スポーツMONO語り

現役フットサル選手兼会社員が大切にする「お守りの指輪」

  • フットサル 星翔太選手
  • 2017年9月29日

提供:バルドラール浦安

 プレーや生き方で、私たちを勇気づけ感動させてくれるプロスポーツ選手。一つのことに打ち込み、それを極めて結果を出してきたアスリートには一種の凄みがあり、私たちはそこに憧れる。
 勝つために生活のすべてをかける彼らは、会社員と比べて引退が早く、その後の人生をどう歩むのか、経験と知識をどのように社会に生かしていくのか注目が集まる。今回は、現役フットサル選手でありながら、アスリートと社会の関わりに着目して、彼らが社会に出る仕組みをつくる『株式会社アスラボ』を立ち上げた現役フットサル選手、星翔太(32歳)に話を聞いた。

サッカーよりフットサルが面白い

Fリーグ『バルドラール浦安』星翔太選手
提供:バルドラール浦安

 5歳からサッカーを始め、中学3年で全国優勝を果たした星は、大学でフットサルと出会う。サッカーよりもボールに触れる時間が多く、一人で攻守を担うフットサルの楽しさに惹かれ、才能を開花させていく。フットサルには、ゴールまでの戦術を明確に立てて、チーム全体でその戦術通りにゴールしたときにサッカーとは別の気持ち良さがあるという。

  

 星は、大学在学時に関東フットサルリーグで史上初の3連覇を達成する。卒業後、千葉県浦安市が本拠地のフットサルチームでFリーグチーム『バルドラール浦安』に入団し、フットサル選手としての道を歩き始めた。

 2009~2016年には日本代表メンバーに選出され、2014年からはキャプテンを務めた。初めて日の丸を背負ったときは、どんな気持ちだったのだろうか。
 「サッカーの試合で国家を歌うシーンをテレビで見ていましたが、自分がピッチに立って初めて君が代を聞いたときは、これが国を背負うってことなんだと震えました。“キャプテンだからこうしなければいけない”という行動はありませんが、ゴールを求めるだけのプレーではなく、監督が言っていることを最も体現できる人になろうとしました。あとは、自分が楽しんでいるオーラは周りに伝わると思うので、苦しい時間も含めてすべてを楽しむ気持ちでプレーすることを心がけました。」

諦めても、明日はやってくる

 相手が格上だったり、プレーが上手くいかないときでも、それを楽しむスタンスは、24歳で移籍したスペイン1部リーグ『UDグアダラハラFS』での経験が生きているようだ。スペインはワールドカップで優勝するなど、世界でも最高峰のフットサル国内リーグがある国だ。短期の移籍ではなく、長く海外でプレーする覚悟をもってスペインに渡ったという。

 「スペイン移籍後のデビュー戦で打った1本目のシュートが決まって幸先のいいスタートでしたが、その後は点を取れない試合が続きました。ゴール前までに体力を使いすぎて勝負できなかったんです。2年目は開幕4試合で5点とって、その節のベストゴール賞を獲りました。そうなると僕に優秀なディフェンスがつくようになって、アシストするだけでゴールが決められなくなりました。」

提供:星翔太

 「当時は必死にやっているつもりだったし、周りの選手よりできていると思っていたけれど、それは自分勝手な評価でした。僕はチームが勝つためにできることをしていたけれど、周りは僕にゴールを求めているし、勝負どころでゴールを決めることを期待していた。外国籍の『助っ人』なので、スペイン人より結果を出すのが当たり前だったのに、そこが分かっていなかったんです。だから、スペインでは試合に出場できないこともあった。当時、どうして出場できないのか考えて細かい工夫をしていたけれど、実は“ゴールを取れないから出場時間が無い”というシンプルなことに向き合えませんでした。ただ、辛いから諦めるのは簡単だけれど、諦めても明日はやってくるわけです。辛さを乗り越えるために苦しみ続けられるかどうか自分が試されていたし、乗り越えて結果が出せたときはすごく幸せでした。」

スペインで学んだ「良い苦しみ」という考え方と指輪

 スペイン移籍の直前に星は結婚した。フットサルをしてきて出会った女性で、単身乗り込んだスペインでは結婚指輪がお守りになったという。

  

 「これから先、この指輪にどんな傷が付いていくかわからないけれど、指にしていることで、この先に起きる大変なことも家族で乗り越えていけると認識しやすいし、触ると気持ちが一つプラスの方向に動くんです。試合中はアクセサリーを付けられないので、ピッチに入る前に外して試合後にはめるまでがルーティーンになっています。たまに試合前に指輪を外し忘れることがあって、スタッフに預けるのですが、“こんなに重いものを持たせるな”って怒られます(笑)。」

  

 「家族が試合を観にくると、“ゴールを取らなくては”と意識することがあったのですが、怪我をしたのと子どもができたときに気持ちが切り替わって、自分が楽しめるようにリラックスして試合に臨めるようになりました。スペインにいた時に『良い苦しみ』という考え方を知って、それも参考になっています。これは『苦しむって良いこと』という感覚で、苦しい環境までいけるのは自分に対して周りからストレスがある状態で、そういう時こそチャンスだと捉えるんです。その時間を乗り越えて勝つと嬉しいし、苦しい時間を楽しめたら、その後は無限に楽しくなりますよね。」

31歳で大怪我、会社員としての一歩を踏み出す

提供:バルドラール浦安

 2016年、星は練習中に右膝関節前十字靭帯を断裂し、全治6ヶ月の怪我をおう。試合に出場できなくなった星は、以前から構想していたアスリートがスポーツを通して社会と繋がっていく仕組みをつくるために、現役フットサル選手のまま、プロデュース会社『株式会社エードット』にインターンとして入社した。入社の背景には、自身のセカンドキャリアに課題感を持っていたことがある。

 「僕自身もそうですが、セカンドキャリアはどんなアスリートでも抱える問題です。結果を残すために苦しんで、一つずつ成果を出していくのはアスリートも社会人も一緒です。しかし、引退後のアスリートを雇用する会社が無いのは、僕たちが社会を知らなくて、雇用される素養がないのかもしれないと思いました。僕は会社勤めを知らないから、まずは経験してみたいと思い入社しました。」

  

 フットサルから離れて会社員になることに不安は無かったという。
 「全治6ヶ月なら、逆に言えば6ヶ月後にはプレーできると割り切って、この時間は社会を学べるチャンスだと考えました。最初は、週3日をリハビリに当てて、2日出社して営業同行をして、名刺の渡し方・挨拶の仕方・電話のかけ方から教えてもらいました。スポーツ選手はスポンサーがいて、基本的にはリスペクトされている状態で人に会うけれど、社会に出たら僕という人間を通してしか見られない。今まで持っていたバーベルとプロテインをWord・Excel・PowerPointに持ち替えて、社会と格闘しました(笑)。本当に、教えてもらうこと全てが新鮮でした。」

フットサル選手が鬼の「本気の鬼ごっこ」はどう?

 2017年7月1日、星はエードットの子会社『株式会社アスラボ』を立ち上げ、10月1日には、スキルやマインドを伝えたいアスリートとプロアスリートに教わりたい人を繋ぐプラットフォームとしてWebサービス『アスラボ』をスタート。『アスラボ』を使ってレッスンやイベントを提供するアスリートは、アスラボ代表のフットサル日本代表の星翔太、元サッカー女子日本代表の永里亜紗乃、元ラグビーU19日本代表の君島良夫など。

 「今のアスリートは、お金を稼げるか・メディアに出ているか・有名かどうかで社会に評価されがちですが、アスラボは自分の武器を使って社会と関わった結果を大事にしたいと考えています。“スポーツをビジネスに”と言うと、まだ見え方が気になる部分があるのが現状ですが、アスラボはアスリートとお客様を繋ぎ、アスリートのスキルと運動体験機会に対価を支払うという仕組みをつくります。例えば僕なら、サッカーやフットサルで左足が苦手な人のためのシュート講座とか、リハビリで学んだヨガや呼吸法を生かしたヨガ講座とか、本気の鬼ごっことか。僕が鬼になって、鬼がめっちゃ足が早くてスタミナが切れないっていう鬼ごっこ(笑)。そういう非現実的な時間は、運動が苦手な人もアスリートもリフレッシュできて楽しいですよね。」

 アスリートは稀有な存在だから憧れられる。その能力を身近で感じられることは一般の人にとって貴重な体験になるだろう。また、アスリート自身がその活動を通して社会を学ぶことで、自身が苦手なことが把握できて自立につながるという。

  

2020年までは、死に物狂いで結果を出していく

 2007年にフットサルの全国リーグである『Fリーグ』が新設され、星が所属する『バルドラール浦安』も約8ヶ月に渡る長いリーグを戦っている。怪我が完治した後も、会社員とアスリートを両立することを選んだ星は、いまどんな目標を持っているのだろうか?

 「もちろんFリーグのチームがプロ化できたらいいと思っています。それはすぐには難しいかもしれないけれど、仕事との向き合い方が多様化して、社会がいろんな働きかたを支持してくれているなかで、フットサル界も多様化したらいいと思います。“様々な経験をしたFリーグのアスリートは人間力があるから、社会に出ても大丈夫だ”と言われるようになればいいな。僕個人の目標としては、Fリーグの冠スポンサーになって、アスリートにも運動が苦手な人にも見てもらえる優しいリーグにしたい。プレイヤーとしては、2020年のワールドカップに出たいです。それまでは、死に物狂いで競技者として結果を残すことにこだわっていきます。」

提供:バルドラール浦安

 競技者としても会社員としても、アスリートの未来に向けて踏み出した星選手。未来のアスリートの夢が潰(つい)えることがないように、これからプロスポーツ選手を目指す人が引退後を憂いてプロの道を諦めなくてもすむように、星翔太の進む道は、アスリートたちの希望になれるだろうか? スポーツを軸に主体的に行動してきた星翔太のこれからに注目していきたい。

(文中敬称略)

取材協力:株式会社エードット

文:石川歩 写真:野呂美穂

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取材後記

 私にとってプロスポーツ選手は、その途方もない努力を続けている時点で憧れる存在ですが、現役選手が自身を厳しく見つめる目を持ってアスリートに足りない部分があると考えていることに驚きました。アスリートと会社員では鍛えてきたものが違うけれど、お互いの強みを生かしながら何かを成し遂げられるなら、それを見てみたい。アスラボの今後の活動に期待しています。
 それにしても、鍛え続けた星選手の体は、白いシャツとデニムでも問答無用の迫力がありました。星選手主催『白シャツを格好よく着こなすダイエット講座』があったらきっと流行ります!

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PROFILE

石川歩 編集者・ライター

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モータースポーツ系出版社出身、スポーツが好き。スポーツのほか、暮らし・不動産・建築系のメディアで執筆中。
身長160センチ、バレーボールの傳田選手とはこの身長差! 見上げながらのインタビューでした。

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