イタリアの最新型霊柩車は『レヴォン』

  • 文 大矢アキオ
  • 2013年8月2日
霊柩車専門カロッツェリア、ビーエッメ・スペシャルカーズ社の最新作『レヴォン』

写真:全高は1860mm。エンジンは『ランチア テーマ』のラインナップの中から、3リッターV6ターボディーゼルが選ばれている全高は1860mm。エンジンは『ランチア テーマ』のラインナップの中から、3リッターV6ターボディーゼルが選ばれている

写真:棺収納室。トレーを引き出すと、LEDライトが点灯する棺収納室。トレーを引き出すと、LEDライトが点灯する

写真:ベース車両の『ランチア テーマ』のものをモディファイしたフロントフェイスベース車両の『ランチア テーマ』のものをモディファイしたフロントフェイス

写真:高速道路の追い越し車線を走行する霊柩車高速道路の追い越し車線を走行する霊柩車

 イタリアのビーエッメ・スペシャルカーズ社が、最新型霊柩車『レヴォン』を発表した。

 同社は、北部パドヴァに本拠を置く創業二十数年の霊柩車専門カロッツェリア(ボディー製造会社)である。

 『レヴォン』のベースは現在の『ランチア』における最高級特製ワゴン車『テーマ』だ。ストレッチ(延長)されたボディーの全長は『スマート』の約2.3倍に相当する6450mmに及ぶ。ホイールベースも、一般的コンパクトカーの全長を上回る4120mmに達する。そして棺を収める後部には、優雅さを演出すべく高輝度LEDライトが用いられている。

■イタリアの葬儀

 イタリアの霊柩車を紹介するには、この国の葬儀に関しても説明する必要がある。

 ちなみに筆者が最初に住んだ家の前には霊柩車の保管庫、三番目に住んだ家の前には、たびたび葬儀が行われる教会があった。地方文化が色濃く残る国なので、一概にはいえないことを断った上で、記すこととする。

 イタリアの葬儀は大抵の場合、地元にある故人ゆかりの教会や、病院附属の教会で行われる。葬儀は短いときは30分もかからない。服装は筆者が住むシエナの場合、参列者は特に派手でなければ黒でなくても構わない。葬儀に持参する花は子どもが死亡したとき以外、明るい色でも良い。教会の外で葬儀開始を待つとき、普段のようにサングラスをかけている人もいる。住み始めた当初、その習慣を知らなかった筆者は、何か「危ない」人物の葬儀に遭遇してしまったのかと思ったものだ。

 さて、霊柩車が登場するシーンである。これも最初は驚いたが、参列者全員が拍手をする中、棺が積み込まれる。花が車内に載せきれない場合には、ルーフ上にも積む。霊柩車は神父を載せて墓地へと向かい、後方には参列者の車が続く。

 最近では一部で火葬も行われるようになってきたが、イタリアは伝統的に土葬である。墓地が平地式の場合は棺を地面に埋める。壁面式の場合は箱形に仕切られたスペースの中に棺を入れ、煉瓦で蓋をした後、銘板(めいばん)を貼り付けて終了だ。そこで現地解散となる。

 通夜や香典の習慣はない。かわりに、参列できない場合は、故人の家族に手書きでお悔やみの手紙を送る。

 日本の伝統的な葬儀より、かなり簡素である。実際、こうしたしきたりを知らない頃、ある遺族に「いろいろと準備が大変ですね」とねぎらいの声をかけたら、相手から「何が?」という答えが返ってきた。参考までに、あるローマの葬儀社によると、葬儀一式の価格は棺や霊柩車のクラスで6段階に設定されていて、最も安いものは790ユーロ(約10万円)、高いものは3250ユーロ(約43万円)である。

■明るい車内にハイテク満載

 今回『レヴォン』を発表したビーエッメ・スペシャルカーズ社は従業員十数名、年間生産台数約100台で、彼らの得意とするところにハイテクもある。以前見せてもらった作品は、サイドウインドーに小型液晶ディスプレイが装備されていたので、聞けば「遺影などを投影するため」だという。

 小さな村では教会から墓地まで、徒歩の参列者を従えて低速走行する場合があるが、そうしたシチュエーションへの対応も万全だ。後方の人々の歩みの速さを見るリアビューカメラ、彼らのまぶしさを防ぐブレーキランプのカットオフ・スイッチ、さらに助手席の司祭の祈りを拡声するスピーカーまで装備されている。

 高速走行における安全性も重要だ。遺体入りの棺は200キログラム以上になる場合が多い。万が一衝突時に棺が前方に投げ出されても乗員にダメージを与えないよう、仕切りは特別につくられている。

 『レヴォン』の価格は13万ユーロ(約1700万円)である。専業カロッツェリアの手づくりであることを考えると、決して高いとはいえないだろう。

 ところでイタリアの霊柩車は一般的に巨大なガラス張りで、それはストレッチしたボディーでさらに強調されている。日本では葬儀参列者以外あまり衆目にさらされることがない棺を、なぜ周囲の人に見えるようにするのか? いにしえの聖職者のミイラや、指・骨など人体の一部を保存しているのは珍しくない光景である。遺体は恐しいもの・忌み嫌うものではなく、崇めるものなのだ。同時に、棺の周囲に置かれたおびただしい数の花は、故人が生前人々に親しまれていたことを物語る。

 イタリアの霊柩車は、そうした死者との「明るい付き合い」を象徴するものともいえる。最後のドライブは、最新型霊柩車『レヴォン』で。(写真 Biemme Special Cars/Akio L. OYA)

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PROFILE

大矢アキオ

大矢アキオ(おおや・あきお) Akio Lorenzo OYA

コラムニスト。東京生まれ、国立音大卒(ヴァイオリン専攻)。二玄社『SUPER CAR GRAPHIC』編集記者を経て、1996年独立、イタリア・シエナに渡る。現在雑誌・webに連載多数。実際の生活者ならではの視点によるライフスタイル、クルマ、デザインに関する語り口には、根強いファンがいる。テレビ・ラジオでも活躍中。主な著書に『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』(光人社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)。電子書籍に、iPad/iPhone/iPod touch用『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)。最新刊に『イタリア発シアワセの秘密 笑って!愛して!トスカーナの平日』(二玄社)。

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