にっぽんの逸品を訪ねて

アルプスを望む絶景の村でカフェや美術館めぐり 長野県中川村

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2017年9月26日

香り豊かなコーヒーと美しい装飾が人気の「自家焙煎(ばいせん)珈琲工房 カフェセラード」

 長野県中川村には何か不思議な魅力があるらしい。この村には移住者、特にアーティストが多く移り住んでくるのだという。

 そのためか、のどかな山村には、ハイセンスな建物や店舗が点在する。おしゃれなカフェの前にライトバンが止まり、畑仕事を終えた男性がコーヒーで一服……。そんな光景が何とも自然で目にやさしく映る。

 芸術家に愛される魅力はどこにあるのだろう?

 中川村があるのは、県南の天竜川に沿って続く伊那谷(いなだに)とよばれる地域。中央アルプスと南アルプスに挟まれ、南北に続く広大な盆地の中央部に位置している。

 「日本で最も美しい村」連合という、農山漁村の景観と文化を守り、自立して発展しようという運動にも加盟している。

美里(みさと)地区にある茅葺(かやぶ)き屋根の「谷村家」はカメラマンに人気の撮影スポット。中央アルプスを背景にした日本の原風景ともいうべき眺めだ(画像提供・中川村観光協会)

アルプスと伊那谷を見渡す“絶景の山”

 村を案内してくださったのは、ご自身も大阪から移り住んだという中川村観光協会の川上貴史さんだ。

 移住した理由をうかがうと「陣馬形山(じんばがたやま)からの眺めに魅せられた、というのも一つの理由です。個人的には日本一の風景だと思っています」とのこと。

 山好きの父親と一緒に小さいころから数多くの山に登ったが、これほど感動的な眺望に出会ったのは初めてだったそうだ。

 その陣馬形山は“絶景の山”として知られ、村のシンボルでもある。村の中心部から車で約30分。山頂下まで車道が通じている。

陣馬形山からの眺望。実際はこの何10倍もの爽快感。写真ではなくぜひ実物を見ていただきたい場所の一つ(画像提供:中川村観光協会)

 山頂展望台から見る景色は、圧巻のスケールだ。標高は1445mとそれほど高くはないが、びょうぶのように連なる中央アルプスや南アルプス、南北に続く伊那谷がはるか先まで見渡せる。高すぎないので、里の暮らしが手に取るようだ。

 初夏には水を張った田んぼがキラキラときらめき、秋には里は実った稲穂で黄金色に染まる。壮大な自然と人々の暮らしが一体になった眺めに、展望台に上った人は必ずといっていいほど歓声を上げるそうだ。

ゆったりとした時間が流れる「base camp COFFEE」の店内

 陣馬形山から下ってきた美里地区には立ち寄りたいスポットが数多くある。そのひとつが美里交差点に立つカフェ「base camp COFFEE(ベースキャンプコーヒー)」。北海道から移住したご夫妻が営んでいる。

 古い建物をリノベーションした店舗は、大きくとった窓が解放的。白を基調とした店内はさりげなく置かれたアンティークの家具や小物、ペンダントライトが、シンプルで居心地のいい空間を創り出している。

アツアツの鉄鍋で出される「自家製野菜とチキンのスープカレー」

 メニューは、自家栽培の野菜を使ったカレーや手作りスイーツ、コーヒーなど。一番人気の「自家製野菜とチキンのスープカレー」は、自家栽培の無農薬野菜と国産チキンを使用し、辛さが5段階から選べる。この日はピーマンとナス、カボチャが添えられていたが、どの野菜も大きくて力強い。それでいて繊維がやわらかく、甘みがある。

 週替わりの「ひよこ豆とトマトのカレー」は彩り豊かで、見た目でも食欲をそそる。

 店名の通り、村を探検するベース・キャンプとしておすすめの店だ。

今週のカレー「ひよこ豆とトマトのカレー」

アルプスを望む丘に立つ隠れ家的美術館

 美里地区の丘には、斬新な造りが目を引くアンフォルメル中川村美術館がたたずんでいる。1993年に開館した、フランスの前衛芸術運動“アンフォルメル”をテーマにした日本唯一の美術館だ。

森の中に赤が映える独創的な建物

 フランス芸術文化勲章も受章した鈴木崧(すずきたかし)画伯が、「かつて過ごしたヨーロッパの風景を思わせる」と、この地に魅せられて建設。まさに“芸術家に愛される村”の象徴のようにも思える美術館だ。

 収蔵された絵画とともに、建築家毛綱毅曠(もづなきこう)氏が設計した芸術的な建物も楽しみたい。本館のほかにアトリエ棟もある。

「アンフォルメルとは?」。絵画鑑賞で芸術の潮流を感じよう

ぜひ立ち寄りたいアートを感じる2軒

 村には、知る人ぞ知る名店もある。

 その一つ「タクラマカン」は、なんと額縁の専門店。店主の松島拓良さんは、20年前に村に移住し、解体された民家から出る古材などを使ってオリジナルの額縁を制作してきた。

 絵画は額縁によって見え方が変わるというが、絵画や写真など主役と引き立て合う松島さんの額縁は評判となり、全国から注文がくるようになった。

 この店も、アーティストに愛される中川村を象徴するような1軒だ。

額縁をデザインした店の看板も印象的

 松島さんは中川村の魅力を「いい意味で中途半端です。“これ”と決めつける何かがないところが心地いい。都会ではないけれど、田舎過ぎず、すごく観光地化されているわけでもない。地元の人と移住者、自然と人の暮らし、それぞれが上手に混ざって存在する。色に例えると“ピンク”ですね」と、語ってくれた。

額縁で埋め尽くされた店内で語る松島拓良さん

 もう一つの店は「自家焙煎珈琲工房 カフェセラード」。セラード珈琲の焙煎部門から独立した店主が、セレクトした豆を直火式ロースターで焙煎して販売している。こちらも全国各地からオーダーがくる名店だ。1杯ずつ丁寧にハンドドリップされたコーヒーはテイクアウトもできる。

 店は、スーパーマーケットや衣料品店などが集まった「中川ショッピングセンター チャオ」の中にあるのだが、ここだけ異空間とでもいうべきセンスあふれるディスプレーは必見。コーヒーミルなどが並び、骨董(こっとう)店のようだ。

 壮大な山並みと美しい森、そして働き者のお年寄りたちが手をかけて守ってきた棚田などの豊かな農村風景。人懐こくて温かな気質も村の魅力だ。

 芸術家ならずとも、惹きつけられる村だった。

交通・問い合わせ

中川村観光協会 ☎0265-88-3001
http://www.vill.nakagawa.nagano.jp/kankou

base camp COFFEE ☎090-9747-1645
https://basecampcoffee.wixsite.com/1445

アンフォルメル中川村美術館 ☎0265-88-2680
https://www.informelmuseum.com/

タクラマカン ☎0265-88-3395
住所/中川村大草3687-1
営業/9:00~19:00(不在の場合があるので来店時には電話で確認をした方がよい)
定休日/不定休

自家焙煎珈琲工房 カフェセラード ☎0265-88-3312
住所/中川村片桐4000-3
営業/9:00~19:30(L.O19:00ごろ)
定休日/第1・3水曜日

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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