せっけん箱で「究極のエコ&爆笑」カー・レース

  • 文&写真 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
  • 2013年7月24日
パリ郊外で7月7日に開催された『ソープボックス・レース』。コースは全長500メートル。途中突起やバンクあり

写真:スタート台で。これは宇宙船を模した『エクストリーム・ミッション』のチームスタート台で。これは宇宙船を模した『エクストリーム・ミッション』のチーム

写真:クリエイティブ賞に輝いたチーム『レゴ・ギャング』クリエイティブ賞に輝いたチーム『レゴ・ギャング』

写真:最高タイムを記録して優勝した『刑事スタスキー&ハッチ』のフォード・グラン・トリノを模したソープボックス最高タイムを記録して優勝した『刑事スタスキー&ハッチ』のフォード・グラン・トリノを模したソープボックス

写真:デロリアンDMC12とドク。劇中の燃料はプルトニウムだが、彼の車にはスポンサーの清涼飲料水が差してあるデロリアンDMC12とドク。劇中の燃料はプルトニウムだが、彼の車にはスポンサーの清涼飲料水が差してある

写真:勢いがつき過ぎて、コーナーを曲がりきれない参加車も多数。そうした彼らにも温かい拍手が送られる勢いがつき過ぎて、コーナーを曲がりきれない参加車も多数。そうした彼らにも温かい拍手が送られる

写真:ゴール! 約1分のドラマが次々と展開されるゴール! 約1分のドラマが次々と展開される

 動力のない手作りの車に乗り、下り坂を走ることでタイムを競う『ソープボックス・レース』が、7月7日にフランス・パリ郊外で開催された。会場には約3万人の観客が来場し、ユーモラスな車とコスプレで挑戦する各チームに熱い声援を送っていた。

もっと詳しいレースの模様は写真特集で

■大人が魅了されたゲーム

 この『ソープボックス・レース』は、1934年にアメリカ・オハイオ州で始まった。子どもたちが自作の車で坂を下って遊んでいるのに興味を抱いた地元新聞記者が、自動車ブランド『シボレー』をスポンサーとして主催した。なお、ソープボックスとは、せっけんの業務用輸送箱に車輪と運転装置を付けたものに由来し、今日まで続いている。

 こうして子ども向けイベントとして始まったレースだが、多くの人々が魅了され、大人のゲームとしても開催されるようになった。今回パリで行われたレースは、清涼飲料水メーカー『レッドブル』が主催し、1999年から世界各地で催されてきたものである。フランスでは2010年にリヨンで開催されたが、予想以上の来場者が押し寄せたため、安全を最優先に考えた主催者が競技途中で中止したという。

■コスプレもエンターテインメント

 会場となったのは、パリを一望できるサン・クルー庭園である。庭園の面積は、日本の皇居の4倍に相当する460ヘクタールあり、最寄り駅からレース会場に到達するまでに30分以上も歩く。その途中には『レッドブル』の缶を1本3ユーロ(約390円)で販売するテントがところどころに設けられていた。

 会場でまず目に付いたのは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムマシン、デロリアンDMC−12を模した車とドク(科学者エメット・ブラウン博士役)扮する乗員だった。エンジンの部分にはエネルギー源として『レッドブル』の缶が差し込んである。スポンサーへの、にくい配慮である。

 フランスで有名な1964年のコメディー映画『サントロペの憲兵』に登場するシトロエン2CVを模した車もあった。このチームの紅一点で憲兵に扮したエミリーさんに、モチーフにした理由を聞くと「ルイ・ド・フュネス(主演のコメディアン)が大好きだから」と教えてくれた。スピードを競うだけでなく、参加者のコスプレも重要なエンターテインメントだ。車の製作期間は1カ月半だったという。

 各国の『ソープボックス・レース』で常勝のフィンランド・チームもいた。今回はバーベキュー・コンロ型での挑戦である。聞けば「先週、坂道でテスト済み」と言う。

■究極のエコレース

 午後2時。猛暑の中、いよいよ競技が開始された。500メートル・12%の勾配を1分前後で走る。車は規定のサイズ以内で動力を用いず、また「花火・爆竹禁止」といった諸ルールを守れば、なんでもありだ。ただし、乗員は2名まで。スタート台で乗員以外のチームメンバーが押し出すことは許されているが、その後の助けを借りてはいけない。出走前にステージ上ではパフォーマンスが求められ、多くのチームは趣向をこらしたダンスを披露した。

 コース途中には、路面突起やシケイン(速度を減速するために設置された小カーブ)、そしてバンク(横傾斜)付きのカーブが設けられている。それらを見事に通過する車もあれば、車軸を破損し、さらにはバランスを崩してバリアーに激突・大破する車もある。レースの進行とともに、コース左右には、そうした車が増えてゆく。

 最も痛快なのは、いかにも転がり抵抗や空力性能を考慮したような車よりも、今にも横転しそうなお笑い優先参加車が、意外にも粘り強くコーナーを抜けて好タイムを出したりすることだ。低燃費レースよりも、格段に愉快である。たとえゴールまで辿りつけず失格となった車にも、大きな拍手が送られる。果敢にコーナーに飛び込んで散っていった勇気も讃えられるのだ。

 全44台のチャレンジが終わったのは、夕方5時過ぎだった。最も好タイムを出したのは『刑事スタスキー&ハッチ』のフォード・グラン・トリノを真似た車に乗り、49秒で走りきったリヨンのチームだった。そして、審査員によるクリエイティブ賞は、玩具『レゴ』をイメージしたチーム『レゴ・ギャング』に贈られた。

 排気もなければ、騒音もない。究極のエコレースだ。他のカー・イベントでは決して得られない幸せ感が『ソープボックス・レース』にはある。

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PROFILE

大矢アキオ

大矢アキオ(おおや・あきお) Akio Lorenzo OYA

コラムニスト。東京生まれ、国立音大卒(ヴァイオリン専攻)。二玄社『SUPER CAR GRAPHIC』編集記者を経て、1996年独立、イタリア・シエナに渡る。現在雑誌・webに連載多数。実際の生活者ならではの視点によるライフスタイル、クルマ、デザインに関する語り口には、根強いファンがいる。テレビ・ラジオでも活躍中。主な著書に『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』(光人社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)。電子書籍に、iPad/iPhone/iPod touch用『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)。最新刊に『イタリア発シアワセの秘密 笑って!愛して!トスカーナの平日』(二玄社)。

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