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魅力的な石垣を眺め、家康も通った中道往還を歩く 甲府城(2)

  • 文・写真 萩原さちこ
  • 2017年3月21日

甲府城の天守台。歪みが大きく、地形に沿っているのが特徴。東面は幅約22メートルにも及ぶ

<甲府城(1)からつづく>

 甲府城の大きな魅力は、石垣だ。1590~1600(文禄2~慶長5)年に浅野家にとって積まれたと考えられる石垣は、豪快な野面積み。同年代に築かれた全国の石垣と比べて残存度が格段によく、本丸、天守台、稲荷曲輪(くるわ)を中心に広範囲に見ることができる。高さは5メートル程度のものが多いが、なかには10メートルを超えるものもある。

稲荷曲輪の腰石垣改修中に発見された、古い石垣。築城時または直後の積み直しの痕跡と見られる。稲荷櫓台周辺の石垣の表面には鳥や魚などの線刻があり、陰陽道の呪述的なものとみられている

 関ケ原合戦前に築かれた石垣は、実は全国的に希少で価値がある。甲府城は甲府盆地北部の扇状地末端にある独立した丘陵にある。安山岩の岩盤上に直接積まれた箇所が多く、そのため地震などの影響を受けにくく、崩れなかったようだ。石は甲府城のある丘陵のほか、愛宕山西面から切り出して運んだとみられ、数寄屋曲輪などからも石切場(採石場)が見つかっている。石材の調達には困らなかったようだ。

写真奥、愛宕山の中腹にある東光寺近くが石切場。三念坂から藤川を経由して城内へ運び込まれた

 注目すべきは、石垣の反りだ。甲府城の石垣を見ると、反りがなく直線的なものが多い。たとえば、鉄門脇の天守曲輪の石垣は、上部に向かって鋭くのびる直線的な石垣だ。このような勾配のない石垣は高さを出すことができず、つまりは古い時代の積み方と推定できる。城内には反りのある石垣もあり、石を割る際の矢穴にも時代差を示す違いがあったりと、見比べながら歩くのも楽しい。角度が55~60度と緩いのも甲府城の石垣の特徴で、これもまた古い時代の石垣であることを示している。隅角石を互い違いに積む算木積みも未発達だ。

鉄門脇の天守曲輪の石垣。ほとんど反りがない

本丸の腰石垣にある暗渠は、城内に溜まった雨水などを石垣の外に排出するためのもの

 天守台は台形で、西側に階段がある。階段部分の一部、穴蔵、天端(最上部)を除き、修復整備はされているものの、築城当時のままの野面積の石垣が残っている。天守台の特徴は、大きく歪んでいることだ。通常は四角形や長方形だが、よく見ると角が直角ではなく、四隅が鈍角か鋭角になっている。

 これは、地形上の理由に加え、石垣の築造技術が未発達であったことを示す。たとえば織田信長が1576(天正4)年に築いた安土城の天主台も不等辺八角形であるし、1597(慶長2)年に完成した岡山城の天守台は不等辺五角形だ。甲府城に天守が存在したかは明らかではないが、天守台の大きさから推定すると、大きな天守が建っていた可能性がある。

天守台の北東面。かなりの鈍角で、積み方も古めかしい

天守の穴蔵。天守台からは絶景が広がる

 さて、甲府といえば中道往還(なかみちおうかん)という歴史好きにはたまらないスポットもある。中道往還は甲斐と駿河を結ぶ古代からの道で、中世には軍用道としても使われた。武田信玄や織田信長も兵を率いて通ったという由緒ある道だ。江戸時代には、魚や塩を輸送する「魚の道」「塩の道」と呼ばれ活用された道でもある。甲斐と駿河を結ぶ河内路と若彦路の中間に位置することから「中道」と呼ばれ、甲府と吉原宿(静岡県富士市)を約20里(約78キロ)の最短距離で結んでいた。

迦葉坂(右左口峠)は、阿難坂(女坂峠)と並ぶ中道往還の難所のひとつ

 中道往還の宿場町のひとつが、信長の往来のために徳川家康が整備したといわれる右左口宿だ。道幅は4.5メートル、一軒の間口を約7.8メートルに分け、奥行きの長い区画で整備されている。武田氏が滅亡すると、家康は中道往還を通って甲斐に入国。家康が右左口宿に着陣した際に村民から手厚くもてなされたことから、村民に関所の通行を許可し、海産物の売買を免税する朱印状を発行して特権を与えたとされる。

中道往還の宿場町のひとつ、右左口宿。今も当時の宿場町の雰囲気が残る

(甲府城の回・おわり)

交通・問い合わせ・参考サイト

甲府城
JR「甲府」駅より徒歩2分
055-237-5702(甲府市観光課)
埋蔵文化財センター 甲府城研究室のページはこちら
甲府市のページはこちら
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PROFILE

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)城郭ライター、編集者

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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