匠の相棒

美しさと実用性の両立目指す 竹工芸家田中茂樹さんの割り包丁

  • 文:LOCOMO&COMO 編集:スケロク
  • 2016年9月30日

竹工芸のできを担う「割り包丁」の扱い

凛とした姿でヒゴを作る田中茂樹さん。材料作りは単調ながら奥が深いと語る

 竹工芸家の田中茂樹さんは、1907(明治40)年から続く、竹工芸「竹清堂」の四代目。竹清堂では、田中さん、父で三代目の旭祥さん、そして母の淳子さんの3人で竹を操る。

 店内には、箸や蕎麦(そば)ざるといった日用品や、照明やバッグといった特注品が並ぶ。店の奥には工房があり、作品の材料作りから仕上げまで、すべての工程を行う。

 竹は軽くて滑らかな質感をもち、抗菌性にも優れている材料。そのため最近では、健康志向の高い人が、日用品を求めに訪れるという。

軽くて手触りが良いと好評の日用品

工芸の家に生まれたことを誇りだと語る田中さん

 竹工芸では、「ヒゴ」と呼ばれる材料作りが、作品の善しあしを決めるといわれている。竹を磨き、縦に荒割りをする。次に表面の皮と内部の身を荒剝(は)ぎする。

 この割りと剥ぎの工程を繰り返し、決められた巾と厚みのヒゴが完成する。精巧な作品を生み出すためには、寸分狂わずに整えられたヒゴがなければ成し得ない。「この技を習得するには、早くても3年の修行は必要」と田中さんは話す。

 そのヒゴを作る際に欠かせない道具が「割り包丁」だ。

 割りと剝ぎの用途に特化した割り包丁は、片手で持ちやすく刃が丈夫な鉈(なた)の形状と似ている。田中さんの使用する割り包丁は、鍛冶(かじ)職人にあしらってもらった特注品。日々、使用する割り包丁へのこだわりは強い。

店内には、田中さんが手がけた、美しさと実用性を兼ね揃えた作品がそろう

 「この割り包丁は、一般的に売られているものより、刃を薄くしてもらっています。それによって、竹に刃を当てるだけで、後は繊維に沿ってスムーズに割けていきます。余計な力は、腕を狂わせるため、意のままに竹を割くには、この割り包丁がなければできませんね」

 鋼を素材として鍛えられた刃は、薄くても刃こぼれがないという。作品によっては、一日中、ヒゴを作ることもあるが、まったく疲れないという。田中さんの作品には、この割り包丁がなくてはならない存在なのだ。

祖父の一言が心の支えに

 四代目として家業を受け継ぐ田中さんは、竹工芸家になる前、飲食店からIT事業まで、さまざまな仕事を経験した。

 「この世界に入る前は、いろいろなことをやりました。家業が嫌いというわけではありません。ただ、当時はとにかく、いろいろなことをやってみたいという気持ちが強かったのです」

 だが、どの仕事もしっくりとこなかった。

 「自分は何がやりたいのだろう」

 悩む田中さんの足は、自然と実家の方に向いていた。竹工芸は、それまで当たり前のものとして自分の周りにあった。しかし、「うちはこんな伝統のある工芸をやっている。自分もやってみよう」と改めて思いたった。

 そして、ただ黙々と竹を割る数年が始まった。甘くない毎日だったが、辞めたいとは思わなかった。そのうち、竹工芸の魅力に取りつかれていった。基礎と応用の編み方を組み合わせることで、作品の趣向に幅が広がった。

 創作活動にいそしむ田中さんの心には、最期に立ち会ったとき、祖父が言った言葉が残る。

 「任せたぞ」

 短いが、思いのこもったその一言が、四代目をしっかりと支えている。

特注品の花かごは、色、編み方、形、すべてにこだわりが込められている

自分の竹工芸を確立するために

 田中さんが目標としているのは、父・旭祥さんに追いつくこと。旭祥さんは、伝統工芸において、国内外で高い評価を受けており、2008年には、その功績から紫綬褒章を受賞したほどだ。

 田中さんは、初めのうちは父の背中を追うべく、同じ伝統的な作品を中心に作ってきた。しかし、このままでは父に追いつけないと感じた。

 「父は、竹工芸の道を極めたといっても言い過ぎではない人です。その父に追いつくには、父と同じことだけをしていてもだめです。まず、自分が作りたい竹工芸はなにかを確立させることが重要だと思っています」

 田中さんは、美しく、かつ実用性を備えた作品を求める人が増えていると考え、新しい作品づくりに取り組んでいる。伝統的な竹工芸の特徴を生かしつつも時代に合わせた作品づくり。それが四代目の挑戦だ。

今回の匠のプロフィール

 田中茂樹(Tanaka Shigeki) 

 36歳。明治40年創業の竹工芸「竹清堂」四代目。21歳のとき竹工芸の世界に入る。美しさと機能性を兼ね揃えた竹工芸を目指し、創作活動に励んでいる。

 公式HPはhttp://chikuseidou.p1.bindsite.jp/
 作品掲載のInstagramはhttp://instagram.com/tanaka_shigeki‬

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