世界美食紀行

美食都市をリードするふたりのシェフ アメリカ・ポートランド(4)

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2017年4月17日

ポートランドを代表するファインダイニング「カスターニャ」はグリーンに包まれた気持ちのいいスペース。地元の人が日常使いできるニューアメリカ料理のビストロ「ザ・カフェ カスターニャ」も併設しています

 注文したのは、近ごろすっかり定着した料理とワインのペアリング。多くの場合料理はシェフのおまかせで、それに合うワインと共にサーブされるスタイルです。最初のスパークリングワインはお約束として、次に用意されるのは当然白ワインと思いきや、なんと日本酒が登場しました。福井県の「伝心」という、ワインディレクターがさまざまな銘柄を飲み比べてたどり着いたエレガントなお酒だそう。私、日本人なのに知りませんでした……。ペアリングする料理は、半生に加熱したミル貝の仲間の貝をヤングココナツの薄切りで巻いたもの。ほんのりアジアのフレーバーが日本酒によく合い、期待が高まります。

「カスターニャ」にてキュウリのジュース、シソのオイル、ジンをミックスしたさわやかなウェルカムカクテルと共にサーブされたフィンガーフードは、薄切りのコールラビで自家製のツナを巻いたもの(写真)など全5種類

 ここはポートランドの人気ファインダイング「カスターニャ」。エグゼクティブシェフのジャスティン・ウッドワードさんは、美食フェス「フィースト・ポートランド」の一環として開催された有名シェフによるコラボレーションディナー「コンニチワPDX」(料理で交流、オレゴンと日本 アメリカ・ポートランド(1))で、地元代表としてリーダーを務めた人物です。

右から2番目がエグゼクティブシェフのジャスティン・ウッドワードさん。ペストリーシェフ、ワインディレクターとチームを組んでメニューを構成しています。この日のペアリングはなんと料理全23皿、アルコール12杯が登場!

 ジャスティンさんは、いまや世界でもっとも有名なレストランといえるデンマーク・コペンハーゲンの「ノーマ」(日本でも映画が公開されました)やスペイン・サンセバスチャンの「ムガリッツ」といった、世界のグルメ好きならおっ!と思うような名店で学んだ経験の持ち主。レストランの隣の敷地の自家菜園で栽培した野菜やハーブ、そのお隣のミツバチ農家から仕入れるハチミツといった地元の素材を使い、野菜やフルーツがたっぷりの軽やかで美しい料理をつくっています。

「カスターニャ」にてスペインの“ポチャ”という豆をポートランドのオーガニック農家が栽培した豆料理。マリネしたトマトと共にベイリーフと自家菜園のハジルで香りをつけています。野菜料理が多くて全体的に軽やかな印象

 もうひとり、ジャスティンさんと共にシェフたちを率いたのが、予約の取れない人気店といわれる「ビースト」の女性オーナーシェフ、ナオミ・ポメロイさん。彼女は「コンニチワPDX」で、アメリカ人も日本人もうならせるすばらしいお好み焼きを披露しました。そんな彼女が新しい味覚を開拓するターニングポイントとなったのが、なんと岡山県の食材や料理との出合いか。

「カスターニャ」では料理23皿のうち5つがデザート。こちらはシグネチャーデザートのひとつで、ジャガイモの皮に見立てたキャラメル風味のメレンゲとポテトのアイスクリーム。ほかにシソで風味をつけた抹茶のチーズケーキなども

 ナオミさんいわく、東京でも京都でも大阪でもなく、岡山の味はとても洗練されているそう。私、日本人なのにこれもまた知りませんでした……。そもそも岡山に行ったことがないという。日本人の私がまだまだ知らない日本の魅力を、図らずもアメリカでふたりのシェフから教えていただくことになったのでした。

大テーブルが印象的な「ビースト」の内観。ビーストではゲストが同じ食卓につき一斉に料理が提供されるため遅刻は厳禁。この夜はポートランダーのほか「予約が取れたから駆けつけた」というニューヨークやシカゴの美食家も

 ふたりのシェフが言うには、ポートランドはシェフにとってとても幸せな土地だそう。オーガニックの農家さんはシェフに協力的で、新しい野菜づくりにも積極的に取り組んでくれます。レストランの周りには上質なハチミツやチョコレート、コーヒー、パンといった専門店もそろっています。近所にはクラフトビールもあるし、郊外まで出れば世界的に名高いオレゴンワインがそれこそ手に入れ放題。

「ビースト」にて地元の酪農家さんによるチーズ、地元のパン屋さんのブリオッシュ、オーガニックのイチジクのマリネと手づくりのコンフィチュール、地元のハチミツをスモークして香りづけしたソースにオーガニックのグリーンを添えています

 また、シェフたちによると受け取る側である食べ手に恵まれているのもポートランドの特徴とか。というのもアメリカには“食のオスカー”と呼ばれる全米を対象としたレストラン・アワード「ジェームズ・ビアード賞」がありますが、その名前の由来でありアメリカ料理界の発展に貢献した故ジェームズ・ビアードさんはポートランド出身。そんな縁もあってポートランドの人たちは、おしなべて食への意識が高いそうです。

「ビースト」の料理は温かみのあるやさしい味わい。オープンキッチンの目の前に大テーブルという劇場型のレストランで、お客さんが全員写真を撮っていた(フラッシュも可)のでとてもラクでした。写真は地元のラム肉を使ったひと皿

 「世界的に有力なガイドブックやアワードの審査員がたった一度来るより、ポートランダーから選ばれて、何度も通ってもらえる店をつくりたい」と話すふたりのシェフ。そんなふたりのスタイルにもひと言言わずにはいられないのが“ポートランダー気質”だそうで、あれこれ批判をされたり、客と意見を戦わせたりしながら、ふたりの料理は日々変化しているとか。この先どんな進化を遂げるのか。ポートランダーに混じってふたりの料理を味わいに、またポートランドを訪れたいと思います。

「ビースト」のこの日のコースは6皿で6杯のワインとペアリング。デザートはピスタチオのケーキとハックルベリーのムース、オーツ麦のアイスクリームを添えて。流行のエディブルフラワー(食用花)ももちろん地元のもの

■MEMO:旅と料理写真

 ロマンチックな雰囲気もサービスのひとつであるファインダイニングでは、あまりバシバシとシャッターを切るのも考えもの。私もいつも苦心しています。私の経験では、日本と違い海外のレストランで撮影禁止というお店に出合ったことはまだありませんが、予約時に料理を撮影したいと伝えるようにしています。日没が遅い夏なら早い時間のディナーの窓際や、お店によってはライトがよく当たるテーブルを押さえてくれることもあります。

■取材協力:

ポートランド観光協会
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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)トラベルジャーナリスト

江藤詩文

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

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