蓬萊島-オキナワ-の誘惑

モダンに変身した民家で、古き良き沖縄を体感「MOK igusa villa」

  • 文・写真 馬渕和香
  • 2017年10月3日

祖父が建てた築約30年になる家を孫の金城武典さんがリノベーションした宿「MOK igusa villa」。昔ながらの集落に建つ古家の趣に、若い金城さんの斬新な感性が加わった新旧ミックスの宿は、沖縄の民家や古き良き沖縄をおしゃれに体感したい人におすすめだ

 天然木ならではのゆがみや曲がりを生かした、この家の素朴でたくましい梁(はり)を見上げるたびに、金城武典さんは、愛おしさが胸にこみ上げてくるのを感じる。

 「大好きなんですよ、この梁が。この家は、大工だった祖父が30年ほど前に建てたものですが、緻密(ちみつ)に計算されて組まれた梁は、いくら見ても見飽きることがありません」

 祖父の孝忠さんが、ふるさとのやんばる(本島北部地域)に建てた家を、金城さんは昨年、「MOK(モク)」という一棟貸しの宿にした。幼い日の思い出が詰まった場所が、使われないまま老朽化していくのを見るのが忍びなかったからだ。

 「ここはもともと、一族が集うための別荘でしたが、最近はほとんど利用されなくなっていました。古びていくのをただ放置するよりは、いろんな人に使ってもらった方がよいと考えて、宿にすることにしました」

集落の景観を損なわないために、外観は宿であることを派手にアピールしていない。「ここだけが浮いてしまわないように気をつけました」

 那覇から北へ約90キロ、昔ながらの家並みやホタルが乱舞する森がいまも残る大宜味(おおぎみ)村喜如嘉(きじょか)。金城さんの祖父母は、芭蕉布(ばしょうふ)づくりが盛んなことでも知られるその集落で生まれ育った。しかし戦後まもなく、仕事を求めて都市部に移り、そのまま那覇に住みついた。

 「一族が集まれる家を喜如嘉につくりましょうよ」

 あるとき、祖父母の長女で、金城さんの母である直子さんがそんな提案をした。祖父は直子さんの希望を聞き入れ、喜如嘉に持っていた土地に友人知人の大工たちの手を借りて家を建てた。

 「都会育ちの子や孫たちに、一族のルーツである喜如嘉を知ってもらいたいという気持ちが祖父にはあったのだと思います」

玄関を入ってすぐの土間の空間。ドライフラワーがたくさん飾られていて、コンクリートの床のハードな質感を中和している

 喜如嘉の家にまつわる思い出は、いまも金城さんのまぶたに鮮明に焼き付いている。20人を超える親戚が集まって縁側でバーベキューをしたこと。畳の上でみんなで雑魚寝をしたこと。伯父と山にかぶと虫をとりに行ったこと。地元の子どもたちと仲良くなって、キャッチボールをして遊んだこと。

 「一人っ子の僕にとって、いとこや地元の子どもたちと遊べるのは楽しかったですね。小中学生の頃は、喜如嘉に毎週通っていたこともありました」

 10年ほど前に他界した祖父は、ここに来ると決まって泡盛を飲み、三線(サンシン)を奏でて沖縄民謡を歌った。

 「酔っぱらっているものだからまともに歌えなくて、みんなに『うるさい』と煙たがられていました。三線の音色や沖縄の民謡の良さを僕が理解できるようになったのはずっと後のことで、今思うと、祖父から習っておけばよかったと思います」

土間から上がるとキッチンなどの水回り。「懐かしいけど、それだけじゃない」空間がつくりたかったという金城さん。壁を斜めに張るなどして、「非日常感」を醸す工夫をしたという

 親族の笑い声に包まれていた家も、孫の世代が進学、就職、結婚と人生のステップを進んでいくにつれて、訪れる人が減り、静けさばかりが漂うようになっていった。

 「僕自身も、グラフィックデザインを学ぶために上京してからは、この家のことをすっかり忘れていました」

 祖父の家のすばらしさに再び気づかされたのは、外国の友人を招いたときだった。

 「オーストラリアで知り合った友人をここに連れてきたとき、彼らがとても喜んでくれたんです。一人はあまりにも気に入って、そのまましばらく沖縄に住んでいました」

「宿泊する方に一番見てほしい」と金城さんが言う、大工だった祖父が仲間の大工たちと組み上げた梁。玄関扉上の琉球ガラスも「祖父の名残」

 沖縄の昔ながらの集落や古い民家に、外国人さえも魅了する力があることを知った金城さんは、いつしかここを宿にしたいと考えるようになった。

 「ここに泊まってもらって、喜如嘉の良さを感じてほしいと思うようになりました。ちょうど祖父が、僕らにルーツを伝えるためにここをつくったように、僕は宿をつくって、さらに幅広い人たちにここの良さを伝えてみたいと思ったんです」

 親族に相談すると、皆、賛成してくれた。祖母の千代さん一人をのぞいては。

 「祖母は心配していました。宿で何か起きたら、ご近所に迷惑をかけると言って」

 しかし、金城さんが喜如嘉に足しげく通い、地域の人たちと積極的にコミュニケーションを図っていることを知ると、「がんばりなさい」と言ってくれた。

島根県の吉原木工所に注文してつくってもらった組子細工の障子は、ほれぼれするカッコ良さ。「この障子がつくる影に感動してつくってもらいました。日が昇って沈むまでの影の変化がとても美しいです」

図書館でたまたまめくった本で茶室の美しさに魅了され、茶室のような空間をつくりたくなったという。「でも、そこに西洋的な照明を飾ったりして、組み合わせとしてあまりないようなこともやってみたかった」

 祖母の承諾を得た金城さんは、築30年の古家を宿としてよみがえらせるために大幅なリノベーションを行った。東京やイギリスでデザインを学んだ経験を生かして、“和”と“洋”を絶妙なさじ加減で混ぜ合わせ、祖父の家にモダンで斬新な息吹を吹き込んだ。

 「古い家を単にきれいにするだけでは、どこにでもある何の変哲もない宿になってしまいます。オーナーの個性や“らしさ”が感じられる宿の方が、泊まる人もきっと楽しいと思います」

MOKの管理運営を任されているスターリゾートの田口修一郎さんは、「古き良き沖縄を体感したいとか、地域にうんと溶け込みたいという方におすすめしたい宿です」と話す。宿泊者の感想は、「写真で見るよりすてき」、「"何もしない"をしに来るのにぴったり」という声が多いという

 一方で、祖父が残したものを、若い自分の個性で上書きし過ぎないようにも気をつけた。天井板をはぎ取って、隠れていた梁をむき出しにしたり、もとからある居心地のいい縁側を広げてアウトドアリビングのようにしたりして、「祖父がつくった大事なものも見せる」ようにした。

 「祖父のアイデンティティーに自分のアイデンティティーを掛け合わせたような宿ができたと思います」

 MOK(今年の夏「MOK igusa villa」に改名)が完成したとき、宿にすることを最初ためらっていた祖母も、こんなふうに喜んでくれた。

 「『あいやー!(あらまー!)』と驚いていました。涙を流しながら、『ありがとう』と。うれしかったですね」

 遠くはオーストラリアやニュージーランドなどからも旅人が訪れるというMOK。子や孫のためにつくった家が、地球の各地から人が集い、古き良き沖縄を体感する宿に生まれ変わったことを天国の祖父も喜んでいることだろう。

    ◇

MOK igusa villa
沖縄県大宜味村喜如嘉777-7
03-6721-1486

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PROFILE

馬渕和香(まぶち・わか)/ライター

写真

元共同通信社英文記者。沖縄本島北部、やんばるの丘に建つパステルブルーの小さな古民家に暮らして18年。汲めども尽きぬ沖縄の魅力にいまなお眩惑される日々。沖縄で好きな場所は御嶽(うたき)の森。連載コラムに「沖縄建築パラダイス」(朝日新聞デジタル&M)、「オキナワンダーランド」(タイムス住宅新聞)がある。

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