あの街の素顔

ポーランド北部の世界遺産マルボルク城で中世の世界に迷い込む

  • 文・写真 カスプシュイック綾香
  • 2017年9月13日

  

 ポーランド北部マルボルクにあるドイツ騎士団の城、マルボルク城。ノガト川に臨む世界最大規模のゴシック様式の城であり、日本城郭協会が選んだ欧州100名城にも選ばれている。世界遺産にも登録されており、ポーランドで最も人気のある歴史的建造物だ。

 数年以上にも及んだ教会や塔の大修理が終わったというので、足を運んでみた。マルボルク城は、首都ワルシャワから高速列車で約2時間20分走った先のマルボルクという街にある。マルボルク駅は人気リゾート地グダニスクへの通過駅でもあるため、スーツケースを持つ観光客でにぎわっていた。

チケットオフィスから眺めるマルボルク城

 改修後だけに入場料は若干上がっていた(通常入場券で39.50PLN=約1200円)が、これには外国語オーディオガイド料金も含まれる。オーディオガイドは英語、ドイツ語、ポーランド語など7言語に対応しており、スクリーン画面が付いていた。2017年夏現在、日本語には対応していない。

 このオーディオガイドは、約20ヘクタールもある広い敷地の中で見学者が迷わないよう、矢印で見学順路を示してくれる。間違った方向に進めば正しい方向へ導いてくれ、見学もスムーズだ。見どころがあれば分かりやすく丸で囲んで示し、流れる解説はマルボルク城の魅力を知るには十分すぎるものだった。

公園のような広い道を通って正面入り口へ向かう

 見学を始める前に、なぜドイツ騎士団がここに城を建てたのかを軽くおさらいしておこう。さかのぼること12世紀、創設されたばかりのドイツ騎士団はキリスト教巡礼者の保護のためエルサレムや巡礼地で活躍していたが、13世紀になるとポーランド北部へやってくる。その目的は、非キリスト教徒のプルーセン人を改宗させるためであった。そしてマルボルクに本拠地を構えたドイツ騎士団は、13世紀後半にレンガ造りの要塞(ようさい)であるマルボルク城を築いたのだ。

 マルボルク城はドイツ騎士団の城として知られるが、ポーランド王国あるいはポーランド・リトアニア共和国が所有していた期間は315年にも及ぶ。実は、ドイツ騎士団が所有していた期間のほうが短いのである。

正面入り口を抜けると、開放感のある庭が目の前に広がる

 マルボルク城は三つの主な建造物で構成されており、正面入り口前の外側は「下城」と呼ばれる。中世、ここにはさまざまな作業場、武器庫、牛舎、パンを焼く工房などがあった。また、西に流れるノガト川では穀物や木材、琥珀(こはく)などを取引し、そうして得た収入で城の維持費をまかなったり、武器を購入したりしていたという。

 正面入り口のやや長い通路を抜けると、「中城」へと続く広い庭に出る。ここでオーディオガイドがなければ真っすぐ進んでしまうところだが、まずは右手の建物に入るよう説明があった。

窓のステンドグラスは、およそ100年前の作品

 ここは診療所と呼ばれるところで、老いた騎士のシェルターとして使用されていた。部屋の真ん中にあるゴシックの柱上部には、ドイツ騎士団とプルーセン人の戦いのようすが彫られている。

 ドイツ騎士団はポーランド王国ともたびたび戦争をし、15世紀にはマルボルク城をポーランド王に明け渡している。この部屋の装飾や美術品はポーランド王国が所有した時代を再現したものだ。17世紀の銀製ビールジョッキ、フランダース産のシルクと羊毛で織られたタペストリーなど展示品も興味深い。

ドイツ騎士団の所有した城の中でも最大の広さを誇る部屋

 マルボルク城で最もユニークなのはこの大食堂。ドイツ騎士団や西欧から招かれた兵が食事をとった場所だ。ゴシック様式の天井と中央にある3本の細い柱が印象的だが、注目したいのは床にある暖房システムである。いわゆる床暖房なのだが、これがよく考えられたもので面白い。

 床の取っ手のあるフタを取ると、そこには大きな空間につながる空洞がある。空間の先には熱気を通すための狭い通路があり、煙のはけ口となっている。空間は3層あり、一番下の層は燃料を燃やす場所、真ん中の層には石が敷き詰められており、上の層は何もない。つまり、熱くなった石の熱気を利用して部屋全体を温めるのだ。

かつて倉庫だった場所は現在、琥珀(こはく)が展示されている

 城には必ずと言っていいほどお宝が眠っているが、ここマルボルク城の場合は琥珀である。琥珀は「バルトの金」とも呼ばれ、ドイツ騎士団やポーランド王国の繁栄には欠かせないものだった。琥珀は樹木の樹脂が化石化したものであり、その美しさは古代から人々を魅了してきた。

 この城に所蔵されている琥珀の芸術作品は、17世紀から近代のものまであり、装飾品以外にも祭壇や金庫、ろうそく立てなどがある。一部の作品は日本でも展示されたことがあるそうだ。外面だけでなく内側にも施された細かい彫刻を見ていると、それらが琥珀であることを忘れてしまう。

高城のテラスにあるバラ園には今も美しい薔薇が咲く

 ひと通りの展示を見終えると、3番目の建物「高城」へと向かう。その入り口の手前、左手に立つのはドイツ騎士団歴代総長の中で最も重要とされる4人の銅像だ。彼らも実際にこの城に足を踏み入れたのかと思うと感慨深い。

 木造の橋を渡りきった先にはテラスへと続く出入り口が両側にある。オーディオガイドが示すままに左のほうをくぐると、歴代総長を埋葬した聖アンナ礼拝堂があり、周辺の装飾について説明があった。マルボルク城はオーディオガイドや案内人なしでは見学できないようになっているが、それは城の魅力を最大限に味わってもらうためだろう。

高城の真ん中には井戸があり、期間限定のオブジェで巨大なクモの巣が張っていた

狭い通路を抜けると、見晴らしのよい展望塔の外に出る

 高城では別料金で展望塔に上ることもできる。どの方角からも美しい眺めを楽しめるが、やはりノガト川のある西側の景色が一番美しい。ほかの見学者も西側を気に入っているらしく、記念撮影スポットとして大人気だった。

 マルボルク城の案内はまだ続くようだったが、時間の関係でここで見学を終えることになった。のんびり回ったつもりはなかったが、見学時間は3時間を越えており驚く。グダニスクへ行く途中にマルボルク城を観光するつもりだと時間が足りないかもしれない。ワルシャワからであれば、城を目的に日帰り旅行をしたほうがよいだろう。

 世界的な名城ともいえるマルボルク城の美しさは、誰が見ても圧巻のひと言だ。時間があればノガト川の対岸に渡ってみてほしい。緑に囲まれた巨大な城から歴史をさかのぼり、中世のポーランドに思いを巡らせることができるだろう。

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PROFILE

カスプシュイック綾香 (カスプシュイック・あやか )

カスプシュイック・あやか

 2014年9月、23歳で結婚を機にポーランド南部の街グリヴィツェに移住。学生時代に一人で35カ国以上を旅し、ポーランドは移住前に3回訪れるほどお気に入りの国だった。移住2年目にポーランドの魅力や文化、歴史などを知ってもらうべくブログ「ポーランドなび」を立ち上げ、現在はクラクフとヴロツワフで観光ガイドをしている。ポーランドはマイナーな国というイメージを払拭することが目標。

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