匠の相棒

伝統のあめ細工を再興 吉原孝洋さんの和ばさみ

  • 文:LOCOMO&COMO 編集:スケロク
  • 2016年6月9日

できたてのあめ細工は木箱に吊し、熱を冷ます

  • 熱々のあめを素早く形作る

  • あめ細工師には欠かせない和鋏

  • 「あめ細工吉原」代表・吉原 孝洋さん

  • 店内には色鮮やかなあめ細工が並ぶ

  • カラフルな作品が生まれる

  • 「あめ細工吉原」で販売している可愛らしい作品たち(同店提供)

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屋台でエンタメをつくる「和ばさみ」

 「あめ(飴)細工」を見たことはあるだろうか。一昔前はお祭りの屋台でよく見かけたが、最近はすっかりめずらしいものになった。

 あめ細工師は、木箱の中に棒を入れてくるくると回し、棒につけた団子状の水あめをお客さんに見せる。そこから、あっという間に、団子は動物の形に早変わり。仕上げに筆で目を描くと、ポカンと口を開けた少年にできたてのあめ細工を手渡す。ものの数分の出来事ながら、そこにはひとつのエンタメが存在する。

 そんなあめ細工で欠かせない道具は何だろうか。あめ細工師・吉原孝洋さんは「和鋏(ばさみ)です」と教えてくれた。

 あめ細工は、すべて和ばさみと指だけで行う。5分も経つと固まってしまうあめを、素早く狙った形にするには、和ばさみとの相性が重要だ。

 「このはさみは日本に古くからある種類。握って使うので『握りばさみ』とも言われます。大きさは『寸』で表され、刃先も種類によってさまざま。私は、手によく馴染(なじ)み、刃先が鋭く、そして刃が薄いものを選びます。握り加減も大切ですね。U字に曲がっている『コシ』の部分で強さが決まります。私は少し強めのコシのものが調子よいです」

 はさみの素材は「青鋼」と呼ばれる高級な鋼だ。切れ味がよく、刃こぼれに強い青鋼ははさみ細工にうってつけだ。吉原さんは、同じ職人が作ったものを数本手に取って、自分の手によく馴染むものを選ぶという。

 筆者も実際にいつくか触らせてもらったが、どれも同じに感じられた。しかし、吉原さんは、わずかな刃先、重さ、コシの強さの違いがわかるという。ひとつのはさみを、コシの部分が金属疲労で折れるまで使い倒すため、吉原さんの木箱には、コシが折れてしまった和ばさみが詰まっている。

子どもの時の思い出が転職のキッカケに

 吉原さんは昔は料理人だった。料理修業でイタリアを旅していた時のことだ。イタリア人から日本の文化や歴史について、かなり深く質問されることが続いた。やがて吉原さんは、『これだけ海外の人が日本に興味を持っている、自分から日本文化を発信できるものは何かないか』と考え始めたという。

 そんな時、吉原さんの頭に、屋台のあめ細工師が、ものの数分であめのかたまりから様々な形を作り上げるさまを真剣に見ていた記憶が鮮やかによみがえった。吉原さんは「イタリアでの長旅を終え、日本に帰る飛行機の中ですでにあめ細工師になろうと決意していた」と笑う。

 思い切ってあめ細工師への転職を目指した吉原さんだが、特殊な職業だけにその技を身につけるまでは苦労の連続だった。

 そもそもあめ細工の専門学校はない。まずはあめ細工師を探すところから始まった。お祭りの屋台があればそこに駆けつけ、体当たりで弟子入りのお願いをする。何度も断られながらも、やっと弟子入りさせてくれる師匠が見つかった。その師匠の下で1年ほど修行し、さらに1人で1年修行した後、あめ細工師としてデビューした。それ以来、技を磨きながら、各地のイベントに出かけて実演したり、体験会を開いて積極的にあめ細工の魅力を紹介している。

新しいあめ細工の追求

 あめ細工は江戸中期に始まったとされる。伝統的な作品は干支の動物や鳥などで、それぞれの時代のお客さんのリクエストに応えて、種類が増えていった。

 吉原氏が独り立ちしてから4年ほど経った頃のことだ。あるお客さんから「どこを拠点にやられているんですか?」と質問された。あめ細工は行商が基本なので、当然拠点はない。最初は「面白い質問だな」と感じただけだったが、何度も同じ問いを受けるうち、どこかに拠点を構えて、お客さんに来ていただくスタイルもありだと思うようになった。

 そして、2008年、日本で初めてのあめ細工店舗「あめ細工吉原」が誕生した。現在、吉原さんのレパートリーは実に150種類以上で、販売している作品には、恐竜やカブトムシ、ペガサスもある。写真などをもとに、オーダーメイドの作品も作る。イメージできるものなら即興でも対応できるというから驚きだ。お店を持ったことで、3人の弟子を育て、職人技を後代に伝えることもできるようになった。

あめ細工の魅力を世界へ

 あめ細工師になると決意してから今年で15年。いま、吉原さんの活動の舞台は、フランス、イギリス、アメリカなど海外に広がった。

 「ようやく、(かつて出会った)イタリア人たちにも、日本文化を肌で感じてもらえるあめ細工を確立できました。海外で実演すると、言葉で説明するのとは比べ物にならないほど感動していただける。これからもたくさんの国であめ細工という日本の文化を知って、楽しんでいただきたい」

 あめ細工の伝道師として、吉原さんはこれからも歩み続ける。

今回の匠のプロフィール

吉原 孝洋(Takahiro Yoshihara)

 日本の伝統技能であるあめ細工を日本全国で披露している。伝統的なあめ細工に現在のデザインを取り入れ、「懐かしさ」を感じさせながらも新しいあめ細工を創作する。メディアへの出演も多数。

あめ細工吉原(東京都文京区千駄木1-23-5)
http://ame-yoshihara.com/

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