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くるりの『アンテナ』は、ロックバンドの 刹那を閉じ込めた2000年代屈指の名盤

  • 記事提供:OKMusic
  • 2017年9月20日
  • 写真:『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』 (okmusic UP's)

    『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』 (okmusic UP's)

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すっかり毎年恒例の音楽イベントとなった感のある、くるり主催『京都音楽博覧会』が今年も京都府・梅小路公園が9月23日に開催される。今年はアコースティック編成のシンプルな演奏が中心だった例年とは異なり、“生歌謡ショー”形式での開催。“生歌謡ショー”形式とは何かと言うと、《【国内外の豪華アーティスト】+【京都音博のために結成された管弦楽団】+【脇を固める名うてのミュージシャン】によって、多くの素晴らしい名曲やヒット曲を演奏。わかりやすく言うと…。【フルスコアでの『君は薔薇より美しい/布施明』や『ジュビリー/くるり』などを演奏します】》(《》は公式サイトより抜粋)とのことである。常に楽曲優先の姿勢を貫いてきた彼ららしいコンセプトであり、例年以上に興味深い内容となりそうではある。今週はそんなくるりの作品をご紹介。

1作品だけでアーティストを語るなかれ?

『これだけはおさえたい名盤列伝!』と称して、毎週、日本のアーティスト、バンドの名盤1作品を紹介しているにもかかわらず、いきなりちゃぶ台をひっくり返すような話になって恐縮だが、1作品だけで完結するようなアーティスト、バンドというのは稀である。如何に優秀な作品であっても、それが突然、降って沸いたようにして生まれてくるようなことはない。Sex Pistolsの『Never Mind the Bollocks』とか、邦楽で言うならINUの『メシ喰うな!』のケースもあるが、まぁ、ともに1作品だけ出して解散してるから、これらは例外っちゃ例外(ともにパンクだが、このジャンルは短命なのだろうね)。優秀なアーティスト、バンドになればなるほどその人気を背景に何作も制作し続けていくし、傑作とはその中から生まれてくる。デビュー作がそのアーティスト、バンドの特徴をもっとも端的に表しており、1作品目が最高傑作ということもあるが、これとてその以後の何作品かの比較からそう認識されるわけで、やはり何作かアルバムを制作しないと本質は見えてこないのだろう。何が言いたいかと言うと、その活動歴が長くなり、作品数が多くなればなるほど、1作品だけでそのアーティスト、バンドを語ることはできないということだ。その最たる例はやはりThe Beatlesだろう。一般的には『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』が最高傑作と言われることが多いが、それも『Revolver』や『Rubber Soul』があれば生まれたのだろうし、『The Beatles (The White Album)』と比べてコンセプチャルな分、『Sgt. Pepper’s~』に軍配が上がるとか、そういうことだろう(『Sgt. Pepper’s~』はThe Beach Boys『Pet Sounds』との比較論もあるが、それを述べると長くなる上、面倒なので割愛御免)。

常に前作とは異なる作品を発表

日本で言えば、それこそ先週紹介したミスチルもそうだろうし、ユーミン辺りも1作品では語り切れないアーティストだが、その最右翼となれば、くるりの名前が上るのではないだろうか。ここまで発表してきた作品はどれも似てない…と言うと若干語弊があるかもしれないが、作品毎に常に変化し続けているバンドである。しかも、初期作品からして、それぞれに大分違う。これは結構珍しい。The Beatlesにしても、邦楽ではこれまたバラエティーに富んだアルバムを発表してきたユニコーン辺りも、1stから2ndくらいは似た手触りの作品を提示したものだが、くるりは1st『さよならストレンジャー』と2nd『図鑑』とがすでに雰囲気が違っていた。いずれもその後に続く実験的な指向は垣間見えるものの、1stでは「東京」「虹」のイメージからフォーキーなバンドとの印象があったが、2ndではシングル「青い空」で見せたエモーショナルなバンドサウンドを前面に打ち出しつつ、サンプリングやリミックスも取り込んでおり、明らかに作風は異なっていた。さらに続ければ、3rdアルバム『TEAM ROCK』と4th『THE WORLD IS MINE』とはテクノ、エレクトロニカの影響が表れている分、表面上は似た作品と捉えられるかもしれないが、3rd→4thは構成メンバーに変化があった。くるりは現在もバンドの中心である岸田繁(Vo&Gu)、佐藤征史(Ba)と、森信行(Dr)が結成時のオリジナルメンバーだが、4th『THE WORLD IS MINE』発売前に大村達身(Gu)が加入。4人編成となっている。

しかし、4th『THE WORLD IS MINE』リリース後には森が脱退。2002年、サポート・ドラマーを立ててアメリカツアーを敢行するが、そこで出会ったドラマー、クリストファー・マグワイアがバンドに加わることになり、翌2003年に5th『アンテナ』の制作をスタート。05年にリリースした。この『アンテナ』がまた、それまでの作品とガラリと異なるものだった。前作までのデジタル色が排除され、オールドロックの匂いの濃い生々しいバンドサウンドが全編を支配している。レコ発ツアーでは初の日本武道館公演も実現させ、そのライヴパフォーマンスも大歓迎されるが、わずか1年足らずでマグワイアが脱退。その後、しばらくの間──というよりも、2016年に田中佑司(Dr)が約半年間、正式メンバーとなったものの、くるりは現在まで、ほぼ固定ドラマーがいないまま、活動を続けている。

『アンテナ』以後、岸田と佐藤とがCoccoと立ち上げたプロジェクトバンド、SINGER SONGERでの活動を挟んで、6th『NIKKI』を2005年に発表。夏のフェスでヘッドライナーを務めたり、2006年にはベスト盤をリリースしたり、活動自体は順風満帆に見えたが、7th『ワルツを踊れ Tanz Walzer』の制作前に今度は大村が脱退する。『ワルツを踊れ Tanz Walzer』はウィーン録音作で、オーケストラやストリングスを取り込んだ、ロックとクラシックとを合わせた作品。それまでのコード進行があってメロディーを作る方法とは逆で、メロディーからコードを決める作り方だったそうで、楽曲にギターが入り込みにくい曲作りだったことが大村脱退の主たる要因だったという。『ワルツを踊れ Tanz Walzer』リリース後は初のホールツアーを開催し、その翌年2007年には現在まで続く、くるり主催の京都野外フェスティバル『京都音楽博覧会』を開催している。──と、メジャーデビューから大凡10年間の活動を振り返ってみても、メンバーチェンジも含めて、実にいろんなことを体験してきたバンドであることが分かるし、それゆえにその作品の性質が作品毎に異なってきたこともファンならばご存知と思う。

アナログ録音、一発録りのロック盤

そんなくるりだけに、その名盤を…と依頼されても選ぶのは至難の業。いや、これで作品のクオリティーが異なるなら比較的選び易くもなるだろうが、どれもこれもハイクオリティーときているから、本当に選ぶのが大変だった。なので、今週はいつもに増して“独断”を強調させてもらいたいし、その点をご了承いただいた上でご一読いただきたい。『TEAM ROCK』とどちらにするか最後まで迷ったが、ここは『アンテナ』でいきたいと思う。例えるならば、延長18回引き分け再試合で自力に勝る『アンテナ』のサヨナラ勝ちといった感じだ。『TEAM ROCK』でのエレクトロニカの取り込み方は素晴らしいし、特に「ワンダーフォーゲル」は邦楽史上屈指の名曲だと思うが、演奏の強度というか、容赦のないロック感で『アンテナ』が勝ると思う(ていうか、筆者は『アンテナ』のほうが好きなんです)。まず、音がいい。アナログテープに録音してアナログ卓でミックスしたというが、そのアナログ感が如何なく発揮されている。しかも、人力にもこだわり、演奏はほぼ一発録り。あえてクリックはあまり使わずに、その場の空気を閉じ込めることに注力したという。M2「Morning Paper」、M5「Hometown」、M7「黒い扉」、M10「How To Go 」辺りが分かりやすいだろうか。泥臭い音で、なおかつ演奏がダイナミック。Led Zeppelin、Pink Floyd、Yes、The Bandらを引き合いに出すまでもなく、オールドロックへの傾倒をビシバシ感じるが、それを2000年代に現実のものとしたのは、やはりすごいと言わざるを得ない。上記のようなダイナミズムあふれる楽曲だけでなく、緻密なアンサンブルで構成されたものも多種あり、決して能天気なアルバムとなっていないのはさすがと言うべきか、くるりらしさと言うべきか。演奏のガツンとした感じは前面に出てはいるが、バラエティーさはしっかりとある。ストリングスを配したM1「グッドモーニング」。モロにサイケデリックなM3「Race」。エキゾチックな印象のM8「花の水鉄砲」。弾き語りM9「バンドワゴン」。サイケっぽさはM3「Race」以外にも随所にあり、彼らのロック観がよく分かる作りでもあると思う。

人生哲学が感じられる歌詞の味わい深さ

演奏面に集中したからなのか、歌詞は少ないというか、短いものが多く、一見、個別のメッセージ性はほとんどない印象だが──。

《夜行バスは新宿に着いた 予定より三十分早く/冬の真夜中のようさ/白い息は道標にもなりゃしない/やけに広い横断歩道手を引き渡る/何処へ向かう》~《君は眠る不安残るまなざしで/僕の上着を枕にして 手があたたかい/口づけをした/夢は歩むここから始まる/スクランブルは広がってゆく そこらじゅうに/歩いてゆく 歩いてゆく》(M1グッドモーニング)。

…というオープニングナンバーから始まり──。

《裸足のままでゆく 何も見えなくなる/振り返ることなく 天国のドア叩く》(M4「ロックンロール」)。

《未だ見ぬ世界またいで先へ行く花びら/風吹く未来またいで先へ行く花びら》(M6「花火」)。

さらには、《繋がるくらい実は簡単だ/離れること でもこれは面倒》となかなか意味深なフレーズのM8「花の水鉄砲」を経て、下記のラストM10「How To Go 」に辿り着くという構造は、かなり味わい深い。

《いつかは僕達も離ればなれになるのだろう/僕達は毎日守れない約束ばかりして朝になる》《いつかは想像を超える日が待っているのだろう/毎日は過ぎてく でも僕は君の味方だよ/今でも小さな言葉や吐息が聴こえるよ》(M10「How To Go 」)。

解放感を示唆しつつも、それが過渡期のものであることをどこかで認識しているかのような内容にも思える。ことさら自身のことだけを綴ったものではないだろうが、その後のくるりの歩みを勝手に加味すると、余計にヒューマニティーを感じるというか、人生哲学を感じざるを得ないところもある。これは独断というよりも偏見と言ったほうがいいが、そんな刹那な印象が一発録りのサウンドと重なって、圧倒的な実存感として立ち上がってくる。こんなアルバムを名盤と言わないで何と言えばいいのか。邦楽屈指の作品のひとつであることは疑いようがない(今週は名盤紹介というよりも、ほとんどアーティスト紹介でした…)。

TEXT:帆苅智之

アルバム『アンテナ』

2004年発表作品

<収録曲>

1.グッドモーニング

2.Morning Paper

3.Race

4.ロックンロール

5.Hometown

6.花火

7.黒い扉

8.花の水鉄砲

9.バンドワゴン 

10.How To Go

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