わたし遺産

「知ってもらいたい」との素朴な思いを大切に 栗田亘さん

  • 2015年10月19日

写真:「数字や統計では見えない、実の暮らしや実の生き方が『わたし遺産』にはある」と語る栗田亘さん 「数字や統計では見えない、実の暮らしや実の生き方が『わたし遺産』にはある」と語る栗田亘さん

 人類が未来へと引き継いでいく世界遺産のように、私たち一人ひとりにとってかけがえのない「人、モノ、コト」を後世に伝えていく……。そんな「わたし遺産」の受け付けが始まった。今年で3回目の募集となる。どんな視点で題材を考えればいいのか。前2回に引き続き今回も選定委員を務めるコラムニストの栗田亘さんに語ってもらった。

――前2回の作品を通して感じたことを聞かせてください

 アンリ・カルティエ=ブレッソンという写真家が撮った、有名なモノクロ写真があります。水たまりをポイッと飛び越える男性、水面に映る姿、周りの駅の風景が、人々の頭に残って離れないわけです。日常の風景だけど、一枚で当時のことが想像できる。ベストなシャッターチャンスの瞬間です。

 その一瞬に近いものを、「わたし遺産」の応募作品からも感じました。娘の手から離れた風船を若者が取り戻してくれたという話も、心が触れ合うことが今の世の中でもあるんだという、すてきな瞬間です。

 作品ごとに、場面場面は違います。セピア色の思い出のアルバムだったり、一瞬の写真というよりはムービーで捉えた普段の生活だったり。2回を経て「わたし遺産」の裾野が広がりました。私でありながら私たちでもあるような、共感度が高くてみんなを包み込んでいくような力が、第3回で感じられるのではと予感しています。

――7月に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」には、稼働中の工場なども含まれていて、世界遺産にも様々なタイプがあります。一人ひとりが未来へ伝えたい「人・モノ・コト」も、変わっていくのでしょうか

 変わるのではなく、回を重ねるごとに深まっていくのだと思います。「わたし」が思い浮かべる「人・モノ・コト」は、辞典に載っているよりも深くて広い。あれもモノ、これもコトで、材料は無数にあるわけです。深まっていくうちに、心や気持ちにたどりついたり、自由で柔軟な発想が増えてくると思います。

 例えば、昔は「鳥たち」「花たち」なんて言い方はしなかった。「たち」は、人間にしか付けない言葉でした。暮らしの中で、自分と自然との距離が縮まってきたのです。

 「わたし遺産」は、新しく発明された言葉で、人によって受け取り方が多様なところが魅力でもあります。「わたし」と「遺産」という、水と油みたいな組み合わせがうまく結合して、見事な結晶が出来上がるのを期待しています。

――400字以内で伝えるためのコツはありますか

 文章を書く時に、「誰に向かって伝えればいいのか」と尋ねる人がいます。僕が思うには、まずは自分に向かって書いてみる、ということです。自分が気に入らないものは、いろいろやってみても難しい。頭の中の記憶にあることや、いろんな体験をしたこと。「わたし」から出てきた言葉の切れ端を集めてつづってみると、普段は考えてもいなかったような、自分にとって大切なことがわかったりします。

 そこで、自分だけでしまっておくのはもったいないな、これをみんなに広げたいな、と思うんですね。誰かに何かを感じてほしいというのではなく、もっと多くの人に知ってもらおうという素朴なものが、応募作品には見受けられます。

 今まで文章を書いたことのない人でも、書こうと思えば誰でも書ける。作文の試験ではないのだから、うまい文章や完成された話は必要なくて、材料や発想力があればいいのです。

 過去の入賞者には、小学校低学年や20代のお母さんもいました。ただ、僕たちが作品を審査する時には、年齢や地域も伏せられています。どんな人が書いているのか、選ぶ側にも、想像を巡らす面白さがあります。

(聞き手・北林伸夫)

    ◇

栗田亘(くりた・わたる) コラムニスト。朝日新聞社会部記者を経て論説委員となり、2001年3月まで6年近く、朝刊の『天声人語』を執筆。早稲田大学大学院客員教授などを経て現在、日本エッセイスト・クラブ常務理事、日本ナショナルトラスト理事、『朝日川柳』選者(選者名・西木空人)。著書は『明日は、どうしてくるの?』(講談社)、『漢文を学ぶ』『ポケット川柳』(童話屋)、『リーダーの礼節』(小学館)、『おとなのための漢文51』(河出書房新社)など多数。

人類が「世界遺産」を未来へ引き継いでいくように、あなたにも未来に伝えのこしたいと思う「わたし遺産」はありませんか? 三井住友信託銀行は、あなたが次世代へのこしたいと思う大切な「人・モノ・コト」を「わたし遺産」として募集いたします。身近なものや、ふと懐かしく思いだす出来事など、些細なことで構いません。あなただけの物語(エピソード)と、のこしたいと思う理由を添えて400文字の文章にまとめご応募ください。三井住友信託銀行は、あなたの大切な「心の財産」も未来に伝えるお手伝いをいたします。信託の心、こんなところにも。詳細はこちら

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