小川フミオのモーターカー

大人のための楽しみ、モーターサイクル

  • 文 小川フミオ
  • 2013年1月10日
  

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 大人というのは、実は人生のいろいろな楽しみを知っているものだ。時として忘れるだけである。たとえばモーターサイクル。この10年でよく耳にするのが「リターン・ライダー」という言葉だ。ここ何十年もモーターサイクルに乗っていなかった人たちが、モーターサイクルに戻ってきている現象のようだ。その人たちは、40代、50代、そして60代だという。

 「リターン・ライダーと私たちが呼んでいるのは、10代、20代の頃、モーターサイクルに乗っていたけれど、そのあと離れていて、40代を過ぎ生活に余裕ができてから、再びモーターサイクルを買う方たちです」。国産旧車の専門店「ウエマツ」(東京・八王子)の峯尾真史営業部長が教えてくれた。

 1989年創業のウエマツのホームページを見ると、とりわけ今の50代、60代には懐かしいモデルが並んでいる。「特に人気は1982年ごろのモーターサイクルブームのモデル。当時買いたくてもお金がなくて買えなかった、という方などが乗るようです」(ウエマツの峯尾営業部長)

 あの頃の二輪界は百花繚乱だった。ヤマハの2ストロークモデルRZ(1980年)が高性能バイクブームの先鞭をつけ、DOHCの多気筒(4気筒)エンジンにプログレッシブレートの新構造リアサスペンション装着し、ツーリングでもワインディングロードでも楽しめる「マルチ」モデルがもうひとつの流れを作り、そしてスズキRG250ガンマのようなレーサーレプリカも。さらに50ccの馬力競争……。日本の二輪界がひとつの頂点をきわめた活気ある時代だった。

 「どのモデルがとりわけ人気ということはありません。1980年代に中古で乗っていたホンダ・ホークII(1977年)やスズキGS(1976年)にまた乗ってみたいという方もいれば、憧れていたホンダ・ドリームCB750フォア(1969年)やカワサキGPZ(1983年)などの大型バイクを買う方もいます」

 そう語るウエマツの峯尾営業部長の言葉はよく理解できる。当時モーターサイクルが好きだった人間が同社のホームページを見れば、色鮮やかに若き日々がよみがえってくるはずだ。「子育てが終わり“元気なうちに、あの楽しさを再び”と戻っていらっしゃるようです」と聞けば、なるほどと思わないでもない。

 一方、これまで二輪とは無縁だったが、やはり一度はモーターサイクルを楽しみたいと50代になってから買う人が多い、と教えてくれるのは、ハーレーダビッドソンだ。

 2012年に110周年を迎えた米国の老舗ハーレーダビッドソン。わが国では映画『イージーライダー』(1969年)で一般に知れ渡り、その後は断続的にハーレーのブームが訪れている。最近では、ハーレー好きの長瀬智也(TOKIO)が若い人に影響を与えているとも聞く。中年では、ジョン・トラボルタらがハーレーに乗るコメディ「団塊ボーイズ(Wild Hogs)」(2007年)がハーレーに再び目を向けさせるきっかけになったそうだ。

 「静かなブームになっています。私たちは、ハーレーオーナーズグループという日本では約3万5000人で構成されるオーナーズクラブを組織していますが、約9割が40代から60代のお客さまです。一度はモーターサイクルに、それもハーレーに乗りたいというお客さまは、大型免許を教習所でとれるようになった2007年夏から着実に訪れるようになっていらっしゃいます」。ハーレーダビッドソン新宿の金子直紀店長は、今の状況について語ってくれた。

 ハーレーダビッドソン新宿での人気モデルは、軽快なスポーツスター、低いシートにバーハンドルが雰囲気のダイナ、そして“これぞアメリカンモーターサイクル”と呼びたくなるような大型のツーリングという3つの流れに別れる。

 「初めてハーレーに乗ろうというお客さまは、コンパクトなモデルを選ぼうとなさいますが、試乗でいろいろ乗っていただくと、最終的には自分が最も欲しかったモデルをお買いになります」と、金子店長。「それが一番です」と言葉を継いだ。

 「私たちがハーレーに乗るのは憧れから」と話すのは、ハーレーダビッドソン新宿に休日、ふらりと訪れた大浜和史さん。音楽関係の仕事をしている60歳で、国産、欧州製と、いろいろなオートバイを乗り継ぎ、10年以上前にスポーツスター1200を購入してからはハーレー。「この間アメリカで『イージーライダー』と同じコースを使ったツーリングを経験して、死んでもいい、と思うぐらい楽しかった。昔からの思い入れがハーレー人気の根底にあるんでしょう」と語った。

 休日の高速道路のサービスエリアでは、二輪車を多く見かける。「ヘルメットを脱ぐと白髪、という方がけっこういらっしゃるでしょう。あれが今なんです」と指摘するのは、ウエマツの峯尾営業部長。欧州でもライダーにはオジサンが多い。その人たちが日曜日に峠に集まっては楽しそうに走っている。なみのスポーツカーよりはるかに昂揚感が味わえるモーターサイクル。速度の制御を含めて、これに乗るのは、実は大人のための楽しみである。

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

クルマをはじめ、モノやグルメやファッションなどを対象とするライフスタイルジャーナリスト。6年前にドゥカティ・モンスターを手ばなして以来、モーターサイクルとは無縁だが、モーターサイクルがある生活はやはりいいなあと思う。欲しいのは、BMW R80(1984年)。

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