世界美食紀行

青く暮れなずむ石畳の街並みと馬車の音 フィリピンの古都ビガン

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2017年10月30日

ビガン観光するなら1度は乗ってみたい馬車。旧市街にあるホテルならホテル前から発着が可能で、観光地をいくつか回り、またホテルに戻ってくれます。観光地にも歴史ある建物が多いので、どこで写真を撮っても絵になる!

 その街のことを知ったのは、台湾のトラベルジャーナリストが送ってくれたLINEの写真でした。写っていたのは手織りっぽい幾何学模様の大きなバッグを肩から下げ、風情ある石だたみにたたずむ彼女。後ろには馬車。暗くなりかけた青みを帯びた空に、温かみのある黄色のライトアップが美しい。一見ヨーロッパのようですが、湿度のある感じがアジアらしい。メッセージを何度かやり取りして、さんざんじらされて教えてもらった答えが、フィリピンの「ビガン」という古都でした。

ビガンの石だたみの街並みは「ビガン歴史都市」として世界遺産に登録されています。そんな世界遺産の真ん中で老夫婦が営むパン屋さんを発見。小麦が焼ける香りに誘われて立ち寄りました。フィリピンのパンはほんのり甘くてやわらかめのタイプが多い

 かつて港町として繁栄したビガンは、文化が交差する交易都市として西洋からも東洋からも知識や技術がもたらされました。けれども、時が経ち移送手段が海路から空路へと移ったため、街は時が止まったように当時のおもかげを現在まで残すに至りました。そういった点では、オランダやイギリスの影響が色濃く残るマレーシアのマラッカや、ポルトガルのエッセンスがプラスされたマカオといった“アジアのなかのヨーロッパ”と表現される街と成り立ちは同じといえます。南国リゾートのイメージが強いフィリピンにも、そんな街があったのですね。ビガンの場合は、スペインの香りが加わっています。

スペイン文化を感じるクラシックホテル。旧市街は世界遺産のため開発できず、大型のリゾートホテルなどはありませんが、昔ながらの建物をリノベーションした居心地のいいブティックホテルがあります。ここはオーナーの趣味で驚くようなアートコレクションを鑑賞できました

 もともと港町として栄えたわけですから、街には大きな港があり、クルーズ船が着岸できます。というわけで台湾発のクルーズがビガンに停泊し、ドレスアップした乗客が写真をソーシャルメディアにどんどん投稿したことで、台湾で一気に知名度が上がり、人気の旅行先になったそうです。ビガンは「ルソン島」という首都マニラがある同じ島内にあり、日本から行く場合、マニラで国内線に乗り継ぎ、1時間ほどで最寄りのラオアグ空港(なんと国際空港!)に到着します。ちなみに現地の人たちは、友人同士車に乗り込んで陸路で行くのが一般的とか。陸路だと約9時間だそうです。念のため。

手前がビガン名物のロンガニーサ。手づくりしている工房を訪問したところ、大量のニンニクやスパイスの香りにくしゃみが出そうに。パンチの効いたこれを鉄板でジュウジュウに焼き上げ、皮がこんがりと香ばしくなったところで、アツアツにかぶりつきサンミゲル(ビール)で流す瞬間がたまりません

 私は教えてもらうまでまったく知らなかったビガンですが、いざやって来てみると、フィリピン人の国内旅行や、情報の早いアジアの旅行者がすでに大勢訪れていました。街をそぞろ歩いているのは、若者のグループやカップルが中心。フィリピンというと治安を心配される人もいると思いますが、趣のあるクラシカルな建築を美しく撮影してソーシャルメディアにアップするために、朝は5時ごろから旅行者が街に出始め、夜は「バシ」という地酒を提供するバーが深夜や早朝まで営業していて、ビガンに関しては治安の心配はなさそうです。

フィリピンの家庭料理のひとつ「ピナクベット」(野菜炒め)にも、地方によって特色があるとか。シェフの手前にある茶色いかたまりは「バグネット」といい、皮付きの豚肉をゆでこぼしてから2度揚げしたもの。適度な厚さにカットしてソースをつけて食べるほか、スープなど料理にコクを出すのにもよく使われます

 朝いちで昔ながらのパン屋さんに立ち寄り、オーブンから出して手渡してくれた焼きたてアツアツのパン(三つで2ペソ=約5.7円と激安でした!)をかじりながら、石だたみの真ん中で朝日が昇るのを待ったり、おばあちゃんが昔ながらのレシピで手づくりする「エンパナーダ」という豚肉とパパイア、たまごを包み揚げしたスナックにかぶりつきながら、土産もの屋をひやかしたり。とくに目的を持たず、気の向くまま買い食いしながら街をふらふら歩くのって楽しいですよね。

こちらも世界遺産のサン・アグスティン教会(パオアイ教会)。こちらも観光地で撮影スポット。多くの旅行者がセルフィーしていました。周辺には激辛ソースで食べるスペアリブや、ローカルフードをピザやパスタにアレンジしたおもしろいレストランやカフェがあります

 そしてもうひとつ。ビガンには絶対に外せない名物がありました。それは「ビガン・ロンガニーサ」。マニラやこれまでご紹介したヘルスコンシャスなリゾート地、バタンガス タガイタイで「ビガンへ行く」と言うと、誰もが一様に口をそろえて「ビガン・ロンガニーサとサンミゲル(フィリピンのビール)の組み合わせは絶品すぎて危険。病みつきになって絶対に太るよ」と言うではありませんか。せっかくオーガニック野菜を食べていたっていうのに!

陶器や手織りの布がこのあたりの特産品。写真は日本でいう人間国宝にあたるフィリピン国家に認められた織物作家、マグダレーナ ガリナート ガマヨ(通称ナナ ダレン)さん。93歳のいまも現役で美しい布を織っています。彼女がデザインしたパターンが高い評価を受けたそうです

 「ロンガニーサ」とはフィリピン風ソーセージといわれる、太くて短いひき肉の腸詰めのこと。マニラ周辺では甘めの味付けが多い印象ですが、地域によって使用する肉やスパイス、味付けが異なり、ビガンの豚肉を使い、ジュワッと脂が染み出すガーリックたっぷりのロンガニーサは、フィリピンいちと評判とか。ビガンへ行ったら家族や親戚、友だちの分までお土産として大量に買い込むそう。タガイタイではブコパイをまとめ買いするために行列するし、陸路で9時間もかけてソーセージを買いに行くし、フィリピン人ってほんとに食べることには積極的です……。

よくも悪くもフィリピンといえば思い出すのは、やっぱりこの方。マルコス元大統領とイメルダ夫人の別荘で、マニラにある「マラカニアン宮殿」の名を冠した別荘「北のマラカニアン宮殿」。イメルダ夫人もこの地方(ビガンがある地方はイロコス)を気に入っていたのですね

イロコス地方にはホワイトサンドビーチがあり、砂丘でスライダーに挑戦したりマリンアクティビティーを楽しんだりできます。シーフードが充実していて、写真はフィリピン風セビーチェ。このときは日本人とフィリピン人のご夫婦が、押しずしやそうめんを振る舞ってくれて大感激

■取材協力:

フィリピン政府観光省

フィリピン航空

 

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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)トラベルジャーナリスト

江藤詩文

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

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