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小さな商店街にある、世界のクリエーターが注目するおにぎり屋

  • お米や
  • 2016年10月27日
デザイン会社が一つの店に仕掛けたものは、街づくり。その様子をフォトギャラリーからも、どうぞ。

 「あら、元気―?」「元気よー、病院行ってくるわねー」。カートをひいたおばあちゃんたちの落語のような会話が聞こえてくる、東京・戸越の宮前商店街。にぎやかな「戸越銀座」から坂を上ったところにある300メートルほどの小さな通りは、古くは個人商店を兼ねた住居が軒を連ねる。

お米や

1人で運営するため、毎朝4時半に起きて店に入り、ご飯を炊いてはひたすら握り続ける

お米や

おととい来日したというイギリス人男性はおにぎりを二つ購入。これから友人とシェアするそう

 その一角にあるおにぎり屋「お米や」では、女性店長がせっせとおにぎりを握っていた。軒下には「新米入荷」と書かれた札が舞い、のりの香りが漂う。ひとり、またひとりと地元の人が足を止めて女性店長に声をかけていく場面は、ずっと昔から続いていた店のようになじんでいる。

 地元のデザイン会社「OWAN(おわん)」が、おにぎり屋を始めたのは2年前。店がしまると駐車場になっていく都内の商店街と、生産者も販売量も減っていく地方の農家を結び付けたい、と新潟県南魚沼市の米農家と提携し、廃業する八百屋の店主から建物を引き継いでオープンした。  

お米や

最近は外国人観光客も「ライスボール」と言わずに「ONIGIRI」と言うことが多いという

 お米は品種改良されていない「従来品種」のコシヒカリで、ほとんど流通していないもの。女性店長は「お米本来の味を子どもたちに知ってほしい」と言う。甘みが強く冷めてもおいしいが、水分量が多いので炊き加減を調整し、ふうわり握る。具材は塩分少なめの紀州南高梅や「八海山」のこうじを使った「大葉みそ」など8種類だ。どれも無添加でこだわりは強いが、それを前面に出すことはしない。「ただおいしいな、と思ってほしくて。子どもは味がわかるのか、ここのおにぎりを食べてからは、コンビニのおにぎりが食べられなくなった、というお母さんの声も聞きますね」

 周辺はシャッターがおりたままの店が目につくが、この通りは小学校や病院、スーパー、駅を行き来する生活圏の動線だ。朝、パジャマ姿で来るおばあちゃんや、毎日1個だけ買って出勤する高校の先生、マラソンの給水ポイントのようにおにぎりを受け取って走っていくビジネスマン、店先で遊んで親に怒られる小学生など、顔なじみばかり。そんなおにぎり屋に意外な客層が混じる。北欧やヨーロッパから訪れる外国人観光客たちだ。お目当ては、この小さな店をリノベーションした日本の若手建築家・長坂常さんの建築デザインだという。

 ここは、清澄白河や青山にある「ブルーボトルコーヒー」を手掛けたことで知られる長坂さんが、わずか5坪の店内を低予算で改修した「作品」でもある。壁を取り払って柱だけを残した開放的な空間は古さと新しさが混ざり、街になじみつつ、何か新しいものを生み出しそうなワクワク感がある。シンプルでミニマルなたたずまいと日本の「おにぎり」のアイデンティティーがぴったり、と海外メディアに取り上げられてから、世界中の若手建築家らクリエーターがわざわざやってくるようになった。

 「おにぎりを食べながら建築について質問されるんですけれど、詳しくは答えられなくて」と女性店長は苦笑い。訪れた日も、朝8時の開店と同時にクリエーターのロシア人夫婦が新婚旅行でここまで来たという。一番多いのはスウェーデンなど北欧から。北欧は室内のマーケットが多く、住居と一緒になった商店が道に並んでいる風景自体が珍しいそうだ。

 近所に友人が住んでいるというイギリス人男性がやってきて、「クラシカルなものを生かした雰囲気がとてもいい」と店を見上げた。その後ろを、「お米やさん、バイバーイ」と小学生の女の子が走っていく。デザイン会社が一つの店に仕掛けたものは、街づくりだ。今後も閉まっていく店をどんどん開けていくつもりだという。ここで育つ子どもたちにどんな思い出と創造力を与えるのか、楽しみだ。

(文・写真 塩見圭)


場所名:お米や
住所:東京都品川区戸越4-8-6
アクセス:大井町線戸越公園駅から徒歩5分
電話:03・6421・6908
ホームページ:https://www.facebook.com/okomeya.tokyo/
メモ:営業時間は午前8時(土日は9時)~午後3時。休みは原則月曜日と第1・3火曜日。フェイスブックで確認を。

マウスホイールのスクロールでも見ることができます
(Windows IE6以降・Mac Safari3以降推奨)
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