私の一枚

師匠を1週間出待ちして入門を直訴 春風亭一之輔さん

  • 2016年7月25日

2001年3月半ば。大学4年生でまさに卒業前の高座。落研での名前は、先輩から受けついた「疎害亭寝愚僧(そがいてい・ねぐそう)」だった

写真:真打ちになって4年目の春風亭一之輔さん(写真:横井洋司)
真打ちになって4年目の春風亭一之輔さん(写真:横井洋司)

写真:一之輔さんのCD「芝浜とシバハマ」。ソニー・ミュージックダイレクトより2枚組3241円(税別)
一之輔さんのCD「芝浜とシバハマ」。ソニー・ミュージックダイレクトより2枚組3241円(税別)

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 これは、大学時代の最後の公演の写真です。卒業前の3月、落語研究会の「追ん出し会」を日大芸術学部の中講堂で行い、けっこうウケた覚えがあります。部員は同じ学年では僕1人。3年生が1人、2年生が3人と少なかったですね。僕が入部した時も先輩は少なく、当時は落語ブームとはほど遠く、落研は砂漠に動物の骨が朽ちてるような荒野でした(笑)。

 僕の落語との出会いは高校生の頃。たまたま寄席に行ったらそのゆるい空気感がすごく好きで落語を始めたのですが、落語という表現形式が自分の身体的に合っていたんでしょうね。日大の落研時代は、自分でどんどん話を覚えて40題は持ってたかな。学祭や落研の発表会のほかにも、江古田の銭湯の2階の和室を借りて無料の寄席をやったり、先輩たちと始終飲んだり、楽しかったですね。

 ただ噺家(はなしか)になるかどうかはぎりぎりまで決めてなかったので、実はこの「追ん出し会」の時も先が何もきまっておらず切羽詰まった気分でした。が、この後、やっぱり噺家になるしかない!と師匠の春風亭一朝に弟子入り志願することに決めたんです。僭越(せんえつ)ながら師匠を選んだ理由は、師匠の落語のリズムやテンポ、音感など聞いていて耳にすんなり入ってくる落語だったからです。見た目やさしそうだったというのが一番大きいですが(笑)。

 新宿の末広亭の前で、寄席を終えた師匠を出待ちしたのですが、最初の日は声がかけられず、2日目は師匠が違う方向に行ってしまい、3日目は休み。4日目は雨など、いろいろな理由で延びていってあせってきた7日目のこと。これ以上交通費を使えないと踏ん張り「弟子にしてください!」と声をかけました。力んでたんでしょうかね。後で師匠は「お前に刺されるかと思ってあの時は身構えた」と言ってましたから(笑)。その後、喫茶店にいって、「食えないよ」など説明をしていただき、親の了解をとってきなさいと言われたので、すぐに親の了解をとりました。数日後に師匠と兄弟子が待つ上野の風月堂に両親とあいさつにうかがい、晴れて入門。次の日から師匠のかばん持ちです。

 最初は兄弟子に着物の畳み方など礼儀作法を習ってから前座になるという方式で、見習いの時はお給金はなし。師匠の家で稽古をつけてもらい、その後時代劇のビデオを二人で見て、ごはんを食べさせてもらい、帰りに交通費がわりに千円もらう。でも師匠の家の小石川から江古田の自宅まで歩き、コーヒーの瓶にそのお金を貯(た)めて、と……(笑)。前座になると一日千円のギャラが出ますが、先輩たちが常におごってくれ、入門後はこんなにもお金を使わないですむのかと驚きました。

 うちの師匠は、技術的なことは学んでも、自分の落語を育てていきなさいという教えだったので、基本的な自分のスタンスは落研時代と一緒で、ずっと楽しんでやってきました。昔も今も落語をしている時が、一番自分が生かされていると感じます。真打(しんうち)になって4年、まだまだこれから。年をとったら一日1席か2席落語をして、夕方5時ぐらいから酒を飲む。そんなおじいさんに憧れています。

      ◇

しゅんぷうてい・いちのすけ 落語家。千葉県出身。日本大学芸術学部を卒業し、2011年春風亭一朝に入門。04年11月二ツ目昇進 「一之輔」と改名。12年年3月真打昇進。2010年NHK新人演芸大賞受賞「初天神」、2010年度文化庁芸術祭新人賞受賞「茶の湯」など、賞歴多数。ユニクロのCMへの出演や朗読の舞台など、落語以外の活動も行っている。

◆春風亭一之輔さんの落語が収録されたCD「芝浜とシバハマ」が発売中。「酔っ払い・芝の浜・革財布」から三題噺として創作された三遊亭圓朝作「芝浜」、その前日譚として創作した一之輔作の大江戸ファンタジー「芝ノ浜由縁初鰹(しばはまゆかりのはつがつお)」。名作落語とその発端をバカバカしくも真面目に語り爆笑と感動を生んだ2015年冬の「芝浜とシバハマ」公演から二席を収録。カップリングには「がまの油」、「代脈」を収録した、進化し続ける一之輔の“今"の熱量が詰まった、落語初心者にも楽しい2枚組。

「僕は新作をあまりやらないのですが、これは企画が進んでプレッシャーをかけられてね(笑)。新作は古典とちがって僕の頭の中にしかストーリーがないので、受けなかった時の責任たるやそれは重いので、がんばりました。聞いていただく方には、新作と古典を聞き比べ、自由に楽しんでいただきたいですが、これは一之輔の37歳冬の落語として、今後変化していくさまも楽しんでいただけたらと思います」

(聞き手:田中亜紀子)

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