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築城名人・藤堂高虎のデビュー作 宇和島城(1)

  • 文・写真 萩原さちこ
  • 2017年1月10日

宇和島城は、宇和海に突き出す標高約80メートルの丘陵に築かれる

  • 宇和島駅前にある宇和島闘牛の銅像

  • 穏やかで美しい宇和海

  • 現存する宇和島城の天守

  • 搦手口にある上り立ち門は武家屋敷の正門とされる薬医門。現存としては最大規模で、高虎時代に創建された可能性もある貴重な遺構

  • 外堀の役割を果たしていた辰野川

  • 藤兵衛丸に見られる高虎時代の石垣

  • 高虎が築いた石垣は、自然石を加工せずに積み上げた野面積みだ

  • 苔むす古い石垣群は幽玄の美がある

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 JR松山駅から特急宇和海に乗り込み約1時間30分。終着駅が、宇和島(愛媛県宇和島市)だ。駅前に闘牛の銅像があるのは、宇和島が現在でも闘牛が開催されている珍しい場所だから。1856(安政3)年の文書には、庶民が闘牛に熱中していたことが記されている。宇和海を漂流していたオランダ船を救助し、その際に礼として贈られた2頭の牛が格闘をはじめたことが起源という(諸説あり)。宇和海に接する宇和島らしい由来だ。

 宇和島城は、その宇和海に突出した標高約80メートルの独立丘陵に築かれている。築いたのは、1594(文禄4)年に宇和郡7万石を拝領した藤堂高虎。のちに今治城(愛媛県今治市)や伊賀上野城(三重県伊賀市)を築き、さらに徳川家康の命により伏見城(京都府京都市)、大坂城(大阪府大阪市)、江戸城(東京都千代田区)などを手がける人物だ。加藤清正や黒田官兵衛などと並び、築城の名手として知られる。

 最大の特徴は、縄張(設計)だ。四角形に見えて実は五角形で、二辺は宇和海に、三辺は堀に囲まれていた。宇和島城下を歩いていると方向感覚を狂わされるのだが、これぞ高虎の狙いなのだろう。地形を利用して攻めにくい縄張を完成させたとも、地形上どうしても五角形にせざるをえなかったともいわれるが、いずれにしてもさすがは高虎とうならされる。

 堀の多くは明治以降に埋め立てられてしまったが、1703(元禄16)年に描かれた「宇和島城城下絵図」などの古絵図と照らし合わせることで、今でも縄張の妙を実感できる。海に面した海城(うみじろ)であるのは、秀吉の二度目の朝鮮出兵(慶長の役)の拠点のひとつとするためだろう。

 もともと豊臣秀吉の弟・秀長に仕官していた高虎は、1591(天正19)年に秀長が没すると後継した秀保の代理人となった。秀保が早世したため出家したが、才を惜しんだ秀吉により還俗し、7万石の大名となっている(慶長の役後に1万石が追加)。秀長の家臣時代にも和歌山城(和歌山県和歌山市)や大和郡山城(奈良県大和郡山市)の築城に携わっていたが、大名の居城としては宇和島城が初の城。宇和島城は、のちに数々の名城を生み出す高虎のデビュー作といえる。

 宇和島城は、前身を板島丸串城という。築城時期は定かではないが、秀吉の四国攻め後は1585(天正13)年に小早川隆景の領地、1587(天正15)年に戸田勝隆の領地となっていた。高虎による築城は1595(慶長元)年に開始し、1601(慶長6)年に完成した。

 流れを付け替えた2つの河川(辰野川・神田川)が外堀となり、城下町を守っていた。城下町は、城東に商人・職人町、南部に武家町、その外縁部に寺院が配置されていた。宇和島城は後に改修されるのだが、高虎の時代には現在の搦手(からめて)口が大手口だったようだ。

 のちに今治城で水堀から直接立ち上がる高石垣を実現する高虎だが、宇和島城の築城時にはまだその技術がなかったようで、地盤が堅固な陸の上に積まれている。隅部の強度を高めるべく石材を交互に積み上げる算木積みも、まだ未発達だ。築造時期を考慮するとこれほどの高さの石垣は珍しく、かなり先駆的な技術を持っていたと考えられる。

 藤兵衛丸や本丸側面、で高虎による初期の石垣を見ることができ、城ファンにはたまらない。大小の石が不ぞろいに混ざっているところに古めかしさが感じられ、独特の趣がある。

(つづく。次回は1月16日に掲載予定です)

交通・問い合わせ・参考サイト

JR「宇和島」駅より徒歩約20分
0895・22・2832(宇和島城天守)
宇和島市公式サイト

PROFILE

Hagiwara

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)

城郭ライター、編集者。小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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