加賀見商店・店主の目利き

<第25回>革新を伝統にする『ブルックス ブラザーズ』

  • 文 加賀見徹
  • 2013年5月10日

写真:『ブラック フリース バイ ブルックス ブラザーズ』『ブラック フリース バイ ブルックス ブラザーズ』この商品の詳細はこちら

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写真:『ブラック フリース バイ ブルックス ブラザーズ』
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 2012年11月6日配信から始まったこの連載コラム「加賀見商店・店主の目利き」は、今回の<第25回>が最終回になります。取り上げたいアイテムはまだたくさんありますが、最終回にふさわしいものとして、私が年間200日強着用している『ブルックス ブラザーズ』のオックスフォード地ポロ・カラー・シャツを紹介します。私はこのシャツをスーツ・スタイルからジーンズなどのカジュアル・スタイルまで幅広く合わせています。イタリア、イギリス、フランス、そしてアメリカの他ブランドのものも着用しますが、最も愛用するブランドのものになります。

 それでは『ブルックス ブラザーズ』について簡単に触れておきます。

 『ブルックス ブラザーズ』は、アメリカの紳士服・婦人服専門店で、アメリカン・トラディショナル・スタイルの代表的なブランドとされています。

 セオドア・ルーズベルト、ジョン F.ケネディ、ジョージ・ブッシュ、ビル・クリントンなど歴代アメリカ大統領に愛され、エイブラハム・リンカーンは『ブルックス ブラザーズ』のフロック・コートを着て就任式に臨みました。その5週間後、フォード・シアターで暗殺された時に着用していたのもそのコートだったようです。

 クラシックなアメリカン・スタイルを好んだスタイリッシュな有名人として、ダグラス・フェアバンクス・シニア、ケリー・グラント、ルドルフ・ヴァレンチノ、クラーク・ゲーブル、フレッド・アステア、ゲーリー・クーパー、そして歴史上最もダンディーといわれている一人、ウィンザー公も顧客として挙げることができます。

 1818年、ヘンリー・サンズ・ブルックスにより『H.&D.H.Brooks&Co.』としてニューヨークに創業されました。その後1850年には『ブルックス ブラザーズ』に改名。シンボル・マークとして、リボンに吊るされた子羊、ゴールデン・フリース(金羊毛)を導入しました。現在でもブランドの象徴になっているこの子羊は、華麗な過去を持っていたのです。

 15世紀のヨーロッパ。さまざまな活躍を見せた騎士たちの中でも、華やかさによっても一際輝いていた騎士団がいました。バーガンディ公フィリップス3世によって創設された彼らの名こそ、ゴールデン・フリース騎士団でした。火打ち石や火打ち金を刺繍(ししゅう)した真紅のローブに、白のサテン・ライニングを施した紫の長いベルベットのマント、そして金糸でししゅうした紫のベルベットの帽子。スタイリッシュでも名を馳せた、その騎士団の証になったのがリボンに吊るされた子羊の紋章でした。

 イギリスにおいても長い間、毛織物業界のシンボルとされてきたゴールデン・フリース。『ブルックス ブラザーズ』が目指す最高級の品質を表します。

 1896年、革新が伝統になります。今や世界で定番のアイテムになっているボタン・ダウン・カラー・シャツ。『ブルックス ブラザーズ』では「ポロ・カラー・シャツ」と呼ばれるこのシャツの起源は、創業者の孫ジョン・E・ブルックスの発見にありました。

 買い付けのためにイギリスに出張していた時のことです。ポロの試合を観戦中に、選手の一挙一動を追う視線が一点に注がれました。視線の先には、選手が着用しているシャツの襟。ポロ競技用にデザインされたシャツの襟は、風にあおられてプレーの邪魔にならないようにボタンで留められていました。

 帰国後、ニューヨークにある『ブルックス ブラザーズ』の工場でそのシャツを基に研究、開発されたのです。ポロ・カラー・シャツと名付け、初めて世に出したことでも有名です。今ではどのブランドでもつくられ、定番のアイテムになっているため、これがどれほど革新的なものであったか想像しづらいかもしれません。117年の時を経ても、古くなることなく愛され続けているという事実だけでも、その「ささいな思い付き」の価値が分かります。

 さて、このポロ・カラー・シャツには3種類のフィットがあります。<1>トラディショナル・フィット:ゆったりと着こなしたい人のためにデザインされています。生地をふんだん使用し、背をボックス・プリーツにすることで、ゆとりのある着心地を生み出しています。<2>スリム・フィット:トラディショナル・フィットよりも細身にデザインされています。背にはボックス・プリーツがあり、そのスタイルやディテールはトラディショナル・フィットと同様に仕立てられています。<3>エクストラ・スリム・フィット:最も細身にデザインされています。ボディー全体を細身に、袖付けの位置を高くした仕上げが特徴です。身頃や袖付けあたりに見られる生地のもたつき(たるみ)が解消されています。私が、日々愛用しているものもこのフィットです。

 「最高品質の商品だけをつくり、取り扱うこと。適正な利益のみを含んだ価格で販売し、こうした価値を商品に求め、その価値を理解できる顧客とのみ取り引きすること」。創業者ヘンリー・サンズ・ブルックスが理念として掲げ、今日まで伝承されてきた言葉です。頑なまでに守り通してきた品質と価格は、風化することなく生き続けています。

 『ブルックス ブラザーズ』は伝統を大切にしつつ、新たな境地の開拓にも挑戦し続けます。近年ではニューヨーク・ファッション界のトム・ブラウンをゲスト・デザイナーに迎えたコレクション『ブラック フリース バイ ブルックス ブラザーズ』も展開しています。

 アメリカで最も歴史のある紳士服専門店の、そして117年もの間、世界で愛され続けている元祖ボタン・ダウン・カラー・シャツの「ポロ・カラー・シャツ」。革新を伝統にした逸品を、自分の体型や好みのフィットで、この機会にいかがでしょうか。当然ながら、長年の着用と洗濯によって襟や袖口が擦れ、生地も薄くなっていきます。それが経年変化の“味”になり、自分だけのダメージ加工として、あるいは部屋着として、第2ラウンドも楽しめます。

 今までご愛読・ご注文をいただきました国内外の方々に、心より感謝します。どうも有難うございました。(加賀見商店・店主/加賀見徹)

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PROFILE

加賀見徹(かがみ・とおる)

1964年、東京都生まれ。『POPEYE』『Esquire日本版』『GQ Japan』『marie claire bis Japon』『中央公論』『婦人公論』『AERA』の各編集部を経て、現在はウェブマガジン『朝日新聞デジタル &M』編集部。「ショッピング」では実在しない架空のお店『加賀見商店』の店主を務め、気持ちだけはイタリア、イギリス、フランス、アメリカ、日本など国内外での展示会・買い付けに飛び回る。著書に『スタイリストになるための練習問題100』(雷鳥社)がある。『sesame』(朝日新聞出版)で「親子で読みたい本」を連載中。人・物愛好家。

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