世界美食紀行

ハワイ流江戸前すしの衝撃「すし匠」 ハワイ(1)

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2017年8月7日

ハワイ初心者らしくまずはワイキキビーチのシンボルにごあいさつ。日本人ってほんとうにハワイが好きだなぁとつくづく実感。ハワイ訪問歴数十回というヘビーリピーターにもたくさん会いました

 東京・四谷で連日満席の大人気すし店「すし匠」がワイキキに店舗を構え、あろうことか主人の中澤圭二さん自身がハワイへ行ってしまったのが昨年秋のこと。すしといえば日本を代表する食文化で、世界中どこを探しても築地市場に勝るすしダネはないはずなのにハワイとは。こういうときだけ熱心な私は、出発前にお弟子さんが東京で営むすし店をいくつか回り、往年の「すし匠イズム」をばっちり復習して旅立ちました。

>ハワイで大人気すし店「すし匠」のおまかせコース、全部見せます!フォトギャラリーはこちら

「すし匠」では10席のカウンターのつけ場に3人が立ちます。中央が中澤さん、右が佐藤卓也さん、左は松倉草平さん。ほかに屋久杉のカウンターをしつらえたプライベートな個室もあります

 近ごろ世界的にブームになっている、鮮魚を用いた海鮮系すしの魚の扱いを見て、「江戸前、つまり塩や酢で締めたり発酵させたりといった仕事をすることで、魚を安全に食べる日本の技術を世界に伝えたい」とハワイへの進出を決めた中澤さん。近海ものを中心に、アメリカや一部日本の魚介も用いたコースは、日本人の私にはめずらしく、なじみのない食材のオンパレード。マカデミアナッツだのパイナップルだのヤシの芽だの南国らしい食材がアレンジされていますが、それがいわゆる外国で食べるユニークな創作すしではなく、オーソドックスかつ端正な江戸前すしに仕上がっているのがすごい。

私が座ったのはメインダイニングの檜(ひのき)のカウンター。すしを置くつけ台は「コアウッド」というハワイ産の高級木材。軽く水拭きするたびに天然の模様が浮かび上がりすしを引き立てます

 つまみと握りがランダムに組み合わされ、ときにポンポンポンッとテンポよく、ときにゆっくりひと呼吸おいてと、まるで音楽を奏でるように美しい流れは、日本で確立した「すし匠」のスタイルそのまま。また、中澤さんの真骨頂はすし飯にあると個人的には思っていて、酸味と塩味をシャキッと引き立たせた白酢のすし飯と、ホワッとまろやかで米本来の甘みを感じる赤酢のすし飯が、すしダネによって迷いなく使い分けられるのも小気味いい。

別世界に切り離されたような「すし匠」のメインダイニング。ハワイの空気が流れ込む路面店ではなく、江戸前すしの世界へとゲストの気分を切り替えるために非日常的なスペースを演出したそう

 日本から行く人にとっては、ハワイの食材が持つ魅力やバリエーションの豊かさに触れるまたとない機会です。そういう意味で、私は「高級なおすしで旅を華やかに締めくくろう」と最終日に予約してしまったのですが、これは大失敗でした。なぜなら最終日にハワイの食材を学んでも、すでに時遅し。初心者ならまず「すし匠」でハワイの食文化を体験し、それを踏まえてあれこれ食べてみるのがよさそう。また、休日には話題のレストランを食べ歩いているという中澤さんに、いま注目のお店リストを教えてもらうのもおすすめです。

かつては王族だけが食べたという高級魚モイ。カウンターの後ろの冷蔵庫の扉には、日本から来た華屋与兵衛がハワイ沖でモイを釣り、すしを握ってハワイの王族に献上した、というストーリーが木彫りで表現されています

 「四季のない常夏の島でどう変化をつけていくか、(ハワイのものでなく)日本と同じすしを食べたいという地元の人の希望にどう応えるか、漁師さんや問屋さんに魚の扱いをどう理解してもらうか。まだまだウチは模索中で、これからも課題は山積です」。

 そう中澤さんは話すけれど、「すし匠」はハワイのフードシーンにおいて重要な一画を担っていると、ハワイの食に精通したフードライターのショーン・モリスさんは言います。

ハワイの著名なフードライター、ショーン・モリスさん。ハワイで生まれ育ち、ハワイの食文化や最新情報を英語と日本語で発信しています。中澤さんにも日本語で独占インタビューを行い、江戸前すしについて造詣を深めたそう

 ショーンさんによると、ハワイで食への意識が高まったのはここ10年ほど。ハワイ出身のセレブシェフが名声を得て、ファインダイニングという概念が定着し、高級レストランを受け入れる素地が整ったのが最近のこと。もともと日系の人が多いハワイで、最高級のすし店「すし匠」の登場はうってつけのタイミング。いまの時代を象徴するできごとのひとつだそうです。

「セニア」の看板メニューで、トレンドの炭火焼きで調理した「キャベツのグリル」。見た目は黒焦げですが中はみずみずしくジューシー。バターミルクとハーブのソース、ほろ苦いモリンガのパウダーが添えられています

 一方で、ハワイではやっているのが、私も2年前にニューヨークで出合ったコンフォートフード。こういったコンフォートフードに、ハワイならではのアジアや中東、地中海といった多様性がブレンドされ、それを新しく解釈した「ニューアメリカン料理」が、いまのハワイのトレンドだそう。そんな新しいハワイを味わえるのが、ダウンタウンにオープンした「senia(セニア)」。「すし匠」の中澤さんも、いまイチオシと太鼓判を押すほど勢いのある1軒です。

フォアグラといえば濃密な味わいをイメージしますが、セニアのフォアグラはフレッシュであっさりさわやか。炭火で焼き色をつけたライチの甘酸っぱさやエルダーフラワーのジュレの香りがハワイの気候にぴったり

 ユニークな調理法やフォトジェニックなプレゼンテーションは、世界のトレンドをしっかり押さえているし、ソムリエによるワインペアリングや、キッチンを目の前にするシェフズテーブルもすごくいまどき。多少粗削りなところもあるようですが「このレベルまで行っていたら、世界のレストランに並ぶ日も近い」と、中澤さん。

 すでに「ハワイに行くからあれ食べよう」ではなく、「すし匠に行きたいからハワイへ飛ぼう」というフーディーの流れができつつある今日このごろ。これからハワイのフードシーンがどう変わるのか、楽しみでしばらく目が離せません。

ポキ(ポケ)はハワイではどこででも見るローカルフードですが、すし匠版もセニア版も個性的で洗練された味わい。セニア版ではアボカドのクリームやポン酢のジュレで味をまとめてイカスミのライスクラッカーに乗っていました

>ハワイ流江戸前すし、「すし匠」のフォトギャラリーはこちら

■トラベルデータ

日本からハワイへは、新規参入したLCC(格安航空会社)を含め複数の航空会社が、全国各地から直行便を飛ばしている。この旅では、成田・中部・関西・福岡から直行便を運航しているデルタ航空の成田便を利用した。成田からホノルルへの飛行時間は約7時間。
公用語は英語とハワイ語。入国管理を含め観光客がよく訪れる施設では日本語のみでまったく支障がない。
時差はマイナス19時間。通貨はUSドルで1USドル=約116円。
*データは2017年7月取材時のもの

■MEMO:旅と予約

「すし匠」の営業は、月曜〜土曜のディナータイムのみ(日曜定休)。2部制で1部は17時〜19時30分、2部は20時〜22時30分。メニューはおまかせ300USドル(プラス税とドリンク)のみで、予約時にはクレジットカードの番号が必要。予約日時から48時間以内のキャンセルは、ひとり150USドルのチャージがかかります。

現在のところインターネット予約に対応する余力がないため、予約受付は電話(日本語)のみ。公式サイトにはハワイ時間の14時から16時が受け付け時間と記載されていますが、中澤さんによると仕込みや片付けで店内にいる時間が長いため、営業時間を除けば電話対応可能なので都合のいい時間に電話して構わないそう。

満席の場合はキャンセル待ちが可能。特にひとりかふたりといった少人数ならキャンセルが出る確率は高いそう。私はキャンセル待ちで予約を取りました。

■取材協力:

デルタ航空

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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)トラベルジャーナリスト

江藤詩文

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

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