遅ればせながらリニューアルした伊勢丹へ行ってきた。仕事の帰りにハイヒールの踵(かかと)が壊れてしまったので仕方ない。去年は着ていくところなど全くないのに気がつけば散財しており確定申告で震えが止まらなかったので、今年はもう洋服買わないんだぜ! と誓ったわたしだけれど、裸足で帰るわけにはいかないしね!
春夏はヴァレンティノのレースとロック・スタッズの組みあわせにも目をつむり、ボッテガのうっとりするよなヌーディ・カラーに手を振って、そしてシャネルのワンピースはどれも見ないようにした。そして秋冬。送られてくるカタログの写真に溜(た)め息つきつき、なんて美しいのだろう……もう、何がどうなってもいいかなーと一瞬だけど思ってしまう。このタイミングで伊勢丹に来てしまった愚かなわたしなのだった。
恐ろしいのは当コラムでも再三書いている「日割り計算」。これは目のまえに高額かつ購入せねば1歩足りとも動けないほどに胸をわしづかみにされる品物に出会ったときに稼働するシステムで、「良い物を長く楽しむためには先送りにするのではなく今買うのが全方位的に最適解」という、なんだか尤(もっと)もらしい理屈によって支えられているの。光に吸い寄せられる蛾(が)のごとく、あるいは解き放たれた3歳児のように完全に伊勢丹と一体化していたわたしの両手には二時間後、いっぱいの紙袋が。
恐るべし日割り計算。いつだってわたしは値札についた金額を余生の日数で割ってきた。「そっかあ、1日240円かあ」なんて言って。でもね、ドレスなんて数回しか着ないのである。一年のうち350日は普段着なのである。日割り計算、根本的に間違ってる。
体はひとつなのに、や、ひとつだからこそやめられない、これぞまさにおめかしの引力。そして積みあがった買い物袋を前に、これからは日割り計算をやめて原稿用紙に換算しろよと声がします。むりむり。

1976年大阪府生まれ。2007年、初の小説『わたくし率 イン 歯―、または世界』が芥川賞候補に。2008年、『乳と卵』で芥川賞受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で芸術選奨文部大臣新人賞受賞。2011年、作家の阿部和重氏と再婚。2011年、『すべて真夜中の恋人たち』、2012年、詩集『水瓶』。
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