世界美食紀行

“美食の国”を世界に発信 フィリピン(1)

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2017年4月24日

マドリッド フュージョン マニラの締めくくりを飾った「10 ハンズ ディナー」終了後の1コマ。中央はアジアのベストレストラン50にフィリピンから唯一ランクインしフィリピンの料理界を牽引(けんいん)している「ギャラリー バスク」のチェレさん

 さる4月6日から3日間、フィリピンの首都マニラで3回目となる料理学会「マドリッド フュージョン マニラ」が開催されました。学会の模様についてはまた後日お伝えするとして、旅行者が見逃せないのがあちこちで行われた関連イベントです。

「10 ハンズ ディナー」よりスペイン・ビルバオのミシュラン一ツ星「ネルア」の看板メニュー。それぞれ種類が異なるプチトマトを湯むきして、中にハーブのソースなどそれぞれのトマトに合わせた詰めものを詰めています

 実はマドリッド フュージョン マニラに合わせて、フィリピン政府が大規模な食の展示会を同時開催。シェフやレストラン関係者だけでなく、食材の生産者や輸出入業者といった食のプロもまたマニラにやって来ました。フィリピン政府は3月下旬から4月末までの約1カ月を「フレーバーズ オブ ザ フィリピン」と定めさまざまな事業をサポート。たとえば人気レストランがこの期間だけ特別なメニューを提供したり、フィリピンの各地方の名物料理を食べ比べたり、世界からやって来たスターシェフとフィリピンのトップシェフによるパーティーが開かれたり、外国人旅行者を含め一般の人が参加できるイベントもたくさん開催されたのです。

「ヘルトグ ヤン」と「トーヨー イータリー」のコラボレーションディナーよりトーヨー イータリーのひと皿。マニラ近郊のラディッシュをフィリピン近海の魚と発酵させた国産トマトのスープに合わせて

 この動きには世界も注目していて、たとえば今年は韓国政府が、マドリッド フュージョン マニラと同じ会場で、マニラに集まった食のプロをターゲットに韓国産の食品展示会を開催。韓国は“アジアにおいて美食をリードする国”となるべく国を挙げてプロモーションに取り組んでいます。

「10 ハンズ ディナー」よりシンガポールのモダンフレンチで今年のアジアのベストレストラン50で9位に入った「オデット」のたまご料理。絶妙な加熱のいわゆる温泉卵をクリーミーなポテトやチョリソーと合わせます

 そんなマニラで、マドリッド フュージョン マニラ関連イベントの一環として、世界のシェフとフィリピンのシェフによるコラボレーションディナーがいくつか開催されました。日本でも、たとえば「アジアのベストレストラン50」で3年連続トップに輝いたタイ・バンコクの「レストラン ガガン」(「アジアのベストレストラン50」授賞式はお祭り騒ぎ タイ(1))が、6月に「マンダリン オリエンタル 東京」でポップアップ(期間限定出店)を開催予定だったり、日本の人気シェフが海外に出かけて腕を振るったりしているので、美食事情に関心が高い方なら、国境を越えたシェフの交流や活躍が世界のトレンドになっていることをご存じかもしれません。

「10 ハンズ ディナー」よりインドネシア・バリ島の地元食材を使ったフュージョン料理店で今年のアジアのベストレストラン50で22位に入った「ロカフォーレ」のたまごかけごはん。こちらはアヒルのたまごを使っています

 私が参加したのは、ベルギー・ブリュージュのミシュラン三ツ星レストラン「ヘルトグ ヤン」(当時シェフはベルギー最年少で三ツ星を獲得)といまフィリピンでもっとも注目されるモダンフィリピン料理「トーヨー イータリー」の共演、そしてアジアとヨーロッパの5人のシェフがそれぞれの看板メニューを惜しげもなく披露した「10 ハンズ ディナー」です。

「ヘルトグ ヤン」と「トーヨー イータリー」のコラボレーションディナー終了後の1コマ。ヘルトグ ヤンのおふたりは何度も来日経験があり、今秋も東京でコラボレーションディナーの開催を計画しているそうです

 それぞれの料理のユニークさは写真をご覧いただくとして、ふたつのディナーを通して私が感動したのは次の3つ。

ひとつは料理の進化のスピード。というのも事情があり、モダンフィリピン料理「トーヨー イータリー」で2晩連続同じ看板料理を味わうことになったのですが、食べ手にはっきりわかるほど、食感や香りが向上していました。たった一夜で、です。これにはもうびっくり。

「ヘルトグ ヤン」と「トーヨー イータリー」のコラボレーションディナーよりトーヨー イータリーのひと皿。フィリピン産のサーディンとフィリピンでよく食べられる健康野菜のモリンガ、ヤングコーンにピリ辛ソースを添えて

 2点目はフィリピン人の発信力の高さ。たとえばベルギーの三ツ星「ヘルトグ ヤン」の看板料理のひとつに、草原を散歩して摘んだような草花を集めたサラダがあります。この料理のためにマニラ郊外のオーガニックファームを訪れたシェフの様子や、他のシェフがそれぞれ発見したフィリピンの食材や食文化について、フィリピンの美食ファンが英語とスペイン語で世界に発信するのだから、その訴求力の大きさはすごい。

最後は、こんなディナーの仕掛け人がうら若いアラサー女子ということ。フィリピンでは、彼女に限らず人気シェフもまたアラサー世代が中心になっています。

これが「ヘルトグ ヤン」の有名なサラダ。温暖なフィリピンでは多種類のエディブルフラワー(食用花)がよく育ち、リーズナブルな価格で一年中手に入りやすいそう。その土地らしい草花を集めたスペシャルなサラダです

 ふたつのディナーでは、調理場で働くフィリピン人の10代、20代が世界のトップ技術に間近で触れ、マドリッド フュージョン マニラやフレーバーズ オブ ザ フィリピンでは、フィリピンの料理学校の学生と世界のトップシェフが直接交流する機会が数多く設定されていました。日本の料理や流行にも詳しく、目をキラキラ輝かせながら、流暢(りゅうちょう)な英語を駆使してどんどん知識を吸収する学生たち。彼らの中から近い将来、どんなシェフが輩出されるのか。楽しみでなりません。

マニラでは新しいナイトスポットも次々誕生しています。こちらは高層ビルのエントランス付近にあるありふれたセブンイレブンのATMの裏側。妖しげなライトのバックヤードを抜けるとその奥に驚くようなバーが出現する「バンクバー」

■トラベルデータ

日本からフィリピンのマニラへは複数の航空会社が直行便を運航している。成田からマニラへの飛行時間は約4時間50分。公用語はタガログ語、共通語は英語。時差はマイナス1時間。通貨はフィリピンペソで1ペソ=約2.7円。

*データは2017年4月取材時のもの

■MEMO:旅とことば

英語が共通語となっているフィリピンでは、たとえばタクシーのドライバーさんや街角の屋台の売り子さんなど、ほぼ誰にでも英語が通じて旅行者には非常に便利。国民性として流行モノが好き、さらにSNSの利用率も非常に高いそうで、SNSでの流行りことばが世界とほぼタイムラグなく浸透しています。

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■取材協力:

フィリピン政府観光省

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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)トラベルジャーナリスト

江藤詩文

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

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