匠の相棒

私の絵は日本にあった 絵師アラン・ウエストさんの矢立

  • 文:LOCOMO&COMO 編集:スケロク
  • 2016年7月8日

和筆を操るために必要な「矢立」

日本で30年以上、日本画を描き続けるアラン・ウエストさん

 絵の題材として古くから親しまれている植物。アメリカ人画家のアラン・ウエストさんも、植物に魅了され、和筆で多くの作品を生み出している。

 葉のやわらかな輪郭、生命力を感じさせる葉脈。植物を紙の上で、うまく表現できないかと考えた時、理想をかなえてくれたのが和筆だった。

 「私が来日したばかりの頃は、日本画を勉強するため、たくさんの作品を見て回りました。そこで発見したのは、和筆を使うことにより、どの絵も優しく生命力が宿っているということでした。私も和筆を使いたいと強く思いました。でも、繊細な和筆はとても難しい。そこで私は、文字を書くときでも筆を使うことを習慣にしようと思ったのです」

 そう考えていた時、骨董(こっとうや)屋で矢立(やたて)を偶然見かけたウエストさんは、すぐに購入した。それから四半世紀、矢立との二人三脚が続いている。

矢立を肌に離さず身につけることで、ウエストさんは意のままに筆を操れるようになった

 矢立とは、書道の筆と墨壺がセットになった携帯用の筆記用具のこと。ウエストさんはこれを肌身離さず持ち歩き、筆づかいを習得したのだそう。今では和筆で自分が描きたい植物画を満足に描けるようになった。

日本画との出会いで完成した作品

 アラン・ウエストさんは、植物の絵を3歳から描きはじめ、9歳では油絵で表現することにも挑戦した。しかし、どれも自身が求める絵として完成しない。それを突き詰めると、水彩画や油絵で使われる「顔料」に問題があることに気づいたという。

 そう思い続けながら高校生になったある日、ウサギのにかわと大理石の粉末を混ぜたものが、理想に近い顔料だと発見した。自分では大発見だと思っていたその顔料だが、ある展覧会でこんな出来事があった。ウエストさんの画をじっと見たお客さんが「この技法は日本に古からある絵に似ていますね」とつぶやいたのだ。

 その言葉が、ウエストさんに日本行きを決意させた。

技法にしばられないからこそ、のびのびとした絵が描ける

 「一生、日本画を描き続けても良い」。来日して、一目見て日本画の虜(とりこ)となったウエストさんは、それ以来30年以上、日本で絵を描き続けている。幼いころから追い求めていた色や質感は、日本画と運命的な出会いを果たしたことで完成に近づいた。

いつ見ても発見がある絵を目指して

ウエストさんが描く絵にはメッセージがある

 だが、作品に対する良い評価が続くとは限らない。時には厳しく批評されることもある。ウエストさんにもスランプの時期が長く続いた。

 そんな中、ウエストさんは、ある寺の修復工事で内装の襖絵(ふすまえ)を描き上げることになった。修復は、建物の歴史を十分考慮しつつ、ほかの内装とも調和させることが重要となる。ウエストさんは、自分の個性を出し過ぎないことを心がけて描いた。

 しかし、完成してから数週間経ったある日、アトリエを訪れてくれた人に「あのお寺の襖絵はアランさんが描いたものですよね?」と質問された。

 できるだけ個性を抑えて描いたつもりでも、いつのまにか「自分の絵」の技法が出来上がっていたことに気づき、失っていた自信を取り戻したという。

 日本で絵師として活動して30年以上。ウエストさんが目指しているのは、生活空間に溶け込む絵だ。

 「家に飾るものならば、家と一体感のある絵を描こうと意識しています。そうすれば、何年たっても飽きがこない。そればかりか、絵を見るたびに新しい発見をすることができるのです」

 いつ見ても発見があり、それでいて、いつの時代も普遍的である。そんな絵を、ウエストさんは今日も追い求める。

今回の匠のプロフィル

アラン・ウエスト(Allan West) 

 1962年アメリカ、ワシントン出身。日本画家。幼いころから油絵を書き始め、カーネギーメロン大学在学中、日本を訪問したときに日本画と出会い魅了される。後に東京芸術大学大学院で日本画を専攻。世界各地で個展を開く一方で、1999年、東京都台東区にアトリエ「繪処 アランウエスト」を開設。日本画、屏風(びょうぶ)絵、掛け軸などの作品を精力的に発表している。

 公式HPはhttp://www.allanwest.jp/japanese/saishin.html

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