わたし遺産

記憶が消えても記録は残る 穂村弘さん

  • <PR特集>
  • 2015年10月20日

写真:「個人的な思いをどんどん掘り下げていけば、伝わることもある」と話す穂村弘さん
「個人的な思いをどんどん掘り下げていけば、伝わることもある」と話す穂村弘さん

 人類が未来へと引き継いでいく世界遺産のように、私たち一人ひとりにとってかけがえのない「人、モノ、コト」を後世に伝えていく……。そんな「わたし遺産」の受付が始まった。今年で3回目の募集となる。どんな視点で題材を考えればいいのか。前2回に引き続き今回も選定委員を務める歌人の穂村弘さんに語ってもらった。

――あらためて「わたし遺産」という言葉から受ける印象は?

 どんなに経済的に苦しい人でも、「わたし遺産」がゼロという人はいません。例えば、あるモノが「わたし遺産」という場合も、モノそのものの価値ではなく、モノの背後にある物語のような価値が大切なんだと思います。それは誰も、直接には譲り受けることができない。だから、個人的な体験を残してもらうことの重要性はあります。

 過去の応募作品には、古き良き風習のような「わたし遺産」も当然あって。それも面白かったのですが、15歳ぐらいの子が予想外なものを書いてきたりして。若い人にも「わたし遺産」があるということが印象に残りました。

 3歳の女の子の言う「すごいなぁ!」がすごい、という母親の作品もありました。親や周りの大人からすると当たり前で、そういう感情はもう持っていないわけだけど、子どもは自覚なく言葉にしている。なるほど、そういう「わたし遺産」もあるのだなと。

 僕が子どもの頃は、カブトムシがすごく重要なものでした。捕まえた記憶はほとんどない幻のような存在で、憧れだけがあった。今はランキングが下がってますけど。当時のカブトムシほど、自分にとって重要なものがあったかどうか。あれほど熱狂的に何かを求めることは二度とないのかな、と思うと、その時の自分ごと貴重なのかなという気がします。

――毎日が忙しいと、大切なことをつい忘れがちになりますね

 感受性が落ちてしまっているのかも。もしも通勤の途中、目の前に火星人が現れても、「ちょっと今は急いでいるんで、他の人のところに行ってくれ」と言っちゃう。本質的にどちらが大きな出来事なのかはわかっているんだけど、火星人よりも今日の会議の方を優先してしまうのが、社会人のつらいところですね。

 でも、急に昔のことを思い出したりすることが、ありますよね。もう一度あの場所に立って感動を味わいたいと思っても、できないんだけど。言語で表現することによって、タイムマシンのように時間を再現することができると思います。

――ご自身はどんな時に「わたし遺産」を意識しますか

 僕も年を取るにつれ、自分だけに重要なものが何かということを考えるようになって。昔住んでいた辺りを、父親と見に行くっていうことを始めました。小学生の頃は引っ越しが多くて、自分の記憶だけでははっきりしないので。父親と一緒に行くことによって自己確認しようという発想は、20代の時にはなかった。

 これは、僕もヤキが回ったということなんですけど(笑)。でも、悪いことではない。自分にとって大事なこととは何かを知りたいというのは、すごく重要なことです。そうじゃないと、自分の価値観が、社会全体の価値観とイコールになってしまいますから。

 誰でも記憶に残っているのに、その理由がわからないものは、たくさんあります。言葉にできるのは氷山の一角です。伝えたいというのは、それを何かの形にしておきたい、ということ。形にしなければ、記憶は消えてしまう。でも記録は残ります。

 そこで、その人が何を残したいと思うかが、面白いところ。記憶の細部にリアリティーがあるほど意外性があります。オタクな人や、いろんな人の「わたし遺産」を見てみたいですね。

(聞き手・北林伸夫)

    ◇

穂村弘(ほむら・ひろし) 1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。研ぎ澄まされた言語感覚で 創作・評論ともに活躍。『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞、「楽しい一日」で第44回短歌研究賞を受賞。また、石井陽子とのコラボレーション『火よ、さわれるの(It's fire,you can touch it)』でアルスエレクトロニカ・インタラクティブアート部門honorary mention入選。近刊に『ぼくの短歌ノート』『にょにょにょっ記』、宇野亞喜良との絵本『恋人たち』。

人類が「世界遺産」を未来へ引き継いでいくように、あなたにも未来に伝えのこしたいと思う「わたし遺産」はありませんか? 三井住友信託銀行は、あなたが次世代へのこしたいと思う大切な「人・モノ・コト」を「わたし遺産」として募集いたします。身近なものや、ふと懐かしく思いだす出来事など、些細なことで構いません。あなただけの物語(エピソード)と、のこしたいと思う理由を添えて400文字の文章にまとめご応募ください。三井住友信託銀行は、あなたの大切な「心の財産」も未来に伝えるお手伝いをいたします。信託の心、こんなところにも。詳細はこちら

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

&Mの最新情報をチェック


&Mの最新情報をチェック

Shopping