ドローン片手に世界一周! ハネムーントラベラー山口夫妻の軌跡

  • 〈前編〉
  • 2017年9月29日

  

 異国の地で、仲むつまじく寄り添う若き日本人の夫婦。背景に広がる美しい景色はどこだろうと映像を見つめるうち、焦点はみるみる彼らの顔から遠ざかり、パノラマの絶景が現れる。夫婦の姿はやがて点になり、見えなくなり、そこには空からでしか見ることができない、壮大な鳥瞰図(ちょうかんず)が広がっている。

アメリカ・コロラド川が蹄鉄(ていてつ)=ホースシュー型に蛇行する、ホースシューベンドでの一枚

 この映像を撮影したのは、京都市在住の山口千貴(やまぐち・かずたか)さん、真理子さんご夫婦。写っているのもご本人たちで、千貴さん自らドローンを操作し、セルフィー(自撮り)の要領で撮影されている。2015年7月から400日かけて世界一周の新婚旅行に出かけた2人は、行く先々でドローンを使った空撮映像をインターネットに公開し、世界中の絶景とそこに2人が居た記録を発信し続けた。やがて、イギリスのBBCが山口さん夫婦をニュースで取り上げると、その映像は瞬く間に世界中に拡散した。「ハネムーントラベラー」。いつしか2人は自分たちのことをそう呼ぶようになった。

旅のテーマを探すうちに出合った「ドローンで空撮セルフィー」

 400日、48カ国に及ぶ世界一周新婚旅行から昨年8月に帰国し、現在は京都市内で暮らす千貴さんと真理子さん。真理子さんがインストラクターとして勤めていたスイミングスクールで出会った2人は、ある日交際期間0日のまま千貴さんからプロポーズし、結婚を前提に交際がスタート。直感的にお互いを運命のパートナーとして意識していた2人は、日々の会話の中で自然と「新婚旅行で世界一周」という共通の夢を抱くようになった。「家賃3万円のアパート暮らしは、今後の結婚生活のために始めたこと。けれど世界一周が具体的になってからは、旅の資金として500万円を目標に貯金しました」(千貴さん)。

昨年8月に帰国した2人。メディアやイベントへの出演や、SNSの発信などで「ハネムーントラベラー」としての活動を続けている。

 なんともドラマチックなストーリーだが、2人の話す様子はとても自然体。
「”一生分の夫婦の会話作り”というのは、実は後付けで(笑)。せっかく世界を一周するのなら、何かテーマを持って旅したほうが楽しいと思ったんです。夫婦の思い出を作りながら、ワクワクするような面白い方法で発信できたら、年を重ねてもずっと尽きない話のネタになるなって」と千貴さんは笑う。

実際に旅で使用したドローンを見せてくれた千貴さん。旅行中に2度壊れ、現在のドローンは3代目。

 その「テーマ」を模索していた際、たまたま見つけたのがドローンの空撮映像だった。空の高みから地上を見下ろし、ドローンを操作する人や観衆が手を振る姿。ふと思い返してみると、これまで海外旅行で撮った写真は風景ばかりで、自分たちが写っている写真は数少ない。世界中の絶景の地で、自分たちの姿を映しながら、誰も見たことのない風景へと視点をいざなうことができたら……。こうして、世界一周の新婚旅行に、ドローンが加わることになった。

夫婦の絆が支えた400日。絶景の中でウエディングも

 旅は西回り。必ず行きたい場所には地図に点を打ち、大まかなルートを決めた。真理子さんは退職し、千貴さんはプログラマーという職業柄、ネット環境の整う旅先で仕事を続けることになった。400日間の新婚旅行のはじまりだ。

前と後ろにバックパックを背負って旅する2人。「とにかく身軽に」をモットーに、必要最低限の荷物で400日を乗り切った。

 最初に訪れた国はシンガポール。そこから、マレーシア、ラオス、中国へと進路をとり、行く先々で絶景スポットを探してはドローンで撮影した。マレーシア・クアラルンプールの「バトゥ洞窟」では、約270段もの長い階段を空撮するため、2度訪問して映像に収めた。中国のチベット族自治州にある「亜丁(ヤディン)自然保護区」では、雪山の斜面に当たらないようドローンの操作に苦戦しながらも、上空からしか見つけられなかったミルキーブルーの湖を発見したりした。ドローンで撮影した映像はインターネットにアップし、その度に世界中から感激の声が寄せられた。約100日間でアジアを回ると、中東、ヨーロッパ、アフリカ大陸を経て、南米・北米へと旅は続いた。

コロンビアのアマゾン川でボートから眺めた夕日。天候や蚊に悩まされハードだったが、それもいい思い出だそう。

 一番印象に残っている場所は? という問いに、「思い出がありすぎて」と困りながらも真理子さんが挙げたのは、ボリビアの「ウユニ塩湖」。世界最大級といわれる広大な塩湖はまるで鏡張りのように空を映し、360度天空の風景に包まれる。

真理子さんが「一番行きたかった場所」という、ボリビア・ウユニ塩湖でのウエディングフォト。2人にとっては結婚式のような記念日となった。

 この美しい湖で、現地で借りたウエディングドレスをまとい、2人は初めてのウエディングフォトを撮った。結婚式を挙げていない2人にとって、それは2人だけのささやかな結婚式でもあった。その時のことをうれしそうに振り返る真理子さんは、ごく普通の新婚の女性の顔だ。けれど、400日もの長い旅を乗り切れたのは、彼女のおおらかな心のありようと、夫への信頼が大きい。

「不便で困ることがあっても、旅自体がイヤになったことは一度もなかった。だんだん不便さも楽しめるようになってきました」と真理子さん。

 「旅に出るにあたって、不安や恐怖はあまりなかったです。彼は英語が堪能で情報収集が得意だということや、2人でインドを旅行した経験から、きっと大丈夫という確信があった。場所によってはトイレもシャワーもないところもあったけれど、ないものは仕方ない(笑)。それも旅行の醍醐(だいご)味だし、文化や習慣が違うからこそ、旅は面白いと思うんです」(真理子さん)

斜面にびっしりと朱色の僧院や僧坊が並ぶチベット・ラルンガルゴンパ。チベットの奥地では宿にトイレもなかった。

 2人の荷物は、メインとサブのバックパック二つずつに収まるのみ。ドローンやガジェット一式もその中に含まれる。必要最低限の荷物で旅するなかで、ないものを求めるのではなく、あるものに感謝して楽しむことが必然になった。世界各地で目にした絶景も、そこにあるだけで美しく価値のある、地球の財産そのものだった。(文/大橋知沙)

後編へ続く

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