世界美食紀行

料理で交流、オレゴンと日本 アメリカ・ポートランド(1)

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2017年3月27日

フードフェスティバル「フィースト・ポートランド」。40以上のイベントはそれぞれ「ワイナリーとディスティラリー(醸造所)」などテーマがあり、地元の人を中心に大勢のゲストが集まります

 「オドナロデュードとデートしませんか?」

 奇妙なメールの差出人はポートランド観光協会。文筆業をなりわいにしている私は、ごくたまーに海外の観光局といった公的機関から取材を提案いただくことがあります。要件のほとんどは「○月×日に△△のインタビューが可能」と極めて明瞭です。それなのにデート? というかそもそもオドナロデュードってだれ?

今年3月に来日して、東京・渋谷と新宿でポートランドのPRイベントを開催したオドナロデュード。左はユニークな仕かけを次々に考えるポートランド人で日本語が堪能なジェフリーさん

 オドナロデュードとは青い毛に覆われた想像上の生きもので、アメリカ・オレゴン州の都市ポートランドを専門に扱う旅行会社「オドナロトラベル社」の社長(でいちお男性らしい)のこと。つまりデートとは壮大なるポートランドのプロモーションというわけです。あぁ、政府機関といえども四角四面でなくひとひねりして遊ばなきゃ気が済まないこの感じ。さすが「アメリカらしくない」と言われると喜び、「風変わりなままでいよう」(サスティナブルな街は“風変わり” 米・ポートランド(1) )というポートランドです。

フードトラックはポートランドらしい食文化のひとつ。全米のみならず世界各国から夢を持ってやって来た料理人は、まず比較的簡単に開業できるフードトラックからスタートするそう。屋台で世界各国の料理を味わえます

 “全米一住みたい街”といわれ、日本でもそのライフスタイルに注目が集まっているポートランドは、スローな暮らしを楽しむ一方、外食文化が盛んな全米でも指折りの美食都市です。その理由は大きく三つ。第一に、1979年に「都市成長境界線」が制定されたため、急激な都市開発が進められず、都市とオーガニックな農家や自然との距離が近いこと。第二に、もともとヒッピーが多く暮らしていたため、外部からの移住者や小さな事業を始める挑戦者といった人たちを排除するよりおもしろがる傾向があること。第三に、いい素材とお酒があってよそ者を受け入れる土地柄にひかれて、志の高い料理人が集まったことです。

「フードトラックのサンドイッチ」コンテストで優勝したのは韓国人のシェフ。彼もキャリアのスタートはフードトラックで、それが話題になって成功して店を構えたとか。ポートランドの人は新しい味に挑戦する人が多いと言います

 そんな美食都市において、“ミシュラン”も“世界のベストレストラン50”も「だから何? ポートランドには関係ないよ」と独自の価値観を貫くシェフをはじめ、地元の人たちが心待ちにしているのが、年に1回ポートランド中を巻き込んで開催される美食フェス「フィースト・ポートランド」です。私は2016年9月にこのイベントに参加しました。「フィースト・ポートランド」は、オレゴン州を中心にその近郊の食の生産者と食べ手が集まり交流するイベントですが、毎年ひとつの国の料理にスポットを当てて紹介しています。昨年は日本が選ばれました。

特設テント内にキッチンやバーを設営して開催されたディナーイベント「コンニチワPDX」。チケットはワインペアリング付きで175ドル(約18300円)。発売後またたく間に完売したプラチナチケットです

 4日間の期間中には40以上のイベントがあちこちで開催されるため、この時期は「どのチケットを取った?」があいさつがわり。なかでも目玉となったのが、日本料理をコンセプトに、有名シェフが一品ずつコースを担当するディナーイベント「コンニチワPDX」。招待シェフとして日本から「器楽亭」の浅倉鼓太郎さんも参加し、メインディッシュ直前の3皿めを担当しました。

「コンニチワPDX」に集ったシェフたち。右から2番目「器楽亭」の浅倉鼓太郎さん、その左隣が相馬睦子さん。左から3番目はアイバンさん。相馬さんの左隣とアイバンさんの左隣がポートランドのトップシェフです

 東京・久我山の「器楽亭」は、居酒屋のような居心地のいい空間で、日本酒に精通した奥様セレクトの日本酒を飲みながらクリエーティブな料理を味わえる名店。浅倉さんはイベント開催日の数日前からポートランドに入り、オレゴン州の名産であるワインやハードサイダー(果実を発酵させたアルコール飲料)、サーモンの養殖場などを積極的に視察して、自身の料理にその成果を発揮していました。

浅倉さんが担当した魚料理は「日本の伝統的はらこめし」。といってもとてもクリエーティブなアレンジで、自ら視察したオレゴン州のキングサーモンを中心に黒トリュフをあしらい、ごはんはリゾットでした

 他にも、かつて東京・世田谷でラーメン店を営み、現在はニューヨークで「アイバンラーメン」を手がけるアイバン・オーキンさんのタルタルや、シアトルで日本蕎麦(そば)の「カモネギ」を営む日本人シェフ相馬睦子さんの手打ち蕎麦など、日本人として目が離せない料理が続々と登場しました。

アイバン・オーキンさんによるひと皿目の美しい前菜は「ラム肉のタルタル」。ワサビやシソといった日本の薬味を、香りと食感のいいヘーゼルナッツと組み合わせています

 ポートランドを代表するふたりのトップシェフもメンバーに名を連ね、炭火で焼き鳥を焼いたり、創造性あふれるお好み焼きを披露したり。これぞポートランドな名店の最先端の料理は、また後日ご紹介します。

ポートランドの大人気女性シェフ、ナオミ・ポメロイさんが手がけたのは、なんと岡山で食べて大好きになったというお好み焼き。相馬睦子さんの蕎麦とのペアリングという日本らしさあふれる組み合わせでした

■トラベルデータ

 成田空港からアメリカ合衆国のポートランドへは、デルタ航空が直行便を運航している。飛行時間は約9時間20分。公用語は英語。時差はマイナス17時間(取材時はサマータイムでマイナス16時間)。通貨は米ドルで1ドル=約105円。

*データは2016年9月取材時のもの

■MEMO:旅とイベント

 お祭りやコンサート、スポーツ観戦といったイベントに参加することが目的なら、とにかく早めに動くのが成功のポイント。航空券はもちろん好みのテイストでイベントにアクセスしやすいホテルを確保できれば、旅のクオリティーが上がります。ちなみに私はヨーロッパのイベント取材でホテル予約に出遅れ、片道小1時間もかかる郊外に宿泊したという失敗も……。今回ご紹介した「フィースト・ポートランド」は、2017年は9月14〜17日に開催予定。イベントごとにチケットが販売されるので、参加する方はこまめに最新情報をチェックしてください。

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■取材協力: ポートランド観光協会

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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)トラベルジャーナリスト

江藤詩文

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

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