学院大学入学と同時にミュージカル「大草原の小さな家」で初舞台。その後歌手を志し、2003年父坂本九の「見上げてごらん夜の星を」でメジャーデビュー。10年よりギタリスト笹子重治氏とのデュオライブを開始。全国各地で「手渡し」の歌を届けている。

◆大島さんが2月にリリースした、坂本九さんの曲をカバーして歌ったシングルCD「親父」。この曲は、大島さんのファーストアルバム「柿の木坂」に収録されていたが、反響が大きく、シングルとして録音し直したという。アルバムとともに、より歌にこめたメッセージを届けたいと、完全アナログでの録音を実現。3月に「週間USEN HIT 演歌/歌謡曲」でランキング1位を獲得した。次回東京でのライブは6月18日(土)恵比寿アートカフェフレンズ。(問03-6382-9050)

「この曲は、私が小学生の時、父がライブで歌ったときに生で見ているんです。そのとき、父ではなく、アーティスト・坂本九の姿が本当にカッコよくて誇らしい気持ちになったことを覚えています。父が祖父から言われたことを元に作った曲ですが、父はどんな思いでこの曲を書いたのか、また祖父はどんな思いでこういう言葉をかけたのかといつも思いをはせています。すでに二人とも亡くなっているので回答はもらえません。でもだからこそ、終わりのない楽しみとしていろいろ想像しながら歌っています。私はもともと、歌はライブで届けるものと考えていて、CDにすると歌がかわってしまうことに疑問を感じていたのですが、今回はアナログテープで録音することで、より歌にこめた思いを刻めたような気がしています。ぜひ聞いてください」

AQUA RECORDS 税込み ¥500

(聞き手:田中亜紀子)

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