匠の相棒

この道具こそ靴職人の魂 斎藤融さんとピンサー

  • 文:LOCOMO&COMO 編集:スケロク
  • 2016年5月20日

靴職人の斎藤融さんの作業机と愛用の道具たち

  • 斎藤さんはフルオーダー形式で靴をつくっている

  • 顧客一人ひとりの足型に合わせて靴がつくられていく

  • 斎藤さんの仕事場に並ぶ道具たち

  • 日本人のための一足を追求する斎藤さん

  • 靴作りは「人と想いが繋がるツール」と話す斎藤さん

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 上質な本革が、職人の手によって一足の靴へと生まれ変わる。繊細さを必要とする靴作りは、職人の腕はもちろん、自分に合った道具を持たなければ成し得ない。

 靴作りと真摯に向き合い、最高の一足を求め続ける職人・斎藤融さんも使う道具にこだわりを持つ。

 靴作りで欠かせない道具はなにか、と斎藤さんにたずねると「ピンサーですね」と迷いなく答えが返ってきた。

 ペンチとハンマーの機能を持ち合わせたピンサーは、その風貌から和名で「ワニ」と呼ばれている。ラスト(足型)に沿うようにピンサーを使い、革を伸ばしたり固定する釘を打ち込む作業は、靴職人にとって肝となる部分であり、この出来栄えが品質の決め手になるという。

 斎藤さんはこの“相棒”との相性が靴作りを大きく左右すると説明する。

「自分の想い描く靴を形づくるために、このピンサーとの相性はとくに気を使っています。今ではステンレス製で量産されたものが主流となりつつありますが、私は鉄製でアンティークのものを使用します。これがなければ自分の本領を発揮できないんです。

 鉄製は使い込むほど手に馴染み、重さが釘打ちの際に余分な力を入れることなく作業できます。さらに、アンティークという部分も使い勝手の良さに大きく関わってきます。道具職人が一本ずつ手作業で作っているからです。

 靴職人が存分に腕を発揮できるよう、手の馴染みやすさや重量のバランスが絶妙に整えられているものが多いのです。一度この使いやすさに慣れてしまうと、ステンレス製のものは使えなくなってしまいますね」

 しかし、ピンサーを作る職人は激減してしまい、発注が難しくなっている。斎藤さんも、海外の骨董市やアンティークサイトで見つけるしかない。また、運良く鉄製のピンサーが手に入っても、錆びぬよう手入れを欠かさず、ペンチ部分のかみ合わせを微調整しながら使い込まなければ職人が使える「仕事道具」とはならないのだ。

オーナーのライフスタイルに合わせた靴作り

 斎藤さんは、顧客一人ひとりの要望をじっくり聞きながら、フルオーダー形式で足にぴったり合った靴を作る。はじめは手探りで、穴の中を進むような作業だったそうだ。

「お客さまの要望をどのように形にしていくのかが靴作りでは大切です。お客さまからヒアリングをする際には、どんな些細なことでも靴作りのヒントになりそうなことであれば頭のなかにストックしていきます。例えば『普段着はどんな格好なのか?』『どのようなアクティビティーをするのか?』など、お客さまとの何気ない会話の中にも参考になる要素がたくさんあります。それらを参考に、多種にわたる革の色やデザインの中から、お客様のための一足が生まれてくるのです」

 作業の中でも大切なものが「ラストメイキング」といわれる木型をつくる作業。足を測り、ひとつの木の塊からラスト(足型)を成型していく。ずっと履き続けてもらう靴を作るための要であるため、この工程だけで、実におよそ3ヶ月間を要するのだ。

日本人の靴を確立するために

 「イタリアであればシャープでエレガント」「イギリスであればクラシックでフォーマル」といったように、国によって伝統のスタイルはある。されども、最終的には職人のこだわりが特徴となって見えてくる。斎藤さんが目指す靴のスタイルは「力強さ」だ。

「欧米のラストを基準に考えると足幅が細く、踵が広い全体的にスリムなものが美しいとされています。しかし、日本人の足はそれとは正反対。足は幅広、甲高、そして踵が狭いのが特徴です。欧米の美しさに日本の足型を合わせれば当然、不格好と思われるでしょう。しかし私は、日本の風土に適応するため進化してきた日本人の足に、ほかの国では出せない『力強さ』を秘めていると感じています。いずれはそれが評価され、欧米のラストと肩を並べられるよう日々の靴作りに取り組んでいきたいですね」

 靴は西洋の文化であり、ラストを用いた製作方法は15世紀初頭の欧州にはすでに存在したといわれている。一方、日本に靴文化が入ってきたのは幕末であり、歴史の差は圧倒的だ。しかし、だからこそ日本人の靴文化には伸び代に期待ができるとも言える。未知なる可能性を求め、斎藤さんは日夜「日本人の一足」を追求し続けているのだ。

靴作りとは人と想いが繋がるツール

 取材の最後に斎藤さんは、自身の靴作りについて静かに語り始めた。

「私は靴作りを人と想いが繋がるツールと考えています。私が作る靴は、お客さまの想いがたくさん込められているからです。コミュニケーションが言葉のキャッチボールと比喩されるように、私が作った靴も履くことで、靴からはこだわりが、お客さまからは愛着が醸し出てくるのです。そうすることで長い時間、ご愛用いただけると思っています。そのような人と想いが繋がる靴をさらに高いレベルで作れるよう、私はさらに腕を磨く必要があると強く感じています」

 靴を作るのが職人の仕事だが、でき上がった靴が本領を発揮するのは使われてから。履く人の想いを紡ぐ靴は、斎藤さんのこだわりがちりばめられた結晶なのだ。

            ◇

 ものをつくり出すプロフェッショナルは、腕に見合う道具(相棒)を持っている。この連載では、ものづくりにかける情熱を聞きながら、匠の相棒を紹介しています。

今回の「匠」のプロフィール

斎藤 融(Toru Saito)

 神奈川県厚木市出身。大学卒業後、大手化粧品メーカーに営業職として勤務。やがて靴の世界に魅了され、浅草の靴学校で靴づくりの基礎を学ぶ。卒業後、更なる技術向上と知識習得のため、日本を代表する靴職人の一人である柳町弘之氏よりShoemakerとしての必要な技能と心得を学ぶ。2014年、自身のブランド「TORU SAITO」を発表した。
 斎藤さんのビスポークシューズ(オーダーメイドの靴)は「スピカ」(東京都港区元麻布)で販売している。

 同店のホームページはhttp://www.spica-inc.jp/service/bespoke-shoes/

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