十手十色

お笑い芸人の僕が引っ越し屋の社長になった理由 たかくら引越センター

  • 文 加藤千絵 写真・小林浩志
  • 2017年1月10日

引っ越しについて熱く語っていても、カメラを向けられると芸人の顔になる

写真:「ピアノ以外は~」の看板に偽りなく、小型の冷蔵庫はもちろん100キロある大型のものでも一人で持てる 「ピアノ以外は~」の看板に偽りなく、小型の冷蔵庫はもちろん100キロある大型のものでも一人で持てる

写真:最初は腱鞘(けんしょう)炎に悩まされた。狭いところを通ると手の甲が削れて、傷が絶えない 最初は腱鞘(けんしょう)炎に悩まされた。狭いところを通ると手の甲が削れて、傷が絶えない

写真:仕事はなるべく従業員に任せているが、お客さんから「なぜ本人が来ないのか」というクレームが入るのが悩みだ 仕事はなるべく従業員に任せているが、お客さんから「なぜ本人が来ないのか」というクレームが入るのが悩みだ

写真:年々離婚で引っ越す人が増えていてちょっとさみしい、と話すたかくらさん。ルームシェアの流行など、引っ越しは世相を反映する 年々離婚で引っ越す人が増えていてちょっとさみしい、と話すたかくらさん。ルームシェアの流行など、引っ越しは世相を反映する

写真:手袋をすると逆にすべるので、今は素手の方が持ちやすいという 手袋をすると逆にすべるので、今は素手の方が持ちやすいという

写真:自称「日本一おしゃれな引っ越し屋」。ユニホームは洋服屋とコラボレーションして作ったものだ 自称「日本一おしゃれな引っ越し屋」。ユニホームは洋服屋とコラボレーションして作ったものだ

[PR]

 キッカケは、放送作家の鈴木おさむさんから「おまえ引っ越しが得意だから、『たかくら引越センター』っていう名前でいけよ」と言われたことだった。それまで「たかくら伝説」という芸名でお笑いトリオを組んでいたが、解散することになり、鈴木さんに相談した時のことだ。

 「その時に二人で話が盛り上がって、最終的に引っ越し屋を立ち上げたらおもしろいですよね、みたいに軽いノリで話してたんですけど、たかくら引越センターという芸名で活動していると、やっぱり芸人仲間から引っ越しの依頼が多くなっちゃって。そしたらおさむさんが、おまえこの前言ってた引っ越し屋を立ち上げろ、みたいなノリで話し始めて、じゃあ立ち上げましょう、みたいな感じですね」

 起業は「ノリ」でも引っ越し歴は17年、技術は本物だ。それは節々が硬くなり、手のひらはグリップのようにざらついて「もう手袋みたいになってる」手が物語る。

「しっくりきた」アルバイト

 高校2年の時、派遣のアルバイトで行った先がたまたま引っ越し屋だった。それまで工場でスポンジケーキの型にこびりついた残りかすを取る作業や、携帯電話のバーコードをひたすら読み取る仕事をやっていたが、初めて引っ越しをした瞬間に「しっくりきた」。ちゃんと始まりと終わりがあって、荷物がなくなっていく様が気持ちいい。お客さんが必ず「ありがとう」と言ってくれるのもうれしかった。派遣元の会社をすぐに辞めて、それからずっと引っ越しを固定のアルバイトにした。

 大学を卒業してお笑い芸人になってから、意外とその経験は重宝された。いや、芸人の世界だからこそ重宝された、と言うべきかもしれない。「今も昔もですけど、芸人さんお金持ってないので後輩が先輩の引っ越しを手伝う、みたいな流れがありまして。僕がトラックを借りてきて、トラック代とご飯代だけでずっとやらせてもらってたんです」。大型免許は、トラック運転手だった父親のアドバイスで偶然持っていた。「トラックの運転手の仕事はずっとなくならないから、芸人になるんだったら困った時のためにとりあえず取っとけば、って言われてたんです。今ではおやじに感謝ですね」

目指すは引っ越しがテーマの番組作り

 芸名と同じ「たかくら引越センター」の名前で会社を立ち上げたのは2012年のこと。「ピアノ以外は一人で運べます」をキャッチフレーズに一人きりで始めた会社は、今では社員とアルバイトで十人超を抱える。今年からは引っ越しの際に引き取ったものをリサイクルする事業も始める予定だ。お金を稼いで、目下大きな目標にしているのは、自分がスポンサーの「引っ越しトークバラエティー」番組を作ることだという。

 「芸人さんの引っ越しに僕が密着して、ここはダメだ、ここはよかった、という点数をつけていくんです。僕がスポンサーなので、一応どんな先輩でも僕にはみんな気を遣ってもらって(笑)。引っ越し屋さんってちょっと下に見られがちというか、本当にきつい仕事なので、もうちょっとフィーチャーされてもいいんじゃないかなって思いますし、引っ越しの魅力をみんなに伝えられたらなって思います」。芸人としても社長としても、追求するのは「僕にしかできない、おもしろいこと」。それは近い将来きっと、お笑いの世界も引っ越し業界をも、にぎやかにしてくれるに違いない。

    ◇

たかくらひっこしせんたー 1982年生まれ。2006年にお笑い芸人「たかくら伝説」として活動開始。同時に引っ越しのアルバイトの経験を生かし、数多くの著名人の引っ越しを手がける。2010年に、放送作家の鈴木おさむさんの助言で「たかくら引越センター」に改名。その2年後には同名の軽貨物運送事業を立ち上げ、著名人だけでなく、東京都内を中心に広く一般の引っ越しも請け負う。詳細はホームページ(http://tmc4514.com/)で。

PROFILE

加藤千絵(かとう・ちえ)

ライター。東京外国語大学スペイン語学科卒業。約9年間、朝日新聞の夕刊や別刷りに執筆し、2012年以降は&Mの「ブラボー★NIPPON」をはじめウェブや雑誌、書籍などで活動する。週末はもっぱらサッカー観戦。趣味の俳句は今年で句歴10年を迎える(が上達にはほど遠く)。岐阜県出身。

小林浩志(こばやし・ひろし)

写真家。株式会社新建築社で編集部、写真部を経て独立。建築写真、デザイン、出版を主とした株式会社スパイラル(http://photo-spiral.co.jp/)を設立。以降、黒川紀章をはじめ、日本を代表する建築家の作品写真や書籍のデザイン、編集など精力的に活動している。

&Mの最新情報をチェック


&Mの最新情報をチェック

Shopping