てんらん・はくらん

星野道夫 その崇高なまなざし

  • 文・森山葉月
  • 2016年9月1日

商品画像をクリックすると外部サイトへ移動します

代表作の一つ、「氷上でくつろぐホッキョクグマ」(撮影:星野道夫)

  • カリブーの季節移動を待つ星野道夫(撮影:星野道夫)

  • 会場では、アラスカで滞在した時に使用していた撮影機材やカヤックも特別に出展されている公式サイトはこちら

  • カタログ「没後20年 特別展 星野道夫の旅」。表紙に使われているのは「秋のツンドラに佇(たたず)むカリブー」

[PR]

 東京の松屋銀座で、写真家・星野道夫の展覧会「没後20年特別展 星野道夫の旅」が開催されている。

 入口からいきなり代表作が続く。「滝を越え遡上してきたサケとグリズリー」「氷の世界に生きるホッキャクグマの親子」。アラスカの冷たく澄んだ空気が一気に流れ込んできた。

 雪をかぶった山々を背景にムースの親子がゆったりと水を飲んでいる。静かな水面にさざ波が広がり、世界は完全に調和していて、足すものも引くものもない。

 星野はアラスカを拠点に、クマ、アザラシ、カリブーなどの野生動物や極北に生きる人々の写真を撮り、文章をつづった。亡くなって20年の今年、「BRUTUS」「別冊太陽」「Coyote」などの雑誌でも特集が組まれ、その仕事が改めて注目されている。

 筆者が最初に見たのはカリブーの写真だ。起伏のある大地を群れが移動していく光景に圧倒された。そしてホッキョクグマ、ムース、アザラシなど、今まで気に留めていなかった動物たちの表情まで、一枚一枚じっくり見るようになった。動物写真はいくらでもあるのに、星野の作品が多くの人をひきつけるのは、星野が動物にはらう敬意のようなものが写っているからだろう。

 星野は広大なアラスカを軽飛行機で飛んで目的地に向かい、長いときは数週間、テントに泊まって撮影する。再び飛行機が迎えにくるまで、自然の中にたった一人だ。

 1994年に筆者が週刊誌で短いインタビューをしたときは、自身の展覧会のため夏に来日していた。アラスカの夏は短い。いっせいに花が咲き、サケが川を上り、それをクマが食べる。撮影のチャンスだ。「いろんなことが一遍に起きる夏の一週間は本当に大事。早く帰りたい」とぼやいていたのが印象的だった。

 まるで人間のような仕草を見せるホッキョクグマ、ふわふわのアザラシの赤ちゃんもいれば、ジャンプするクジラの雄大な写真もある。なかでも圧巻はカリブーが集団で大移動する光景だ。大地を埋め尽くす群れをさまざまな角度からとらえている。

 動物だけではなく、インディアンの古老、エスキモーの子供たち、朽ちていくトーテムポールなど、厳しい自然と暮らす人たちの写真もおもしろい。

 星野は「先住民のエスキモーの視点で自然を見ていきたい」と語っていた。会場にはエスキモーがクジラ漁のあと、あごの骨を海に返している写真もあった。約250点の出品作からは、彼らと同じように、動物や自然を崇高なものとして見ていた星野のまなざしが感じられる。

    ◇

 カタログ「没後20年 特別展 星野道夫の旅」は、朝日新聞SHOPで販売中です。

 アラスカに魅せられ、かの地を旅した写真家・星野道夫の未発表作を含むおよそ250点の写真をフルカラーで収録。自然に対し常に謙虚に向き合ってきた星野の温もりがあふれる優しい一冊です。

    ◇

「没後20年 特別展 星野道夫の旅」

松屋銀座8階イベントスクエア:2016年8月24日(水)-9月5日(月)

公式サイトはこちら

今後は大阪高島屋、京都高島屋、横浜高島屋でも開催する。

&BAZAARの最新情報をチェック

&BAZAARの最新情報をチェック