にっぽんの逸品を訪ねて

観光鯛網でにぎわう“潮待ちの港”鞆の浦で鯛茶漬けや保命酒を味わう

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2017年5月16日

江戸時代さながらの町並みが残る鞆の浦。太田家住宅付近

 山陽新幹線福山駅からバスで約30分、瀬戸内海沿岸の中央に位置する広島県福山市「鞆(とも)の浦」は、古くから風光明媚(めいび)で名高く、また海上交通の要所として栄えてきた。

 瀬戸内海では、満潮時には東の紀伊水道と西の豊後水道の両方から潮が流れ込み、中央部の鞆の浦沖でぶつかる。逆に干潮時には鞆の浦沖を境にして潮が東西へ流れ出る。潮の流れに左右される船は、鞆の浦で潮流が変わるのを待たなければならなかった。それゆえ古代から“潮待ちの港”として大いににぎわった。

 人が集まるところには商業が発達し、寺院も集まり、文化が育まれる。波穏やかな海に面した美しい港町には、数多くの史跡が残り、歴史的な逸話も多い。ふらりと歩くのが楽しい町だ。

目で舌で楽しむ鞆の浦の鯛

 5月は鞆の浦が一段と活気づく。例年、「鞆の浦の観光鯛網」(今年は28日まで)が行われるからだ。

 冬の間、外洋で過ごした鯛は、桜が咲き、新緑が美しい季節になると、産卵のために瀬戸内海にやってくる。古くは陸地からの地引き網漁法だったが、江戸時代初期に、魚群を船団で囲み、網に追い込んで獲る「鯛しばり網漁法」が確立された。この伝統的な漁は“鯛網”とよばれ、約380年も受け継がれている。

 大漁旗を風になびかせ、青い海原を進む鯛網船団はなんとも勇壮だ。観光鯛網では、観光船に乗って間近で伝統の漁を見学することができる(団体は要予約)。

迫力ある漁が間近で見られる観光鯛網(画像提供:福山観光コンベンション協会)

 港周辺には鯛料理が食べられる店も点在している。海岸沿いの通りに立つ「魚処 鯛亭」もその一軒だ。

 昼は開店時間の前から行列ができる人気ぶり。カウンターの向こうでは、この道50年以上というご主人が一心に包丁をふるっている。その威厳あるたたずまいに、思わず姿勢を正して料理に向かいたくなる。

 メニューは鯛造り定食や鯛茶漬け、鯛めし、そして刺し身や鯛の煮付けがセットになった「鯛自慢」など。

厚みのある身がのった鯛茶漬け

 まず驚いたのが鯛の刺し身だ。ぷっくりとして、歯が押し返されるほどの弾力がある。甘みも濃い。鯛飯は米の一粒一粒に上品な鯛のうま味がしみ込んでいる。アツアツのダシでいただく鯛茶漬けは、鯛しゃぶのようで、刺し身とはまた違った食感が楽しめる。実においしく、至福のひと時だった。

鯛めし(奥)や刺し身、煮付けも美味

坂本龍馬も訪れた福禅寺対潮楼

 昼食の後は町並みを散策した。鞆港バス停近くの高台には、真言宗の福禅寺が立っている。本堂に隣接する客殿の対潮楼(たいちょうろう)は江戸時代の元禄年間に創建され、朝鮮通信使の迎賓館として使用された歴史がある。座敷から眺める仙酔(せんすい)島や弁天島の光景は、窓枠を額縁に見立てた一幅の絵画のよう。1711年に朝鮮通信使として訪れた李邦彦らは「日東第一形勝」と称賛している。

対潮楼から望む絵画のような風景

 対潮楼には坂本龍馬も訪れている。1867年、坂本龍馬と海援隊が乗船していた「いろは丸」は、鞆沖で紀州藩所有の明光丸と衝突して沈没した。対潮楼では、坂本龍馬はじめ関係者による話し合いが行われた。

 福禅寺の前の道を西へ歩くと、入り江になった鞆港に出る。港を抱くように波止が延び、波打ち際には雁木(がんぎ)とよばれる船を着けるための石階段が続いている。心和む風景だ。

鞆港に立つ常夜燈

 雁木の南端には1859年建造の常夜燈が、今も鞆の浦を見守るようにたたずんでいる。この近くには、いろは丸の衝突事件の概要を解説したいろは丸展示館が立ち、潜水調査によって引き揚げられた遺物なども展示されている。

潜水調査のようすや坂本龍馬の隠れ部屋も再現されている

 港から一歩路地に入ると、白壁の土蔵や格子戸の民家が続き、江戸時代さながらの風景が続く。

 特に目を引くのは、母屋や蔵が連なる太田家住宅だ。もとは「保命酒(ほうめいしゅ)」という漢方薬酒の蔵元だった中村家の建物であり、1863年には、公武合体派に追われた三条実美(さねとみ)ら7人の公家が長州へ下る途中に立ち寄ったという歴史もある。明治期以降は回船問屋の所有となった。瀬戸内海を代表する歴史的建造物として、国の重要文化財にも指定されている。

藩政時代から受け継がれる薬味酒も

岡本亀太郎本店の蔵元直営店。「保命酒」の看板が歴史を物語る

 鞆の浦の代表的な名産品の一つである保命酒は、実に350年の歴史がある。1659年、漢方医の子息である中村吉兵衛氏が、現在の味醂(みりん)に中国産の16種の生薬を漬け込んで造ったのが始まりだ。やがて福山藩の御用酒として中村家だけに独占醸造権が与えられた。甘く、健康にもよいといわれた薬味酒は人気が高く、全国に流通し、浦賀にやってきたペリー提督も飲んだ記録があるという。

 町並みには、保命酒の蔵元が4軒ある。その中で中村家から看板や仕込み甕(かめ)を譲り受けたのが岡本亀太郎本店だ。福山城内にあった長屋門を移築した蔵元直営店は、堂々たる店構え。店内の看板を飾る龍の彫刻もみごとだ。伝統の保命酒のほか、辛口のもの、梅やアンズ味の飲みやすいものなども販売。試飲コーナーもある。

気軽に試飲ができる

 町並みには由緒ある寺社も多く、日帰り入浴ができる温泉宿もある。

 船で約5分の仙酔島(せんすいじま)にもぜひ渡りたい。あまりの美しさに仙人が酔って落ちてしまったというのが名の由来だそうだ。確かに弓状の砂浜や、五色の岩が続く海岸など、美しい風景が続く。圧巻は大弥山(おおみせん)からの眺めで、鞆港や港町を一望する。

 どこを見ても癒やされる、鞆の浦はそんな印象の町だった。

大弥山から鞆の浦を望む

交通・問い合わせ


山陽新幹線福山駅からトモテツバスで約30分の鞆の浦、または鞆港下車

鞆の浦観光情報センター 084・982・3200/9:00~19:00/無休
福山観光コンベンション協会 084・926・2649
同協会ホームページ


観光鯛網について

・魚処 鯛亭 084・982・0481/平日11:30~14:00、17:30~21:00、日曜11:30~15:00、17:30~21:00/水曜休

福禅寺対潮楼

いろは丸展示館

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太田家住宅

岡本亀太郎本店/

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。 『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、 『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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