旅空子の日本列島「味」な旅

民話のふるさと、『遠野物語』の地に流れる昔話の時間

  • 文 写真 中尾隆之
  • 2017年8月9日

『遠野物語』を見聞できる「とおの物語の館」

  • 鍋倉城跡から見下ろす遠野市街のたたずまい

  • 新しさの中にも城下の趣を伝える遠野の家並み

  • 元祖といわれる「まつだ松林堂」の銘菓「明がらす」

  • 岩手を代表する郷土料理の「ひっつみ」(伊藤家)

  • 郊外にある遠野の暮らしがしのべる伝承館

  • カッパ出没の民話を伝える常堅寺そばのカッパ淵

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 岩手県の中央部、北上山地の山並みに囲まれた遠野は中世から近世まで長く続いた城下町。内陸と海岸を結ぶ街道にあって物や人々の交流、馬の産地として栄えた。柳田國男の『遠野物語』で民俗学の宝庫、民話のふるさととして紹介され、県内有数の人気の観光地になっている。

 盛岡から快速「はまゆり」で訪ねたのは、水田に早苗が揺れる初夏。これまで二度この地を訪ねて遠野に対するイメージができあがっているが、今回の訪問でも、そのイメージと実際の風景は思いのほか近かった。駅はモダンな洋風建物。駅前の「旅の蔵遠野」の観光案内所で地図をもらい、レンタサイクルで最初に向かったのは、駅前通りをまっすぐ進んだ先の南部氏1万2500石の居城、鍋倉城跡だ。明治維新で取り壊されて見るべきものはないが、城主をまつる南部神社や公園になった本丸跡で歴史をしのび、市街を見下ろしながらしばし足を休めた。

 ふもとに立つ遠野市立博物館(0198-62-2340)では町・里・山に分けた展示と映像で、八戸から移封した城主南部氏や柳田國男の『遠野物語』の知識を入れて、すぐそばの来内川沿いにある「とおの物語の館」(0198-62-7887)に入った。

 広い敷地には移築した柳田國男の定宿の旧高善旅館や東京の隠居所をはじめ、酒蔵を改装した昔話蔵、語り部や郷土芸能が鑑賞できる遠野座、物産販売の赤羽根蔵、江戸中期・後期の住宅・蔵を改装した食事処・伊藤家など蔵造りが数棟集まる。近接の遠野南部家の武具、商家の生活道具を展示する城下町資料館も見学したので、2時間ほどが過ぎていた。

 碁盤目状の街中を巡っていると、白壁や荒壁、黒板壁、なまこ壁の商家や民家、銀行など民芸調の趣ある建物がそこかしこにあって、好ましい町並みになっていた。

 なかでも目立つのは、隣接や向かい合う数軒の和菓子店が掲げる「明(あけ)がらす」の看板。米粉に砂糖、クルミ、ゴマを混ぜてかまぼこ形にして蒸したもっちりした遠野の郷土菓子で、切り口のクルミが明け方に飛ぶカラスに見えるのが名付けの由来という。明治元年創業の「まつだ松林堂」(0198-62-2236)が元祖である。

 遠野のたいていの食事処にある「ひっつみ」は、小麦粉に少々塩を入れて水でこね、ねかせて一口サイズにちぎって薄くのばし、具材いっぱいの鶏がらだし汁に入れて茶わんに盛って食べる郷土料理。昔話の館の伊藤家で食べたそれは、澄んで味わい深い鶏がらだし汁と、のど越しがつるりとしたひっつみがいい味だった。

 語り部の民話に耳を傾けたあと、駅の北東5~6キロにある重要文化財の曲がり家の旧菊池家住宅の見学や民話の語りも聞ける伝承園(0198-62-8655)に足をのばした。ここから畑の道をカッパ狛犬(こまいぬ)のある常堅寺と、カッパが出没したというカッパ淵まで行った。どこか昔話の中に入り込んだようなのどかな時間が流れた。

アクセス・問い合わせ

・JR釜石線遠野駅下車
・遠野市観光協会 0198-62-1333
・遠野市産業振興部商工観光課 0198-62-2111

※都道府県アンテナショップサイト「風土47」より転載。
※文中の施設名のリンク先は楽天トラベルの情報ページです。

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PROFILE

中尾隆之(なかお・たかゆき)ライター

nakao takayuki

高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。「風土47」でコラムを連載中。

風土47

fudo47

都道府県のアンテナショップの情報を集めたポータルサイト。全国的には知られていないけれど味も生産者の思いも一級品、そんな隠れた名品を紹介する「日本全国・逸品探訪」など様々な記事が掲載されている。

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