もっと!鉄道旅

海を見渡す絶景の予讃線下灘駅で、ゆったりと流れる時間を楽しむ

  • &Travel編集部
  • 2017年5月10日

  

 映画、ポスター、SNSで見た時から、いつか行ってみたいとあこがれる。愛媛県の海岸を走るJR予讃線の下灘(しもなだ)駅は、きっと多くの人にそう感じさせる場所だろう。 

 4月末、午前9時45分松山発の1両編成の列車で、下灘に向かった。座席は横長の対面式。専門学校生だという若者たちで満席だったが、他の乗客に聞くと、こんなことはめずらしいらしい。30分ほどして若者たちが降りると、乗客は一気に5人ほどになった。単線のため、途中で何度か上下線のすれ違いを駅で待つことになる。地元の人も観光客も、みんなのんびりと発車を待っている。

予讃線の海回り区間を走る1両編成のワンマン列車

下灘に近づくと、車窓には海が広がる

 やがて、進行方向右手の窓の向こうに、青空を反射して輝く海面が見えた。遮る建物や木々が少なくなり、窓の外が海原だけになったころ、下灘駅への到着を告げるアナウンスが聞こえた。松山出発からは約1時間経っている。

 切符を運転手さんに渡してホームへ。車両の向こう側を見ると、そこには、波もほとんどなく、静かに横たわる水平線があった。列車が次の串駅へと姿を消し、ホームには観光客らしい数人だけが残った。

 ただしばらく海を見つめる。ホームにあるのは3本の柱に支えられた小さな屋根と青色のベンチだけだ。背景の海の美しさと、ホームの素朴さが素晴らしく、レンズを向けずにはいられない。だが、広角レンズでも目の前の光景を記録できたとは思えず、また自分の目で水平線を見つめた。

無人の駅舎から見たホーム

 松山に戻る次の列車は午後1時発。撮影する時間はたっぷりある。下灘駅は無人で、周囲には数軒の住宅がある。最近、駅舎のすぐ前に、土日営業の「下灘珈琲」というワゴンカフェができたが、この日は平日でお休みだ。

 駅舎に飾られた写真の数々を眺めてからホームに戻り、またぼんやりと海を眺める。何かの漁の最中なのか、1人乗りの小舟が浮かんでいるだけ。同じ景色なのだが、飽きることはなかった。国道を造るために海が埋め立てられるまでは、もっと間近に海が迫っていたそうだ。

線路の下には国道が走っている

 下灘周辺は、伊予灘に沈む夕日が美しく見られるスポットとしても知られている。午後6時50分ごろの日没には戻ってくることにして、再び列車に乗り込んで西へ八幡浜(やわたはま)駅に向かった。八幡浜は、九州へのフェリーが発着する港町だ。フェリー乗り場前には道の駅があり、海産物の市場や、近海でとれた海の幸を食べさせてくれる食堂が併設されている。新しくきれいなカフェコーナーもあった。

八幡浜の港近くにある道の駅にある食堂では、大漁旗が飾られている

 最近、四国ではレンタルサイクルを使った観光が人気だが、八幡浜の道の駅でもレンタルサイクルがある。次の列車を待つまでの2時間もあれば、ぐるっと街をひと回りできる。

 夕日の時間よりはちょっと早いが、15時16発の松山行きに乗る。また1時間ほどかけて下灘に戻った。さっきよりもたくさんの観光客が、夕日を待っていた。女性数人ずつのグループが目立つ。ベンチに座ったり、いろいろなポーズで写真を撮り合ったりして、絶景を楽しんでいる。

女性数人のグループも多かった

 ぼーっとしていると、滋賀県から来たという20代前半の女性2人に「この駅の近くには海に沈む線路があるそうですが、知りませんか?」と聞かれた。インスタグラムの投稿で見つけたらしい。残念ながら知らないと答えると、探しに出かけた2人は、国道から海岸に降りたところで見つけたと、うれしそうに画像を見せてくれた。元の投稿は、海外からの旅行者がしていたそうだ。

教えてもらって後から行ってみた、下灘駅近くの海に沈んでいくレール

 ホームでは、台湾から関西と四国方面を旅行中に立ち寄ったというリンさんも夕日を待っていた。岡山でこの駅のことを教えてもらったといい、「とてもきれいな場所です。来て良かった」と話してくれた。

 午後6時を過ぎ、少しずつ日が水平線に近づいていく。よく晴れた日は真っ赤な夕焼けとなるそうだ。その風景にもひかれるが、この日のようにうす曇りでも、おぼろげなオレンジ色で空と海面が染まり、絵画的で美しかった。

 松山に向かう列車は、あたりが真っ暗になった19時33分発。乗客は観光客と地元との人合わせて10人ほどだった。

伊予灘に沈む夕日も印象的だ

 すっかり有名観光地となった駅を車で訪れる人も多い。時刻表を見ると、そのほうが便利なことは間違いない。ただ、利用者がもっと減ったら、列車がこない駅になってしまうかもしれない。観光客の勝手な願いであることは承知しているが、そうなると寂しい。

 ローカル線に揺られてのんびりと出かけ、海を無心に眺めつつ、次の列車を気長に待つ、そんな絶景駅の楽しみ方をする人が増えてくれたら。松山に戻る列車の中で、そんなことを考えた。

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(文・写真 &Travel編集部 久土地亮)

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