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「石垣の博物館」を歩く 金沢城(3)

  • 文・写真 萩原さちこ
  • 2017年2月13日

玉泉院丸庭園。色紙短冊積みなどの石垣群が斜面を彩る

  • 復元された菱櫓・五十間長屋、橋爪門続櫓の石垣も見事

  • 極楽橋に面する石垣

  • 趣きのある金場取り残し積み

  • 申酉櫓下の石垣。慶長期の石垣に、寛永期の石垣が積み足されている

  • 石川門桝形の石垣。同じ場所で別の積み方をしている珍しい例だ

  • 玉泉院丸庭園に面する、色紙短冊積み

  • 多くの刻印が見られるのも特徴

  • 日本三大名園のひとつ、兼六園

  • 金沢の郷土料理、治部煮

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<金沢城(2)からつづく>

 金沢城は、別名「石垣の博物館」と呼ばれている。ほかの城には見られない多種多様な石垣が、野外美術館のように城内のあちこちに積まれているのだ。

 おもしろいのは、1583(天正11)年に築城を開始した前田利家がすべての石垣を築いたのではなく、修復も含め大きく7期に分かれて断続的に積まれていることだ。前田一族はどうやら美的センスに長けていたようで、それぞれに芸術的な石垣を構築している。城内を歩いていると表情の異なるいろいろな石垣に遭遇でき、その違いを見比べるだけでも楽しい。

 たとえば、いもり坂と薪の丸石垣群では、隅をシャープに整えた「江戸切り」という技法が見られる。表面をでこぼこに削った金場取り残し積みは、野性味あふれる印象だ。玉泉院丸鼠多門(ねずみたもん)続櫓台の鶴目積なども、凛(りん)とした趣がある。申酉櫓(さるとりやぐら)下の石垣では、慶長期の石垣に積み足した寛永期の石垣も見られる。もっとも印象的なのが玉泉院丸庭園に面した斜面の色紙短冊積みだ。さまざまな大きさの切石を組み合わせた、アートのような石垣が堪能できる。

 1592(文禄元)年に積まれた東ノ丸北面(丑寅櫓下)の石垣は城内でもっとも古い技法が用いられ、自然石や粗割しただけの石を緩い勾配で積み上げた石垣だ。慶長年間、元和年間に積まれた石垣までは乱積みが主体だが、寛永期以降になると布積みが明瞭化し、意匠性の高い切石積みの石垣が主要な桝形虎口(ますがたこぐち)や御殿、庭園などに導入される。

 刻印石が多いのも、金沢城の石垣の特徴だ。刻印石は家紋やマークなどが掘られた石材のことで、石工職人の印と考えられる。金沢城内の刻印石は200種類以上と多い上に、刻み方が大胆だ。○や△、直線や曲線を組み合わせた記号のようなマーク、卍や鳥居などの伝統的なマーク、扇、雪だるま、串だんご、きのこ、砂時計をモチーフにしたようなおもしろいマークもあれば、オリンピックのロゴの輪を組み合わせたものも。なかには五芒星もある。

 石の色にも目を奪われる。金沢城の石垣は、赤と青のカラフルな石垣が多くみられるのだ。赤い石も青い石も、金沢城から12キロほどの戸室山で採れる戸室石という安山岩だ。溶岩が冷えるときの条件で、赤や青に変色する。これらの石が色とりどりに配されていて、ほかの城にはないデザインのひとつになっている。

 石川門から城外に出たところの橋下を走る一般道はかつての堀跡だ。堀を挟んで対面にあるのが、岡山後楽園と水戸偕楽園と並ぶ日本三名園のひとつ、兼六園である。加賀歴代藩主が造り上げた回遊式庭園で、6つの美しい景観「六勝(宏大・幽邃・人力・蒼古・水泉・眺望)が共存する湖園として、奥州白河藩主・松平定信に名付けられた。

 工芸品や和菓子などの古都の文化と味覚に加えて、現代アートも味わえるのも金沢の魅力だ。21世紀美術館もそのひとつで、地域の固有文化の可能性を軸にした美術館ということもあるが、近代建造物の中にいるのに落ち着いた雰囲気がある。古き良きものを生かしながら新しいものを融合させていく、そんな器用さと洗練されたセンスも、金沢らしい。

 旅の締めくくりは、郷土料理を。数ある加賀料理のなかでも絶品なのが、治部煮だ。小麦粉をまぶしたそぎ切りの鴨肉や鶏肉に、加賀特産のすだれ麩(ふ)やせり、百合根など四季折々の食材を合わせて煮たもので、添えられたわさびをあんに溶かしていただく。武士のもてなし料理、宣教師が考案した、などルーツは諸説あるようだ。とろりとした餡にツンとわさびがきいて、冷えた体が温まる。

(金沢城の回・おわり)

交通・問い合わせ・参考サイト

金沢城

JR「金沢」駅より路線バス ほか

076・234・3800(石川県金沢城・兼六園管理事務所)

石川県金沢城・兼六園管理事務所のページはこちら

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PROFILE

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)城郭ライター、編集者

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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