世界美食紀行

「御膳房 The Tasting Room」でびっくり! フランスからマカオへやって来た13年前の熟成肉

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2017年9月4日

「御膳房 The Tasting Room」の13年間熟成した牛肉、ジロール茸とニョッキを添えて。やわらかそうに見えますがしっかりとかみごたえがあり、ナッツのような独特の香ばしさが漂います。くさみはありませんが、野性味のある肉らしさも感じられました

 早口の英語で数字を言われるのが、ちょっと苦手です。特に“ガロン”やら“ポンド”といった単位がつくと、パッとわからないこともしばしば。だから聞き間違えたと思いました。けれどもくっきりした目鼻立ちが印象的なブラジル美人の双子のホールスタッフは、大きな瞳をさらに見開いてこう言ったのです。「この牛肉は、2004年から13年間、熟成しました」と。

超長期熟成肉とともに「御膳房 The Tasting Room」が力を入れているのがシャンパーニュの品ぞろえ。ランチタイムからこれだけの銘柄をグラスで提供するのは、東京でもあまり見たことがありません。ワインもフランスやヨーロッパを中心に充実

 一時のブームを経て、日本でもすっかり定着した熟成肉。お肉が好きな人なら、新鮮な霜降り和牛よりエイジングした赤身肉を好むという方もいらっしゃるのではないでしょうか。いま主流なのは、アメリカのステーキハウスなどでは定番の、低温で風を当てながら熟成する「ドライエイジング」という方法です。が、私がこれまで食べてきたのは、だいたい2、3週間から長くて2カ月ほど熟成したもの。それが13年とは!

「フランス料理を味わう喜びは、デザートにもある」とヴュランさん。「御膳房 The Tasting Room」では写真のアヴァンデセール(ひと品目の小さなデザート)、メインのデザート、プティフール(小菓子の盛り合わせ)が基本。アヴァンデセールにも手をかけています

 ここ「御膳房 The Tasting Room」は、マカオの発展目覚ましい埋め立て地「コタイ」にある巨大カジノリゾート「シティ・オブ・ドリームス」が誇るフレンチレストラン。先ごろフランスから新しいシェフを料理長に迎え、そのシェフ、ファブリス・ヴュランさんがフランスから取り寄せているのが、10年以上寝かせた熟成肉というわけ。マイナス43℃の空間で時速120kmの風をあて、一気に冷凍して熟成する牛肉は、まったく新しいエイジングビーフとして世界中から注目され、世界でもっとも高値で取引きされると言われているそう。アジアで食べられるのはこの1店だけ。ちなみに事前予約が必要ですが、最古のものでは1995年から熟成しているかたまり肉も用意しているとか。

中華圏ではお酒のバリエーションが少なめ、というのは昔の話。バーカウンターには食前酒から食後酒までしっかりそろっています。「御膳房 The Tasting Room」は2017年版「アジアのベストレストラン50」で39位、ミシュラン2ツ星を獲得しています

 「これまでは欧米からアジアへ進出する場合、まず東京か香港に上陸するのが王道でした」とヴュランさん。けれども今回はマカオ。その理由をヴュランさんはこう説明します。「観光を大切にしているマカオは、政策としてレストラン文化を重要と位置づけています。また、レストランを運営する企業は、カジノなどエンターテインメント施設から収益を見込めることもあり、高級な食材を取り入れることに積極的です。そのうえゲストも、高級な料理を求める人が多いのです」。

マカオではティーペアリングも流行していて、高級な食材に希少な中国茶の組み合わせを楽しめます。香港出身の料理人タムさんが率いる「Jade Dragon」は2017年版「アジアのベストレストラン50」で32位、ミシュラン2ツ星を獲得しています

 さらに、ファインダイニングといわれる最高級レストランは、お皿の上の料理だけでなくインテリアやテーブルウェアなども大切ですが、そういったものに企業が惜しみなく投資してくれるのも、ファインダイニングを手がけたいヴュランさんにとっては魅力だったそう。ダイニングと同じくらい広々として、調理台の間隔もゆったりと取った動線のいいキッチンには、ピカピカの最新調理器具がずらりとそろっていました。

「Jade Dragon」にはワインのソムリエのような中国茶の専門家がいて、的確なアドバイスをいただけます。テーブルセッティングも美しい。写真の前菜は、タロイモのケーキと金木犀(きんもくせい)のジュレ仕立て。金木犀は中国料理ではよく使う食材。華やかな香りとともに食事をスタートします

 フランス料理だけではありません。マカオといえばやっぱり味わいたい中国料理も、よりハイエンドに進化しています。たとえば新鮮で高品質な魚介類は、日本から取り寄せるのが世界的にブームですが、日本からの距離や飛行機の利便性などを考えると、よいものは香港、次いでシンガポールくらいが限度とも言われていました。けれどもマカオは、香港を経由しなければシンガポールよりずっと日本に近い。また、世界の食が行き交うハブ都市といわれる香港は、それこそおひざ元で、お酒にしても輸入食材にしても香港と遜色なく手に入れることができるわけです。

医食同源という考え方も中国料理の長い歴史のなかで培われたもの。「Jade Dragon」でもスープにはイノベーティブな技術は使わず、時間をかけて伝統的な調理法で作りあげます。スープは季節や天候によって食材が変わり、写真は「気温も湿度も高く、身体に熱がこもった日のためのスープ」

 そんな食材を、現代の調理技術を駆使しつつ「いじりすぎない」のが中国料理の本質と、香港出身の料理人、タムさんは言います。「新しく台頭した料理とは違い、中国料理では何を食べているかわからない科学実験のような料理は、あまり好ましくありません。数千年の歴史がある中国料理は、この食材ならこの調理法といったレシピが長い年月をかけて構築されてきました。それらを味わっていただくのもマカオの食の醍醐味(だいごみ)です」

こちらはミシュラン2ツ星の「Pearl Dragon」。広々とした店内はゾーンに分けられていて、なんとカジノを見渡せるエリアも。個室が充実していて、こちらもさまざまなタイプの個室がありました。中国料理店ながら「Jade Dragon」も「Pearl Dragon」も大型のワインセラーを備えているのが今どき

 伝統を踏まえつつ、どんどん進化するマカオのレストラン事情。歴史的に、マカオはポルトガル料理店も充実しているし、旧市街には昔ながらの名店もたくさん。これからマカオを訪れるたびに、何を食べようかとますます頭を悩ませることになりそうです。

「Pearl Dragon」でもコースには季節のスープが組み込まれていました。こちらはスープの後に登場したロブスター。カダイフ(極細の生地)の衣をつけて揚げたサクサクした食感と、サッと加熱して甘みを引き出したプリプリした食感の2つを一度に楽しむひと皿です

■トラベルデータ

日本からマカオへは、マカオ航空が成田・関空・福岡から直行便を飛ばしている。成田からマカオへの飛行時間は5時間5分。香港国際空港から高速船に乗り継ぐのも一般的で、高速船の所要時間は約50分。
公用語は中国語とポルトガル語。広東語がもっとも普及している。ホテルやカジノ、観光地では英語が通じるが街中では通じにくい。
時差はマイナス1時間。通貨はパタカ。等価通貨として香港ドルを利用できるので、香港ドルに両替すると便利。1パタカ=1香港ドル=約14.7円。

*データは2017年3月と6月取材時のもの

■MEMO:旅と天気

8月23日に発生した大型台風13号ハトがマカオを直撃し、一部で観光にも支障が生じています。マカオ全域で復旧活動が行われており、今回レポートした巨大カジノリゾートが建ち並ぶ「コタイ」では、ほとんどの観光施設が通常営業または再開(一部は近日再開予定)していますが、「ザ・パリジャン・マカオ」の「エッフェル塔展望台」や「ギャラクシー・マカオ」の「ブロードウェイ・ホテル」など、一部の観光施設では現在のところ再開が未定になっています。また、9月に開催を予定していた「マカオ国際花火コンテスト」は、中止になりました。渡航にあたっては現地の最新情報をしっかり事前に収集することをおすすめします。

■取材協力:

マカオ観光局

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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)トラベルジャーナリスト

江藤詩文

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

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