今だから見に行きたい 夏の熊本小旅行

  • 2016年7月26日

加藤神社境内から見た熊本城の小天守(左)と大天守  

熊本城見学のいま

 熊本地震から3カ月余り。いまも避難生活が続く人たちがいて、交通や鉄道の復旧にはまだ時間がかかるようだ。だが、熊本市の観光パンフレットは「歴史の1ページ。今だから見にきてほしい!!」と呼びかけている。観光地としてのにぎわいを取り戻すことは、復興には不可欠なのだろう。

 実際に、いまの熊本の観光地はどうなっているのか。7月の連休、熊本市と人吉市へ出かけてみた。

 前夜のうちに熊本市内に入り、早朝、宿泊先から熊本城に向かった。4月の地震で、二度にわたり最大震度7の揺れに襲われた熊本城は、石垣などが64カ所で崩落し、北十八間櫓(やぐら)などが崩壊した。国の重要文化財に指定されている13棟すべてが大小の被害を受けている。

 この日も、本丸や西出丸など多くのエリアは立ち入り禁止のままだった。ただし、6月8日からは、宇土(うと)櫓北にある加藤神社までは徒歩で入れるようになっている。そこで、坪井川を渡り、城の東側から周囲を歩いて加藤神社に向かった。ところどころ崩落した石垣や、倒れた塀が見えてくる。特に、完全に崩れ落ちた東十八間櫓の姿が痛々しかった。

崩壊した石垣の石材は、将来の復旧作業に備えて並べられ、番号をふられていた  

 途中、熊本城総合事務所が設置した案内板があった。それを読むと、熊本城の石垣は特別史跡であるため、崩落した石材はすべて元通りに復元される。そのため、保管した石に番号をふって台帳をつくる。崩落した場所を詳しく調査した後で復元計画を立て、ようやく復旧工事に入るそうだ。城が元の姿を取り戻すまで、地道な作業の積み重ねが必要であることがよくわかる。

 朝の涼しい空気の中、散歩をしている人とあいさつをしてすれ違いながら、棒庵坂をのぼり、北大手門跡の横を通って加藤神社の境内に入った。

 まず、右手奥の大天守と小天守が目に入ってくる。報道写真とニュース映像で何度も見てはいたが、天守最上部の瓦が崩れ落ちた様子は、今回の揺れの大きさを象徴しているように見えた。

 その一方で、天守近くの宇土櫓はきれいな形で残っており、櫓を支える石垣も大きな被害を受けているようには見えなかった。少し視点を変えれば、1960年に建てられた天守が破損したほどの揺れだったにもかかわらず、加藤清正公が約400年前に築いた石垣のなかには、揺れに耐え抜いたものがあったのだ。

 もちろん、専門家による調査では破損している場所はあるだろうから、単純に無事だったと感心してはいけない。天守に近づいて見学できるようになるのはまだ先の話だ。しかし、熊本城の現状と今後の再建の過程は、訪れて実際に見る価値があると思えた。

加藤神社に置かれていた復旧のための募金箱

 加藤神社の拝殿では、くまモンの顔を描いただるまが置かれ、再建のための募金を呼びかけていた。ささやかながら募金に協力した後、復旧工事にたずさわる人たちの安全と成功を祈る。熊本城が地震の前の姿を取り戻すのは、もしかしたら私たちの次の世代なのかもしれないが、復旧の過程をまた見に来たいと思った。

 城内は大部分が立ち入り禁止だが、隣接する「桜の馬場 城彩苑」は営業している。食も土産物も熊本の特産品が集まっているので、城見学のあとでぜひ立ち寄りたい施設だ。

レトロなSLで人吉へ

客車を引っ張る1922年製造の蒸気機関車ハチロク(8620形)  

 次に、路面電車に乗ってJR熊本駅へ向かった。9時45分発の「SL人吉」に乗るためだ。

 SL人吉は、熊本と人吉を1日1往復する3両編成の列車で、全席が指定席だ。

 発車10分ほど前にSL人吉がホームに入ってくると、待ち構えていた家族連れや鉄道ファンが、歓声をあげつつ写真を撮り始めた。運転席では、機関助手さんが丁寧にレバーやハンドルを磨いている。真剣な表情で丁寧に磨く姿に、1922(大正11)年製造のレトロな機関車への愛情が感じられた。

 定刻どおり、汽笛を合図に人吉へ出発。八代あたりまでは市街地を走る。どの乗客も、この間に1号車から3号車まで歩いて見学したり、さっそく営業を始めたビュッフェでお弁当や飲み物を買っている。お土産も売っていて混雑するので、早めに並んでお弁当を買ったほうが良さそうだ。

SL人吉車内だけで販売されている「おごっつお弁当」

 木製でレトロ調のデザインで調えられた車両内は、かすかに漂う煙のにおいとともに、「いま、SLに乗っている」という非日常感を盛り上げてくれた。車内限定発売の「おごっつお弁当」(620円)を購入して、車窓の風景をながめつついただく。赤飯と白飯の大きなにぎりめしをほおばっていると、検札に来た車掌さんが、SL人吉の記念乗車証を手渡してくれた。

 停車駅では、写真撮影のために、すこし長めに停車してくれる。客室乗務員さんが、運転士さんと機関助手さんに水を差し入れていた。日差しは強くなかったが、石炭を窯に投げ込む作業は大変そうだ。どれぐらいの間隔で投げ込むのかと機関助手さんに質問したら、「決まっていません。とにかくどんどん放り込みます」と笑顔で答えてくれた。

 老朽化した機関車に負担をかけないよう最高時速60キロぐらいでのんびり走行するため、人吉駅までの87・5キロを2時間半弱かけて走る。

 それならば汽車の旅をのんびり楽しめると思っていたが、気がつくと車内放送が人吉まであと数駅であることを告げた。心地よい振動に身を任せつつ、自席や展望ラウンジから、前日までの雨で水量が増えた迫力ある球磨(くま)川の流れ山々の濃い緑に見とれているうち、あっという間に時間が過ぎたらしい。

人吉にある国宝・青井阿蘇神社の楼門

 到着は午後0時10分ごろ。往復で予約している場合は、熊本行きが出発する午後2時38分までは人吉を観光できる時間となる。

 人吉の代表的な見どころの一つ、国宝の青井阿蘇神社まで散策する。創建は806年。現在の社殿は17世紀初めに建てられたそうだ。ずっしり重たそうな茅葺(かやぶき)屋根が美しい。SL人吉で食べたお弁当は、この神社の祭りで食べられていたものを再現したものだ。

 そのまま球磨川沿いを歩き、橋を渡って人吉城跡へ。古民家の2階で営業している「さんぽカフェ」で一休み。窓から球磨川と人吉城跡の石垣を味わいながら、ランチやスイーツをいただける雰囲気の良いお店だ。

さんぽカフェの窓際の席は、人吉城跡と球磨川をながめられる特等席だ

 人吉は、球磨焼酎の産地でもあり、昔ながらの町並みや、立ち寄れる温泉がたくさんある街だ。一泊できるのであれば、熊本からSLで訪れて、翌日は鹿児島へ向かう日程もおもしろそうだ。

 人吉駅へ戻ると、鹿児島県の吉松行きの観光列車「いさぶろう」の赤い車両が停車していた。さらにその奥には、奥球磨を走るくま川鉄道の観光列車「田園シンフォニー」の車両も見えた。どちらも一度乗ってみたい列車だが、今回は涙をのんで快速列車で熊本に戻った。

特産の美味を味わう

 熊本駅に戻った後は、再び路面電車で繁華街に向かう。量販店や地元の料理店が集まる下通(しもとおり)アーケードは、買い物客でにぎわっていた。

熊本の「旅めし」として人気の馬肉料理。こちらは馬肉ステーキ

 やはり熊本に来たら馬肉料理だろうと、事前に教えてもらっていた料理店に入り、馬肉ステーキをいただいた。レアに近い焼き加減で、とてもやわらかかった。馬肉のすしも、肉のうまみが口にあふれてきておいしい。

 地震後から、営業時間の短縮が続く店もあるようで、利用の前には確認が必要だが、そこさえ注意すれば、熊本ならではの馬肉料理を楽しむことはできそうだ。

 その後は、ホテルのフロントで「リーズナブルな料金で地元の人に人気です」と教えてもらった「ラーメン 赤組」で熊本ラーメンを味わった。豚骨スープと自家製黒マー油が良く合う。ぜいたくにトッピングをすべて乗せても680円とお得感いっぱい。こちらは、評判通り地元の人が次々と訪れていた。

地元の人に教えてもらった「ラーメン 赤組」の熊本ラーメン。トッピングはぜいたくに全部乗せた

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