複線型のすすめ

「タイガーマスク基金」を設立 笑っている父親(5)

  • 文 松崎幸治
  • 2013年7月30日

写真:保育園待機児童問題の解決を訴えながらデモ行進するファザーリング・ジャパンのメンバーたち=2009年4月、東京都渋谷区保育園待機児童問題の解決を訴えながらデモ行進するファザーリング・ジャパンのメンバーたち=2009年4月、東京都渋谷区

写真:安藤さんが代表を務める「タイガーマスク基金」の<a href="http://www.tigermask-fund.jp/" target="_blank" class="Blank" title="別ウインドウで開きます" rel="nofollow">ホームページ</a>安藤さんが代表を務める「タイガーマスク基金」のホームページ

 2009年4月、東京・渋谷駅のハチ公前交差点付近を、ベビーカーを押した親子ら約80人が「保育園を増やせ〜」と大きな声を上げながら「デモ」行進した。父親の子育てを支援する「ファザーリング・ジャパン(以下、FJと略称)」が2週間前、保育園待機児童問題について話し合う「緊急フォーラム」を開き、会の最後に代表理事の安藤哲也さん(50)が行った、この問題を世間にアピールしようという呼びかけに応えてくれた人々だ。FJのメンバーも、希望した子ども6人のうち3人しか入園が認められなかった。

笑っている父親(4)はこちら

 安藤さんは、小渕優子衆議院議員が少子化担当大臣に就任して間もなく役所に呼ばれて、少子化対策には父親支援が欠かせないといったレクチャーを行った。08年12月には「少子化対策プロジェクトチーム」のメンバーにも任命された。厚生労働省が行う「男性の育児休業取得促進事業」の入札の外部審査員にもなった。内閣府の「認定こども園協議会」では、役所の用意した文書の中に「父親の育児参加」という表現を見つけ、「参加」ではなくて「父親も主体的に育児にかかわる」と、改めさせたこともある。東京都の「子育て応援とうきょう会議」の実行委員も務めて、同会議と共同で父親相談事業も行った。

 国や自治体の活動に積極的に関与するのは、制度として父親が子育てをしやすい環境を作る必要があると考えるからだ。「四隅をおさえる」というオセロゲームの必勝法に例えながら、育児ができずにいる「黒」い父親を「白」くするには、四隅を「白」くしなければならないと説明する。その四隅とは、(1)国や自治体(2)企業(3)地域社会(4)家庭である。安藤さんはあらゆるチャンネルを使って、この4つのポイントへの働きかけを続けている。

 父子家庭を支援する活動にも力を入れてきた。09年には、企業や団体、個人からの寄付を原資に、年収300万円以下の父子家庭に1年間、毎月4万円支給する「フレンチトースト基金」を設けた。基金名は、米映画「クレイマー、クレイマー」(1979年)で父親役のダスティン・ホフマンが子どものために作った料理からとった。安藤さんの「学童保育」仲間だったシングルファザーが2年前、仕事や家事などの激務から夜中に脳疾患を起こし、7歳の子どもを残して亡くなったことがきっかけだ。FJにシングルファザーが加わり、父子家庭は経済面も含めて行政の支援が乏しいことが分かったことが、基金設立を後押しした。09年12月、第1回分として約190万円を支給した。

 自ら基金を作るだけでなく、母子家庭に限られていた児童扶養手当を、父子家庭も受給できるよう国に働きかける活動を支援した。10年5月、改正児童扶養手当法が成立し、年収365万円未満の約10万世帯の父子家庭が手当の対象に含まれることになった。

 10年末から11年初めにかけて全国の児童養護施設などへ、匿名でランドセルや文房具、現金が相次いで届き、「タイガーマスク現象」と呼ばれた。孤児院で育ち覆面レスラーとなった主人公が、ファイトマネーで孤児院の経営を支えるという漫画にちなんだものだ。この現象を一過性のものとせず、善意をすくい上げて社会的養護が必要な子どもらを支えたり、その実情を広報したり、児童虐待の予防を図ったりするために、「タイガーマスク基金」プロジェクトが、11年3月に発足した。漫画「タイガーマスク」の原作者と漫画家の妻が発起人となり、安藤さんが代表に就いた。

 コンビニチェーンがタイアップ商品1個売れるごとに2円寄付してくれたこともあって、1年弱で860万円余の寄付が集まった。子ども用品関連の会社の協力でマスク1袋(3枚入り)が売れるごとに10円寄付してもらったり、飲料メーカーが設置する自動販売機の売り上げから一定額が寄付をされたりする仕組みも作った。安藤さんは12年6月、この基金の活動に力を注ぐため、FJの代表理事を退任した。

 「FJを創設して5年で、父親支援事業も一定の流れができました。間もなく自分が50歳、3人目の子どもが4歳になることを考えると、より若い当事者世代が代表理事を務めた方が活動が理解されやすい」と、世代交代を決めた。後任は、15歳年下のシングルファザーだ。同時に、「タイガーマスク基金」事業をFJから独立させることも決め、基金は同年暮れにNPO法人として登録された。

 FJのメンバーが増えるにつれて、10年4月の九州支部を皮切りに、関西、東海、中国、千葉、文京区でも支部が設立されていく。FJのメンバーが独自のNPOを立ち上げる動きも続き、安藤さんがまいた種がいろいろな形で花開きつつある。安藤さんが活動を始める原点となった「パパ's絵本プロジェクト」も結成10周年を迎え、今年度、全国ツアーを展開中だ。

     *    *

 一昨年7月、安藤さんの父は82歳で亡くなった。亡くなる何年か前、安藤さんは実家で、古いアルバムや父の日記を見た。「日記からは、内心で母を大切に思っていたことや、私や兄、孫に対する愛情も読み取れました。写真のそばには『お兄ちゃんと遊べるようになって良かったね』というコメントもありました。母をしょっちゅう叱り飛ばし、笑顔を見せることのほとんどなかった父も、家族を愛してくれていたんだなと、分かりました。カメラの向こう側の父は、笑顔だったはずです」

 (「笑っている父親」の安藤さんのシリーズは、今回が最後です。次回からはFJのメンバーらを紹介します。8月6日には「絵本ナビ」社長の金柿秀幸さんの1回目を配信する予定です。)

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PROFILE

松崎幸治(まつざき・こうじ)

1957年、香川県生まれ。1982年、朝日新聞社入社。86年から大阪本社・社会部で裁判などを担当、『AERA』編集部、東京本社・社会部を経て成田支局長に。「成田空港問題」を連載して出版。99年から電子電波メディア局で「朝日新聞デジタル」の前身「asahi.com」の編集。知的財産センターなどを経て2012年からデジタル事業本部へ。現在、「朝日新聞デジタル」内の新ウェブマガジン「&M」担当。2001年から1年間育児休業取得。

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