ノジュール

<第42回>近代建築の粋を見る、実業家の邸宅観光

  • 文 田村知子(『ノジュール』編集長)
  • 2016年11月30日

旧遠山家邸宅。主屋から美しい日本庭園を望む(写真 宮地 工)

写真:遠山元一氏の母親が好んだという茅葺屋根の東棟 遠山元一氏の母親が好んだという茅葺屋根の東棟

写真:囲炉裏が設けられた東棟の農家風の居間 囲炉裏が設けられた東棟の農家風の居間

写真:東棟と西棟を結ぶ、段差をなくした廊下 東棟と西棟を結ぶ、段差をなくした廊下

写真:敷地内に遠山家が収集した美術品を展示する記念館がある 敷地内に遠山家が収集した美術品を展示する記念館がある

写真:定期購読誌『ノジュール』12月号は発売中。写真は草津温泉・湯畑のライトアップ(写真 安達征哉) 定期購読誌『ノジュール』12月号は発売中。写真は草津温泉・湯畑のライトアップ(写真 安達征哉)

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 美術館から街のビル群まで、建築ウォッチングが好きな方も多いと思いますが、今回ご紹介するのは、近代日本経済を牽引(けんいん)した実業家の邸宅建築です。旧遠山家住宅(遠山記念館)は、蔵の街として有名な川越から車で30分ほど、埼玉県川島町にあります。昭和11(1936)年築の大邸宅は、日興証券の創業者・遠山元一氏が、苦労をかけた母のために故郷に建てたもの。当時の建築の粋を集めた邸宅は大変見ごたえがあります。

 遠山家は代々豪農で裕福な家庭でしたが、元一氏の父親が散在を繰り返したため、一時は没落。元一氏は16歳にして東京に丁稚(でっち)奉公に出て苦労を重ねた末、のちに日興証券となる川島屋商店を設立し、見事に成功をおさめました。

 住まいは、主に東棟、中棟、西棟の3棟で構成されています。この時代の邸宅としては珍しく、玄関がある東棟は茅葺(かやぶき)屋根の日本家屋。当時の富裕層に好まれた洋風の意匠でも書院造でもないのは、豪農であった生家の再興を果たしたいという意気込みを表したからだといいます。ちなみに元一氏の母親は、普段は数奇屋造りを基調とした西棟で生活していましたが、もっとも好んだのはこの農家風の東棟だったそうです。ほかにも、棟と棟を結ぶ廊下には段差を設けず緩やかに傾斜させるなど、高齢の母親へのいたわりが感じられます。

 座敷や茶室に使われた銘木や、欄間に施された彫刻など、一つひとつが職人技の芸術として見ごたえがあるほか、庭園を望む中棟は迎賓館として使われ、吉田茂をはじめ政財界人が多数訪れました。ここは、増改築を行わずに昭和初期の邸宅を完全な状態で残す、極めて稀有(けう)な例ともいえる場所なのです。

 遠山家のみならず、当時の貴顕のライフスタイルを偲(しの)ぶことができる邸宅は全国に残されています。お洒落(しゃれ)なカフェとして営業しているところもあります。建築美を愉(たの)しむとともに、邸宅を建てた実業家たちの人物像や歴史、その邸宅に秘められたストーリーを探しに出かけてみませんか。

 『ノジュール』12月号では、全国の訪れたい邸宅建築のほか、巻頭では「本当にいい温泉」を特集。古くから名湯と謳(うた)われ、今もなお人気を誇る草津、有馬、湯布院、黒川などの温泉地で、その歴史や変遷から、温泉街を盛り上げ進化させ続ける町の取り組みまでをキーパーソンに迫ります。ほか、冬におすすめの雪見温泉、冬の旬を味わえる宿など、冬ならではの情報が満載です。

■ノジュール:鉱物学の専門用語で硬くて丸い石球(団塊)のこと。球の中心にアンモナイトや三葉虫の化石などの"宝物"が入っていることがある。

 

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PROFILE

田村知子(たむら・ともこ)

1995年JTB出版事業局(現・JTBパブリッシング)入社。旅行ガイドブック『るるぶ』の編集ほか、旅行情報サイト「るるぶ.com」などデジタル媒体の企画制作・統括を担当。『るるぶ編集長』を経て、2015年から定期購読専門誌『ノジュール』編集長。

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