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暮らすように旅する沖縄 @ 南城市(後編)[PR]

  • 2017年2月6日

ハイビスカスの咲き誇る庭のテラスで読書にふける。屋根にのぼって青空を見上げる。“暮らすような旅”では、そんなささいな体験もかけがえのない思い出となって記憶に刻まれる

 >前編はこちら

 無農薬小麦の畑が目の前に広がり、その背後にこんもりとした小さな森が見える稲福(いなふく)さんの宿。牧歌的な風景に囲まれ、5分も歩けば海にも出られるその宿で、まさに“暮らすような旅”を満喫していた一家と出会った。

 「まるで自分のおうちに住んでいるような感じです。まわりに自然が残っていて、すごくリラックスできます」

 そう話すエギントン真佐子さんは、横浜から家族5人で南城(なんじょう)市を訪れた。稲福さんの宿には数日滞在しただけというが、まるで以前からここの住人だったようにしっくりとなじんでいる。

「滞在中、家族みんなずーっとこのテラスにいました」と真佐子さん。3人の子どもたちは、ハンモックで揺られたり、床に寝転がったり、屋根にのぼったりと、チェックアウトぎりぎりまで思い思いの時間を過ごしていた

 エギントンさん一家は数年前にも沖縄を旅行した。そのときはホテルに滞在したが、今回は「もうちょっとローカル的な」旅をしたくて一棟貸しの宿を選んだ。

 「もちろんホテルにもホテルの良さがあります。ご飯をつくらなくていいからゆっくりできますしね。でも、地元のスーパーで買い物をしたり地元の人と接したりして、その土地の生活を体験できる旅の方が“旅してる”という感じがします」

双子のような建物が二棟並んだ稲福さんの宿。「3世代で泊まるのもいいかもしれません。おじいちゃま、おばあちゃま世代も自分の家みたいにゆっくりできると思います」と真佐子さん

 

 一棟貸しの宿を選んだのは、「5人でも泊まれるから」という理由もあった。

 「5人だとホテルの部屋がなかなかないんです。それに子どもがいるので、完全にプライベートなこういう宿のほうが自分たちはリラックスできます」

 滞在中は観光めぐりを控えめにして、宿でくつろいだり近くの海や山を散策したりして過ごしたという。「この宿での時間が旅の一番の思い出になりそうです」。チェックアウト時刻が近づくなか、真佐子さんは名残惜しそうにそう話していた。

「今日、メイクしてないけど大丈夫かね」と冗談を言ってからカメラに笑顔を向けてくれた稲福さんの父、信吉さん。後方に見えるのはカフェ「山の茶屋・楽水」

 真佐子さんが「まるでドリームハウスのよう」と絶賛した稲福さんの宿をあとにして、稲福さんの父、信吉さんがつくった「さちばるの庭」を訪れた。

 「この庭のコンセプトは、ここにもともと生えていた木、もともとあった岩、昔の人が積んだ石積みを重んじること。だから基本的に木を切らないし、石も割らない」

ガジュマルやクロヨナの大木のすきまから、気持ちよく木漏れ日が差す山の茶屋のテラス席

 那覇で会社経営をしていた信吉さんは、22年前にふるさとの南城市に戻り、沖縄の海カフェのはしりと言われる「浜辺の茶屋」をオープンした。浜辺の茶屋の目と鼻の先にあるこの庭はその頃からこつこつとつくり続けてきたものだ。

 「いま22年目。完成まであと20年。この庭にいっぱい植えた幼木たちが大きく枝を張って、その木陰で人がお茶を飲んだり散歩したりするのが20年後だね」

 野趣あふれる6500坪の庭の植物を「すべて、性格まで知っている」という信吉さんが大きな目を輝かせて言った。

「垣花樋川」。とい(写真中央)から清水が勢いよく流れ出ている。右奥に祠(ほこら)がある。沖縄では昔から井泉は祈りの場

 さちばるの庭の次に、稲福さんが「垣花樋川(かきのはなひーじゃー)」に案内してくれた。海を遠望する高台の森からこんこんと流れ出ている湧き水で、名水百選にも選ばれている。

 「お子さま連れのお客様にはよくここをご紹介しています。夏場でも水がすごく冷たくて、水遊びをしても気持ちいいんですよ。あ、これなら全然泳げますね」

 透明な湧き水に手を浸す稲福さんのそばで、塁(るい)君が何やらもじもじし始めた。

垣花樋川に、岡山県のノートルダム清心学園清心女子高校の森年エマ日向子さん、高野希良々さん、そして指導教員の秋山繁治先生が訪れていた。「沖縄本島のシンケンイモリの生態を観察するために来ました」と秋山先生

  

 「塁、池に入ろうとしてるの?」

 父の声ももはや耳に入らない様子の塁君。あっと言う間に服も靴も全部脱ぎ捨てて湧き水のため池に入っていった。

 それから約40分、塁君は池の中を歩き回ったり、周囲の斜面をよじ登ったり、どこかで見つけたアフリカマイマイの殻を楽器のようにたたいて音をたてたりと、まるで遊園地にでもいるみたいに水辺の遊びに夢中になっていた。

以前パーラーだった場所を改装したという「食堂かりか」。ここで注文して、目の前のビーチに置かれたテーブルで食べる

 「遊ばせてあげたいけどキリがないから」

 塁君を池からひょいとすくい上げた稲福さんは、最後に海を目指した。行き先は、海辺のネパール料理店、「食堂かりか」。

 「塁、ほら海だよ。おお、今日はお客さんがいっぱい。1席しか残ってないな」

 5年前にオープンした「かりか」は、ネパール人のシェフらが毎日4、5時間かけて仕込むという本場ネパールカレーの店。辛い食べ物が好きという稲福さんは家族でよく訪れるという。

ひと口食べるごとに、塁君がポンポンとほっぺをたたいていた。「これ、“おいしい”のサインなんです」と稲福さん

 「ここにはいつも、満月の夜に来るんです。あそこから月が上がって来て、僕らのほかには誰もいなくて、とても気持ちいいんですよ」

 「ぜいたくな景色だねー」と誰かが言うのが聞こえた。稲福さんは「ふー、ふー」とチキンカレーを冷まして塁君の口にやさしく運んだ。そしておもむろに、今あたためているという夢の話をしてくれた。

 「日本でそれができるかどうかは分からないんですけど、いつかオフグリッド(電力自給)の宿をつくってみたいんです。こういう自然豊かな土地でなら、不便さを楽しさに変えられるような気がするんです」

「かりか」のすぐ目の前に広がる新原(みーばる)ビーチ。リゾート化されていない素朴な海と、時間帯によって様々な表情を見せる空の織りなす景色がいつまでも見飽きない

 「不便さを楽しさに変える」という稲福さんの言葉が耳に残った。オフグリッドの宿が不便さを楽しさに変えるなら、“暮らすような旅”は何を楽しさに変えるのだろう。ふとそんなことを考えた。そして、エギントン真佐子さんのこんな言葉を思い出した。

 「庭にハイビスカスが咲いているのも、テラスがこんなに広いのも、そこにハンモックがあるのも、屋根に上ることができるのも、みんな新鮮でした。買い物に行って、スーパーの棚にランチョンミートの缶がずらっと並んでいるのを見ているだけでも楽しかった」

 何げない、沖縄の日常。“暮らす旅”が楽しさに変えてくれるのは、“それ”なのかもしれない。

 >前編はこちら

    ◇

さちばるの庭
沖縄県南城市玉城字玉城19-1
098-948-1227

垣花樋川
沖縄県南城市玉城垣花812

食堂かりか
沖縄県南城市玉城百名1360
050-5837-2039

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