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「安全運転のプロ」が語る、事故を起こさないためのポイント

  • クルマのプロは語る 第3回
  • 2017年9月6日

 モータージャーナリストとしてさまざまな車に試乗して記事を書いている菰田(こもだ)潔さん。その数、なんと年間250台を超えるとか。「車が好きというより運転することが好き」という菰田さんは、企業や教習所の教官向けに講習も行う「安全運転のプロフェッショナル」でもある。安全運転への考えをうかがった。

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菰田 潔さん

技術の進歩によって、安全運転の常識は変わる

――初心者ドライバーからベテランドライバーまで、幅広い層に向けて講習を行っていらっしゃいますね。

 交通安全協会の安全運転管理者研修や、企業や役所での講習、あとはBMWのドライビング・エクスペリエンスというスクールがあり、30年近くチーフ・インストラクターとして教えています。ドイツの先進的な安全運転の考え方について定期的に講習を受け、それをもとに教えています。

――先進的な安全運転の考え方とはどういうものでしょうか。

 車が進歩し、新しい技術が出てきているのだから、教え方も進化させないといけないんです。例えば僕が免許をとったのは40年以上前ですけど、「急ブレーキはかけちゃいけない」と教わった。もちろん今でもなるべく急ブレーキをかけないように運転するのが基本ですが、万が一子どもが飛び出してきたようなときは、事故を防ぐためには急ブレーキをかけてもいいんです。

 昔はABS(アンチロック・ブレーキ・システム)がなかったから、急ブレーキをかけるとロックして、タイヤが止まってしまった。制動距離が長くなって、ハンドルも効かなくなります。でも今はABSがあるから、思いっきりブレーキを踏んでもタイヤはちゃんと回ります。最短距離で止まれるし、ハンドルも動く。そういう機能がほとんどの車についている。技術の進歩によって、常識が変わった例ですね。

――運転免許を取ったときのまま、知識が更新されていない人も多そうです。

 日本にはせっかく免許の更新制度があるのだから、そこをもっと有効に使えばいいと思うんです。急ブレーキの講習は、いまは教習所でも取り入れています。1988年に教習カリキュラムの改定があったとき、警察庁の懇談会議の委員として改定に関わっていたので、提案したんです。

安全運転は「5秒先を読む」

――安全運転のコツは、どのように教えているのですか。

 安全運転しましょう、といくら言っても、残念ながらあまり興味を持ってもらえないので、最近は「エコドライブ」を教えるようにしています。エコドライブを心がけると、結果的に安全運転になることがわかったんです。

 以前、大和ハウス工業さんの環境への取り組みをお手伝いしたことがあります。大和ハウスのCO2排出は、8割がロジスティクスに関連していました。物流を扱うグループ会社の約500台の車をエコドライブで燃費を良くするための講習をしたら、結果として事故も減った。当時は軽油が1リッター75円で、半年で7500万円の経費削減になりました。さらに、事故が減ったことで翌年の保険料も1億円ほど安くなった。会社はものすごく得をしました(笑)。ドライバー個人も「燃費」という目に見える成果があるので、取り組みやすいようです。

――エコドライブがなぜ安全につながるのでしょうか?

 エコドライブも安全運転も、ポイントは「先を読むこと」です。たとえばエコドライブでは、信号が赤になったらすぐアクセルを戻す。アクセルを戻している間は、燃料を1滴も使わずに走れます。特に、重い荷物を積んでいるトラックは、アクセルを離してもなかなかスピードは落ちないので、長い距離走れるんです。安全運転の場合も、「5秒先を読む」ということをいつも教えています。

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「安全運転支援技術が必ず助けてくれる」と思うな

――安全運転支援技術を搭載した「セーフティ・サポートカー(サポカー)」の普及啓発活動が行われていますが、どのようにご覧になっていますか?

 たとえば車線を守って走るとか、何かが飛び出してきたら避ける、止まるといった技術。これらは自動運転化技術の一部を使っています。完全自動運転化は、僕が生きている限りはないと思っていますが、そういう技術が発達して、万が一に備えられるのはよいことだと思います。たとえば走行中にドライバーが気を失ってしまった場合、ゆっくり走って路肩に止まる、という機能がついていれば安心です。でも、必ず毎回助けてくれるわけではない。車線逸脱を教えてくれる機能などは、カメラが車線認識できなかったら、反応しないこともあります。

――サポート技術に頼り過ぎてはいけない、ということですね。

 「頼り過ぎてはいけない」のではなく、「頼ってはいけないん」です。あくまでも万が一失敗したりうっかりしたときに助けてくれる、そういうものです。根本的には、運転しづらい車を技術でサポートするのではなく、運転しやすい車を作るという考え方が正しいと思います。実は、右ハンドルというのは運転しづらいんですよ。機械をオペレーションする場合、人間工学的には、人が左側にいるほうが自然なのだそうです。船も飛行機も電車も、運転手は左にいる。ヨーロッパは左ハンドルがメインですが、誤操作・誤発進が日本ほど多くない。

――外国車は、踏み間違い防止装置はあまりつけないと聞きます。

 そうなんです。左ハンドルだと、タイヤのホイールハウスという出っ張りの部分が左足の側にあります。右足の正面はスペースがあるから、アクセルペダル、ブレーキペダルを正面に置けるんです。

 ところが、右ハンドルだと右にホイールハウスがある。アクセルペダルが真ん中に、ブレーキペダルはさらに左側に来ますよね。極端にいうと、ブレーキを踏むのに体をひねらないといけない。特に踏み間違いの多いコンパクトカーは、運転席が狭いので、それが顕著です。そのことに気がついたマツダなどは、タイヤの位置を前方にずらして、ホイールハウスが室内に出ないように改良しました。誤操作が起きないように車を設計する。いい車作りをしているなと思います。

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――事故の事例などをご覧になって気になること、アドバイスがあれば教えていただけますか。

 基本的な運転の仕方を、初心に戻って徹底してほしいと思います。長年運転していると、だんだんルーズになります。特にドライビングポジションは、後ろすぎる、つまりペダルとシートが離れすぎている人が多いですね。姿勢が悪く、お尻の後ろに隙間が空いている人もいます。隙間をあけずに深く座るのが、正しいポジションです。ポジションが遠いと、いざ急ブレーキをかけて事故を防がなければいけないときに、ブレーキがかけられない。ガツンとブレーキを踏んでも、自分が後ろに下がってしまっては、ブレーキに力が伝わらない。本来、車は止まる能力を持っているのに、それを使い切れなくてぶつかってしまうという事例は非常に多いんです。

 他にも、シートベルトをたるみなく締める、首をしっかり守るためにヘッドレストの天辺と頭の天辺の位置を合わせる、など走り出す前にできることがたくさんあります。難しくないし、知識として知っていれば誰にでもできることですから、ぜひ実践していただきたいと思います。

(文・高橋有紀 写真・合田和弘)

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菰田 潔(こもだ きよし)
1950年生まれ、神奈川県出身。自動車評論家。安全運転のための講習を行う「BMW ドライビング・エクスペリエンス」チーフ・インストラクター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、日本自動車連盟(JAF)交通安全・委員会委員も務める。

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