絵本のぼうけん

小湊鐵道「里山トロッコ列車」を旅する絵本

  • のりもの絵本(2)
  • 2017年6月6日

『小湊鐵道沿線の旅 出発進行!里山トロッコ列車』
作:かこさとし

 千葉県のローカル線、小湊鐵道(こみなとてつどう)は、沿線の里山の景色を存分に楽しんでもらおうと、光や風をいっぱいに受けて走る「里山トロッコ列車」を運行しています。その絵本『小湊鐵道沿線の旅 出発進行!里山トロッコ列車』(偕成社)は、鉄道ファンのみならず、沿線の住民や子どもたちにも豊かな自然と文化を知ってもらいたいという願いをこめて出版された一冊です。

 出版のきっかけは、小湊鐵道が里山トロッコ列車の運行開始を記念し、パンフレットのさし絵を絵本作家の、かこさとしさんに依頼したことでした。その下絵が出版社の目にとまり、絵本も制作することになったそうです。里山トロッコ列車と房総の地に魅せられたかこさんは、沿線の歴史と文化を丹念に調べ、窓の外に広がる風景をのびのびとしたタッチで描いています。長年、子どもにも大人にも愛される絵本を生み出してきた、かこさとしさんの新しいチャレンジ精神と情熱が伝わる作品です。

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 まずは「里山トロッコ列車」の紹介。一見レトロな車両は、昭和26年まで小湊鐵道で働いていたSLの姿を再現したディーゼル機関車。客車は窓なしのオープン型と窓あり型が2両ずつ。ガラス屋根など現代の技術で新たに製作されました。

  

 列車は里見駅を出発し、トロッコ列車の終点、養老渓谷駅まで約10キロを旅します。沿線の風景を春夏秋冬、それぞれの場面で描き、季節の植物や動物、虫など生きものも詳しく紹介しています。房総の里山を舞台に、かこさとしさんならではの絵本の世界がページいっぱいに広がります。

  

 月崎駅のまわりはあじさいの道となっていて、梅雨時にはほたるが飛びかう所です。夏の大三角形をかかげる夜空にホタルがぽつんぽつんと光る、幻想的な風景が描かれています。

 江戸時代の水利工事「川廻(まわ)し」の跡、壬申の乱にまつわる伝説、「南総里見八犬伝」ゆかりの寺、地層の話、そして「世界一大きなトイレ」まで…。のどかな景色の中に秘められた沿線の歴史や文化を紹介しつつ、列車はやがて養老渓谷駅に到着します。御年90歳(刊行当時)を過ぎたかこさとしさんの旺盛な探究心と取材力には驚くばかりですが、けっして“語りすぎる”ことはありません。読者に旅のヒントを与えるにとどめ、まだ見ぬ土地への興味をかきたててくれます。

 都会の喧騒(けんそう)をはなれ、自然と一体になって走るトロッコの味わいは格別なもの。本来トロッコとは、堤や道路などの工事のときに材料や人を運ぶために使う簡易な貨車のことですが、「里山トロッコ列車」のように旅客用に仕立てた観光トロッコ列車は日本全国を走っており、本書の扉ページでもその18路線が紹介されています。

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<旅のメモ帳>
 小湊鐵道「里山トロッコ列車」は2017年5月現在、上総牛久(かずさうしく・JR千葉駅から約1時間)駅を始点として養老渓谷駅まで運行されています(通常:平日2便 / 主な金土休日2〜3便。乗車には事前申し込みが必要)。なお養老渓谷駅で下りの一般列車に乗り換えれば、次の上総中野(かずさなかの)駅からいすみ鉄道線をへてJR外房線大原駅に向かうこともできます。小湊鐵道のFacebook

ページでは、沿線のイベントなどもタイムリーに発信しています。

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『小湊鐵道沿線の旅 出発進行!里山トロッコ列車』
作:かこさとし
定価:本体1,200円(税別)
出版社:偕成社

<かこさとし プロフィル>
 1926年福井県生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業(工学博士)。民間企業勤務をへて絵本作家、児童文化研究者に。以来、物語絵本、知識絵本から紙芝居まで500以上の作品を出版。著名な作品に『からすのパンやさん』『どろぼうがっこう』など「かこさとしおはなしのほん」シリーズ(偕成社)、「だるまちゃん」シリーズ、『宇宙』『かわ』(福音館書店)、『未来のだるまちゃんへ』(文藝春秋)などがある。高齢となった現在も続々と作品を発表中。

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PROFILE

長嶺今日子(ながみね・きょうこ)

子ども一人ひとりの個性に合わせて絵本を選び届ける「ブッククラブえほんだな!」主宰。子育て支援のイベントやライブラリーの選書も手がける。また、多言語による読み聞かせ活動にも長年携わっている。「ブッククラブえほんだな!」

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