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長い仮眠はかえって危険! 専門家に聞く、安全運転に役立つ睡眠法

  • からだと運転 第1回
  • 2017年8月25日

 この夏、仕事帰りのその足で、車を運転して帰省したという人も多いはず。金曜日の夜に出発したのに渋滞につかまり、眠い目をこすりながらなんとか乗り切った……なんて人もいるのでは?

 今までは事故を起こさずに済んできたとしても、油断は厳禁。睡眠不足の状態は、飲酒時と同等もしくはそれ以上に注意力が低下しているという調査結果があります。とりかえしのつかない事故が起こるまえにチェックしておきたい安全運転のための睡眠のコツを、睡眠に悩む患者を数多く診てきたプロフェッショナル、新橋スリープ・メンタルクリニックの佐藤幹(みき)院長に話をうかがいながら考えました。

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新橋スリープ・メンタルクリニック 佐藤幹院長

深夜の運転は、酒気帯び運転並みに危険!

 厚生労働省の研究班によって「健康づくりのための睡眠指針」がまとめられているのをご存じですか? 行政も、眠気によるミスで起きる事故を避けるためや、生活習慣病のリスクを下げるために「質の高い睡眠」をとることを推奨しているのです。

 この資料によれば、毎日同じ時間に起床すること、規則正しい食事や運動習慣を心がけるなど極めて基本的なことが、正しい睡眠生活に繋がるとしています。睡眠が気になる方、運転を多くする方は、一度目を通しておくといいでしょう。

 この指針で引用されているデータによると、「人間が十分に覚醒して作業を行うことが可能なのは、起床後12~13時間が限界」。起床後15時間で酒気帯び運転と同じ程度の作業能率が示されています。たとえば、朝8時に起床した人の場合、25時、つまり深夜1時過ぎごろから特に注意が必要に。深夜3時で血中アルコール濃度0.05%の状態と同程度に認知機能が低下し、翌朝8時では、0.1%と同程度にまで低下すると報告されています。

 日本で酒気帯び運転とされる呼気中アルコール濃度(0.15mg/L以上)を血中アルコール濃度に換算すると0.03%以上。お酒を飲んでいなくても、朝から仮眠なしで起きている人が深夜に運転すると、その注意力は、酒気帯び運転に匹敵するほど低下しているのです。それぐらい危ない状態であるということを、運転者一人ひとりが自覚する必要があるといえるでしょう。

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 さらに注意したいのが、睡眠不足の状態が続くと、眠気はある程度のところで頭うちになる一方で、認知機能は直線的にずっと低下していくということ。「眠いけど、意外と運転できているし、まだ大丈夫かな」。そう思って油断していると、気がつかないうちに注意力がどんどん低下している恐れがあるのです。

長い仮眠はかえって危険!?

 ではどうすればいいのでしょうか? 一番の対策は、やはり仮眠をとることです。理想的なのは、運転前、午後1時から2時の時間帯(もっと広くいえば12時から15時)の、「昼寝のゴールデンタイム」にとる20分ほどの仮眠。とはいえ、なかなかそうもいかない人もいるでしょう。そういう場合は、せめて運転の合間に仮眠をとるようにしましょう。このとき、仮眠を「30分以内」に抑えるのがポイント。人は寝始めて30分程度で深い睡眠に入ってしまい、この深い睡眠から目覚めた直後は認知機能が大きく低下するのです。運転の合間に長めの仮眠をとるのはかえって注意力を下げてしまうリスクがあります。

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 また、仮眠の直前にはカフェインが入ったドリンク(コーヒーや紅茶、緑茶など。温かいほうが、よりカフェインの吸収が良くなります)を摂取するのがおすすめ。カフェインの覚醒効果はドリンクを飲んでから20~30分ほどで現れてくるので、ちょうど仮眠が終わるころにすっきり目覚めやすくなります。

仮眠のとり方 三つのポイント
・午後1時から2時の時間帯の「昼寝のゴールデンタイム」にとるのが理想的
・時間は30分以内に抑える
・直前にカフェインが入った温かいドリンクを飲む

軽い眠気を飛ばすには

 運転中に眠くなってきた場合、ドライブインに寄るときには、コーヒーを飲んで眠気を飛ばすほか、冷たい水で手や首の後ろを冷やすのもいいでしょう。手を冷やすと毛細血管が収縮し、熱の放散が抑えられることで、深部体温(脳や臓器の体温です)を高く保ちやすくなります。深部体温は、低くなれば眠りやすく、高くなれば覚醒度を保ちやすくなります。また、体温中枢がある首の後ろを冷やすと、ひんやりとした刺激が交感神経を刺激して覚醒度を高めてくれます。運転中の車内の温度も少し低めに設定しておきましょう。

 また、運転をする日は、副作用として眠気を引き起こすことがある風邪薬や花粉症の薬などを飲むのも避けましょう。血糖値が急激に上がると睡魔も訪れやすくなるので、おにぎりよりもサラダなど、血糖値が急に上がらない食事を心がけましょう。気分が盛り上がると覚醒度も高くなりやすいので、アップテンポの音楽や香りの刺激を利用してもいいかもしれません。そのほか、屈伸運動をして脳に血液を送るなどして、体と脳に適度に刺激を与え続けることも有効です。

 ただし、これらはあくまで一時的な対策でしかありません。大事なのは、まず寝不足状態にならないよう、普段からしっかりと睡眠をとっておくこと。もしもやむをえず寝不足で運転をする場合には仮眠を適切にとること。そして、「寝不足の状態で運転しているのは、飲酒運転に近い危険な状態」ということを運転者が自覚して、慎重に運転することです。緊張感を常に持って運転をしましょう。

早寝でかえって寝不足に? 脳のリズムに沿った眠り方のコツ

 寝不足にならないためには、まずは日常的に十分な睡眠をとることが一番。ところが、良かれと思っておこなった早寝が、かえって質の高い睡眠を妨げることもあります。身体の生理的なリズムに沿った睡眠のとり方を知っておきましょう。

 実は、一日の中で脳がもっとも眠りに入りにくいのは夜の8時から10時ごろ(深夜0時に就寝する人の場合)。この「睡眠禁止ゾーン」は、深部体温が最も高いために睡眠が深まりにくく、夜間のメインの睡眠には不向きな時間帯です。例えば仕事から疲れて帰宅し、この時間にベッドに入ったりうたた寝したりしてしまうと、真夜中に目が覚めてその後は眠れないという現象が起こりやすくなります。

 逆に、寝るのに好ましい時間帯は、一般的には夜の11時以降。11時を過ぎると、脳(視床下部)を介してメラトニンが分泌されることで深部体温が下がり始め、その結果、急速に眠気がやってきます。この時間帯に眠りはじめ、深部体温が最も低くなり睡眠が最も深くなる深夜3~4時にぐっすり眠っているようにするのが、脳や身体の生理的なリズムに沿った眠り方のコツなのです。

睡眠のリズム 三つのポイント
・夜の8時から10時に寝ることは避ける
・夜の11時以降、眠気がやってくる時間帯に眠りはじめる
・睡眠が最も深くなる深夜3~4時に眠っているようにする

監修(取材協力):新橋スリープ・メンタルクリニック院長 医学博士 佐藤幹

眠りの自己破産にならぬように

 「スタンフォード式最高の睡眠」(サンマーク出版:西野精治著)によれば、日本は睡眠負債を抱える「睡眠不足症候群」の人が諸外国に比べ多いという。

 本書では、睡眠が足りていない状態を「睡眠不足」といわず、「睡眠負債」という言葉で表現。借金同様に、この「睡眠負債」がたまって返済が滞ると、首が回らなくなり、しまいには脳も体も思うようにならなくなる「眠りの自己破産」を引き起こすと考えている。夜勤明けの内科医の脳の覚醒状況を調べたところ、マイクロスリープ(瞬間的居眠り)という状態に陥っていたことがわかったという実験結果まである。仮に時速60キロで運転していて、このマイクロスリープが4秒起きると、居眠り状態のまま70メートル近く車が進む、ということだ。

 これは大げさな話でも何でもない。本当に睡眠不足での運転は危険なのだ。

 ハンドルを握る前に、もう一度考えよう。

 今日は運転して、大丈夫か、と。

(ライター 大崎百紀)

出典:「スタンフォード式最高の睡眠」(サンマーク出版)

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