城旅へようこそ

信長の安土城を彷彿とさせる、漆黒の天守 岡山城(1)

  • 文・写真 萩原さちこ
  • 2016年8月29日

かつては漆黒の輝きを放っていた、別名・烏城と呼ばれる岡山城天守

  • 本段東側から見上げた天守

  • 安土城を彷彿(ほうふつ)とさせる独特のフォルム

  • 本段には藩庁兼藩主の御殿が建っていた。後に拡張され現在の広さになる

  • 表向へ向かう通路。岡山城は本段、表向(中の段)、下の段から構成される

  • 天守入り口から見た天守

  • 一級河川の旭川を天然の堀としている

[PR]

 岡山城の天守はかっこいい。よく見ると、珍しい不等辺五角形だ。天守入り口の前から見るととくに変わった形ではないのだが、裏手にまわり本段東側から見上げると、一重目と二重目は平面がゆがんだ形状で、独特のフォルムをしている。鉄筋コンクリート造の復元された天守ではあるが、窓の位置の違いなどを除き、外観はほぼ再現されている。

 不等辺五角形の天守台は、あの織田信長が築いた安土城の天主台を彷彿(ほうふつ)とさせる。また、岡山城の天守は豊臣秀吉が築いた大坂城の天守を模したともいわれる。信長や秀吉の城との類似点を見いだせるのは、この城が秀吉の猶子(ゆうし)、宇喜多秀家により築かれたからだ。

 宇喜多秀家は、豊臣政権で政務を統括した「五大老」のひとりだ。10歳で家督を継いだ秀家は、御曹司ながらも利発かつ温和な性格、しかも容姿に恵まれていたようで、豊臣秀吉の寵愛を受けて異例のスピードで大出世を遂げた。「秀」の一字を与えられ、猶子となり、前田利家の娘で秀吉の養女・豪姫と結婚。55歳の徳川家康や59歳の前田利家とともに、26歳にして五大老に就任し、順風満帆な出世街道を突き進んだ。

 57万石の大大名にふさわしい城として新築されたのが、1590(天正18)年に秀吉の全面指導のもとにつくられた岡山城だ。父・直家が築いた石山を取り込み、東隣の丘陵に築城。ちなみに、岡山県の県名の由来は、城が築かれた丘陵の名が岡山だったからといわれる。そのまま石山に築かれていたら、今ごろ岡山県は石山県だったのかもしれない。

 岡山城は別名・烏城(うじょう)と呼ばれる。それは、かつて天守の下見板(したみいた)に黒漆が塗られ、太陽の日差しを受けるとまるで烏の羽のように重厚な輝きを放っていたからだ。金箔(きんぱく)瓦が葺(ふ)かれていたことから、金烏城(きんうじょう)ともいわれる。

 黒漆は織田信長の安土城や豊臣秀吉の大坂城、秀吉配下の家臣の城だけに採用された。高価な上にメンテナンスに手がかかるため、限られた時期にしか使われていない。金箔瓦もまた、信長と秀吉が城に用いたものだ。信長は親族の城のみに、秀吉は重臣の城のみに使用を許可し、ステータスシンボルとして政治的に活用していたとみられている。のれん分けのようなもので、大名には名誉なことだったのだろう。つまり、黒漆と金箔瓦の使用を許された岡山城は特別な城なのだ。

 岡山城の天守は昭和に入っても現存していたが、残念ながら1945(昭和20)年の空襲で焼失してしまった。しかし古写真が残り、往事の雄姿を確認できる。

 秀家の人生は豊臣政権の崩壊とともに大転落し、やがて八丈島で49年の流刑生活を送ることになるのだが、それは1600(慶長5)年の関ケ原合戦後のことだ。岡山城の築城に取りかかった秀家は、大規模な土木工事を行って堀をうがち、大城郭を構築。また、商工業者を城下に集め、流通・商業・経済の中心地として発展させるべく城下町を形成し、岡山の基盤をつくっていったのである。

(つづく。次回は9月5日に掲載予定です)

アクセス・問い合わせ

■岡山城
路面電車(東山行き)で「岡山駅前」から「城下」下車、徒歩10分
086・225・2096(岡山城事務所)
http://okayama-kanko.net/ujo/

PROFILE

Hagiwara

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)

城郭ライター、編集者。小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

&TRAVELの最新情報をチェック

&TRAVELの最新情報をチェック

旅行予約(楽天トラベル)

Columns

  • 世界美食紀行

    世界美食紀行

    トラベルライターの江藤詩文さんが、みずからの「舌」と「胃」を通して見えた世界を描く

    更新:月曜日

  • にっぽんの逸品を訪ねて

    にっぽんの逸品を訪ねて

    日本各地の逸品を訪ね、それを育んだ町の歴史や風土を紹介します

    更新:火曜日

  • 極上のワイルドジャーニー

    極上のワイルドジャーニー

    かつては探検家にしか許されなかった息をのむ絶景が体験できるワイルドな旅を紹介します

    更新:隔週火曜日

  • 旅空子の日本列島「味」な旅

    旅空子の日本列島「味」な旅

    銘菓通のライター・中尾隆之さんが、史跡を歩き、味わった名産品を紹介します

    更新:隔週水曜日

  • クリックディープ旅

    クリックディープ旅

    旅行作家の下川裕治さんとフォトグラファーの中田浩資さん、阿部稔哉さんが写真でつづる旅行記

    更新:月2回

  • おとな女子のひとり旅

    おとな女子のひとり旅

    ひとり旅がますます楽しくなる!コツやオススメの旅先を伝授します

    更新:隔週木曜日

  • 楽園ビーチ探訪

    楽園ビーチ探訪

    世界各地の楽園ビーチを訪れます

    更新:隔週木曜日

  • 京都ゆるり休日さんぽ

    京都ゆるり休日さんぽ

    「暮らすように」「小さな旅に出かけるように」。自然体の京都を楽しむ、ゆるり散歩へご案内します

    更新:金曜日

  • 城旅へようこそ

    城旅へようこそ

    城郭ライターの萩原さちこさんが、日本各地の名城の歴史とみどころを解説します。

    更新:月曜日

  • 蓬萊島-オキナワ-の誘惑

    蓬萊島-オキナワ-の誘惑

    そのむかし「蓬莱島」と呼ばれたオキナワから贈る、心ときめくワンダーランドへの“招待状”

    更新:月2回

  • &Discovery

    &Discovery

    &Travel編集部が国内外のオススメ旅をリポート

    更新:不定期

  • &notes

    &notes

    旅に役立つインフォメーションを集めました

    更新:不定期