蓬萊島-オキナワ-の誘惑

“宇宙一口福“を与えるバーガー 「キャプテンカンガルー」

  • 文・写真 馬渕和香
  • 2017年6月19日

“宇宙一おいしい”キャプテンカンガルーのハンバーガーには、おいしさを進化させ続ける工夫とハンバーガーへのあふれる情熱が詰まっている。写真は、創業者の橋本将仁さんがハワイで食べ歩いたハンバーガーからヒントを得てつくったスパーキーバーガー

 「キャプテンカンガルー」の店長、宮垣良平さんは、ハンバーガーをほおばるお客さんの姿に見とれてしまうことがある。

 「カッコいいですよね、ハンバーガーって。それ自体の見た目もそうやし、食べている人の姿を見てもカッコいいです」

 たとえ上手に食べられなくて、口元がソースで汚れてしまっても、それもひっくるめて「ハンバーガーの醍醐味(だいごみ)」だから、やっぱり宮垣さんは見とれてしまう。

 「ほっぺにソースがついているのも気づかずに、おいしそうに食べてくれる女の人がすごくきれいに見えることがあります。『あ、いいな。かわいいな』と思います」

 開店前の静かな店内に、名護湾のエメラルドブルーの海に向いた窓からまばゆい光が差し込んでくる。あと1時間もすれば、ここはハンバーガーを夢中になってほおばる人びとの姿で埋め尽くされる。

開店の30分ほど前に早くも4人の客が来店し、すぐ前のビーチで時間をつぶしていた。店内には、大柄な外国人客でもゆったり座れるアメリカ製のソファセットがいくつも置かれている

 8年前、宮垣さん自身もここで夢中になってハンバーガーを食べていた。当時宮垣さんは大学生。数度目の沖縄旅行で、初めてキャプテンカンガルーを訪れた。

 「旅行中、沖縄そばも食べたしタコスも食べましたけど、ここのハンバーガーに感動して、一番衝撃を受けて、自分も将来ハンバーガー屋さんをしたいと思うようになりました」

 社会福祉士になることを目指していたが、その目標がかすんでしまうほど、味わった感動と衝撃は大きかった。

 「それまで食べてきたファストフードのハンバーガーとはまるで違うハンバーガーがあることに衝撃を受けたし、スタッフの接客にも、お客さんとつながろうとする気持ちが感じられて、こんな場所を今まで経験したことがなかったという感動がありました」

 関西の大学を卒業すると、「沖縄にいきなり来ることが想像つかなくて」、いったんは東京の老舗バーガー店に見習いに入ったが、キャプテンカンガルーの代表者である橋本将仁さんに、「沖縄、こうへんか」と誘われて移り住んだ。

代表者の橋本さん(左)と宮垣店長。宮垣さんの人柄を見込んで、橋本さんが東京まで「口説きに行った」という

 「キャプカン」の愛称で親しまれているキャプテンカンガルーは、実は沖縄で生まれた店ではない。18年前に橋本さんが大阪で開いた「ちっちゃなアメリカンなバー」が1号店だ。橋本さんによれば、最初、ハンバーガーはメニューになかった。

 「最初は、ホットサンドぐらいしか出していないちっちゃなバーだったのですが、店が広くなってお客さんも増えたので、フードメニューを充実させようとアメリカにひと月だけ勉強に行ってハンバーガーを出し始めたんです」

 店は繁盛し、橋本さんは「次のステップ」として妻の郷里の沖縄に姉妹店を開くことにした。「大阪が夜のバーだから、沖縄は海沿いのカフェに」というイメージで本島をあちこち探し歩いて、今の店にたどり着いた。

「かしこまった感じじゃなくて、いい意味でカジュアル」なところがキャプテンカンガルーの良さだと宮垣さんは言う

 「カフェをするんやったらハンバーガーをもっともっと進化させないと」。強い意気込みを胸に沖縄の店を立ち上げた橋本さんは、肉や野菜と並んでハンバーガーのおいしさの決め手となるパンを地元の業者に特注でつくってもらうことから始めた。

 求めていたのは、大阪の店で使い続けてきた「食パンとフランスパンの間ぐらいの固さ」のハードバンズ。「どこのパン屋でもすぐにつくってくれるだろう」と、付近の業者をまわって製造をお願いしたが、次々と断られた。

 「『特注はやっていないから』と10軒ぐらいに断られました。でも、下町の工場って感じのパン屋さんがつくりますと言ってくれて、いろいろ試行錯誤してつくってもらいました」

スタッフが棚の上にきれいに並べていたバンズ。「ハンバーガーは口に入ったときのバランスが大事」と考える橋本さんが行き着いた歯ごたえのしっかりあるパンだ

 そうして出来上がったバンズは、「キャプテンカンガルーと同じパンをつくって」と工場に依頼がある(が断っている)ほどの完成度の高さ。それを店では、そのまま使うのではなく、「マックスに熱した」鉄板で7、8分かけてカリカリに焼いてから具材をはさむ。

 「肉を焼くよりも時間をかけます。けっこうお客さんを待たせることもありますが、それでもやっぱり、パンをしっかりと焼いとかんと」

 「嫌になるぐらい焼いても、次の日はまた焼きたくなる」ほど、鉄板の前に立つのが好きだという店長の宮垣さんが言った。

「日々おいしさを進化させる」ために、最近、パティに混ぜる牛脂を「甘さのある」和牛の脂に切り替えた。ひき方も、極小のミンチから現在の粗いひき方までさまざまに変えてきた

 多い時で一日300人以上が食べるハンバーガーのおいしさの秘密は、まだある。数年前に合いびき肉から牛100%に切り替えたパティも、橋本さんは独自の仕込み方を編み出した。橋本さんが言う。

 「ハンバーグと言ったら、ぺったんぺったんこねるイメージですけど、うちはギュッてやるぐらいで全然こねません。その方が荒々しいいい感じが出ますから」

 こねないまま丸く成形したら、いったん冷凍する。「肉感が増す」からだ。

キャプテンカンガルーのハンバーガー第一号、ルースペシャルバーガー。鉄板で焼かれた香ばしいバンズと、「肉肉しい」と宮垣店長が言う粗挽き牛肉のパティと、シャキッと冷えた野菜と、ピクルス入りのソースが舌の上で衝撃のハーモニーを奏でる

 食感のバランスにとって大切なレタスは、シャキッと感を出すために一枚一枚きれいに折り畳んでから氷につけておく。ソースは7種類の材料が入ったスペシャルソースを始め、基本的に手づくりだ。

 「でも」と、ここで一つ疑問が湧いた。固めのバンズも牛100%のパティも、丁寧に下ごしらえをした野菜も手づくりソースも、この店だけのオリジナルというわけではないだろう。それなのになぜ、キャプテンカンガルーのハンバーガーは、毎日数百人が長い待ち時間を覚悟して食べに来るほど、人を引き付けるのだろう。

ひとたび開店すると席待ちの人が絶えない。客はアメリカ人をはじめ、外国人も多い。「けっこう世界中から来てくれています」と宮垣さん

 「『おいしくなーれ』って口ずさみながらつくっています」

 その答えのヒントになりそうなことを宮垣店長が言った。

 「あるとき気づいたら、無意識に言っていたんです。焼く時もソースをつくるときも、だいたいずっと、ぼそぼそ言っています」

 宮垣さんは、無意識におまじないまで唱えてしまう自分と、材料や調理法をひらめきによって「どんどん変えて、どんどん進化」させていく橋本さんと、毎日欠かさず食べるほどハンバーガーが好きなスタッフとがつくり出すキャプカンのハンバーガーは、「沖縄一を通り越して、宇宙一おいしい」と胸を張る。

 「何もよその店と比べているわけではないんです。ここのハンバーガーが一番好きだから、僕もスタッフも、宇宙一だと思っています」

 これだけの強い思いから生まれるハンバーガーだ。おいしくならないわけがない。

    ◇

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キャプテンカンガルー
沖縄県名護市宇茂佐183
0980-54-3698
11:00~20:00(19:30ラストオーダー、水曜日休み)

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PROFILE

馬渕和香(まぶち・わか)/ライター

写真

元共同通信社英文記者。沖縄本島北部、やんばるの丘に建つパステルブルーの小さな古民家に暮らして18年。汲めども尽きぬ沖縄の魅力にいまなお眩惑される日々。沖縄で好きな場所は御嶽(うたき)の森。連載コラムに「沖縄建築パラダイス」(朝日新聞デジタル&M)、「オキナワンダーランド」(タイムス住宅新聞)がある。

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