世界美食紀行

“ハロハロの国”のほっこりごはん フィリピン(2)

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2017年5月1日

2016年にアジアの最優秀女性シェフ賞に輝いたマルガリータさんと未来のシェフたち。「日本の占領は歴史的事実に過ぎない。今のフィリピンは大の親日国です」と言ってくれました

 フィリピンの首都マニラで開催された料理学会マドリッド フュージョン マニラ(“美食の国”を世界に発信 フィリピン(1))。駆けつけた食いしんぼう(と料理学校の学生たち)が何より楽しみにしていたのが、ランチタイムでした。3日間の会期中、たとえば古代米も含めて国内で数百種類も栽培されているという「ライス」や「ひとつの食材を頭から尻尾まで使いきる」といった毎日異なるテーマが設定され、それに沿った料理がブッフェスタイルでおよそ70種類も用意されました。ちなみにフィリピンは地理的に分類すると18、文化的には77(244という学説もあるそう)の郷土グループに分けられ、それぞれに郷土料理があります。そんな地方の味が一堂に会するまたとない機会です。

セブ島の料理として有名なレチョン(豚の丸焼き)ですが、実は地方によってさまざまなレシピが存在しているそう。スパイスで味をつけたごはんに豚のうまみと脂がしみしみのこちら。おいしくないわけがありません

 そのうえ主催者によると「フィリピンはカトリックの国だからお酒も飲み放題」(ほんと!?)ということで、日本産のものをはじめビール各種やカクテル、真っ昼間だというのに国産のラムやテキーラまでも。なかでも長い行列ができていたのは、レストランランキング「アジアのベストレストラン50」で2016年に「アジアの最優秀女性シェフ賞」を受賞したマルガリータ・フォレスさんのブースでした。

マルガリータさんが経営するレストランのひとつ、グレイス パークではヘルシーなフィリピンの家庭料理を味わえます。こちらはフィリピン版おふくろの味といわれるお肉の酢じょう油煮込みアドボ

 マルガリータさんによると、フィリピン料理をひとことで言い表すなら「ハロハロ」に尽きると言います。日本ではミニストップのかき氷デザートとして定着したアレです。このユニークなスイーツがフィリピン発祥ということをあまり知られていないのは残念ですが、ハロハロとはタガログ語で「まぜまぜ」の意味。東南アジアのどこの国の料理とも似ていないフィリピン料理について、マルガリータさんのお話をざっくりまとめると次の通りです。

揚げものにはたっぷりのオーガニック生野菜を付け合わせるのがマルガリータさん流。マニラ近郊にはオーガニック農園があり、野菜のほかエディブルフラワー(食用花)も栽培されています

 フィリピンは歴史的に長い間スペインの植民地下にありました。その後も列強の国々の勢力争いのなかでアメリカに統治され、日本にも占領されました。ここでは話を料理だけに限定しますが、その歴史のなかでフィリピンの伝統料理は影を潜め、食文化自体がスペイン風に変化したり、アメリカナイズされていったりしたそう。同じ東南アジアの国でも、たとえば伝統を守り続けてきたタイ料理が世界的に脚光を浴びる時代の流れのなかで、欧米の影響を受けて変わってしまったフィリピン料理には魅力が少ないと、フィリピン人自身が思ってしまっていたそうです。

料理をシェフの性別で判断するのはどうかと思いますが、マルガリータさんの料理はやっぱり女性らしいと思う。古代米の一種で栄養価の高い玄米を白身魚と合わせたひと皿は日本人にもなじみやすい

 そんなフィリピン料理に、「東南アジアの恵まれた豊かな食材を使い、スペインやアメリカの食文化を独自に発展させた他のどこの国にも見つからないオンリーワンの料理」という価値を定義して再構築したのが、マルガリータさんたちの世代の料理人です。だからこそ「アジアの最優秀女性シェフ賞」としてフィリピン料理の価値を他の国々から認められたのは、ことのほか嬉しかったとか。

 いまや史上空前のグルメブームを迎え、若いグルメブロガーやグルメインスタグラマーがどんどん台頭し、世界に向けてフィリピンの食のトレンドを発信しているマニラ。「海外から注目されることも嬉しいけれど、フィリピンの若い人たちが自分の食文化のルーツに誇りを持てるようになったことが最大の喜び」とマルガリータさん。そんなフィリピンの食の魅力に世界の最先端で活躍するシェフたちも注目しています。

フィリピンのスターシェフのひとりになったレストラン ギャラリー バスクのスペイン人シェフ、チェレさん。ルーフトップテラスで食前酒のおもてなしがあり、食事中にはルーフトップガーデンにハーブを摘みに行くといった演出も素敵

 スペインきっての美食エリアとして知られるバスク地方からマニラに拠点を移し、レストラン ギャラリー バスク(2017年アジアのベストレストラン35位)を手がけるスペイン人シェフのチェレさんはその筆頭格。77(224?)もあるグループの食文化を丁寧にひもとき、郷土料理や屋台料理を系統立てて研究し、それを自身の最先端の技術を用いて美しいひと皿に落とし込んでいます。私の印象では、オーストラリアからやって来てタイのレストラン界に革新をもたらしたデイヴィッド・トンプソンさん(やっぱりすごいぞ、カリスマ“タイ料理研究家” タイ(4)“アジアで最高”のレストランへ行ってみた タイ(3))のように、チェレさんはフィリピンの料理界においてエポック・メイキングな存在になるかもしれません。

ギャラリー バスクの美しい前菜の数々。フィリピン人は一般的に買い食いや食べ歩き、間食が大好きで、これらはフィリピンの人たちが日ごろ食べ慣れている屋台のスナックをベースにしたものです

 そして日本でも。正直に言うと、いまも成長中のフィリピンでは、残念ながらあまり礼儀正しいとは言えない振る舞いをフィリピンの人に対してとる日本人を見かけなくもないのですが、マルガリータさんによると、フィリピンの伝統と文化にリスペクトを込めて接し、積極的に食文化の交流に取り組む若いシェフたちがいるそうです。そのひとりが、東京・青山のフランス料理レストラン、フロリレージュ(2017年アジアのベストレストラン14位)の川手寛康さん。マルガリータさんによると、川手さんはフィリピンの食に注目してくれていて、今年6月と9月には、マニラと東京で、フィリピンと日本の食文化を交流させたコラボレーションディナーを開催する予定だそう。

柑橘(かんきつ)系フルーツの酸味を料理に上手に取り入れるのがフィリピン料理の特徴。これは柑橘系のジュースでつくった氷をかき氷にしてキハダマグロのタルタル風と合わせたユニークなアミューズ

 マニラでは早くも話題沸騰中のこのディナー。おそらく予約は争奪戦でしょう。プラチナシートを手に入れたフィリピンの若者たちがどんな情報を発信するのか、SNSを見るのが待ち遠しいです。

スペイン人とフィリピン人の共通点のひとつが甘いモノが大好きとか。フィリピンで収穫されたコーンをテーマにしたデザートは焼きトウモロコシみたいで親しみがあります。奥はコーンの蒸しケーキ

■MEMO:旅の予算

ファインダイニングでの食事は予算もかさむし格式が高いと敬遠される方もいらっしゃると思います。そんな方はフィリピンでファインダイニングに挑戦してみるのがおすすめ。予算は東京と比較すると半額くらいとお手ごろで、サービスもフレンドリー。気軽に世界レベルの料理を楽しむことができます。

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■取材協力:

フィリピン政府観光省

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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)トラベルジャーナリスト

江藤詩文

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

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