世界美食紀行

ペルー・クスコで見つけた!美食を体験する3つの方法

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2017年11月13日

「ベルモンド ホテル モナステリオ」の美しい朝食。冷たい料理と温かいペルー料理、フルーツなどはブッフェから、温かいたまご料理などはメニューから注文します。朝やランチはパティオで、ディナーはパティオで食前酒を飲んでからレストランに移動するゲストがほとんどでした

 実はあきらめていたのです。リマから先ですてきなレストランに行く機会はもうない、と。何より恐れていたのは治安と高山病。運動神経が鈍くて逃げ足が遅い。体力にも自信がない。近ごろは老化現象が進みそれらがさらに悪化しているうえ、言葉さえ通じない。そのうえもし高山病が重症だったら(高山病の症状は個人差が非常に大きいらしく私は未知の体験)ホテルでずっと寝ているハメになるかもしれない。そう考えると安全面でも健康面でもホテルだけはゆずれない。そもそもリマの最先端レストランで散財したことだし、クスコでは節約しなければ。どうせ高山病でお酒を飲めないかもしれない。そう自分を納得させていたのです。ところが。

「ベルモンド ホテル モナステリオ」には修道院時代からそのまま残っている教会があり、ペルーを代表する画家の作品が館内のあちこちに展示され、クスコ市の依頼でホテル内の芸術鑑賞ツアーを定期的に主催するなど、ホテルながらミュージアムのようでもあります。今年の春、日本人の新婚さんがこの教会で挙式をしたとか

 今回宿泊したのは、クスコを代表するクラシックホテルのひとつ「ベルモンド ホテル モナステリオ」。16世紀に建造された、スペイン建築の影響が見られる四つのパティオと回廊が美しいホテルで、特に手入れの行き届いたパティオは、朝は噴水や花々が陽光を受けてまぶしく輝き、夕方はだんだん青みを増すなかでたき火を囲むサンセットバーがオープンしてと、いつ見てもうっとりするような優雅さ。

 もともとは修道院として建設され、その後は寄宿舎つき学校として使われてきた歴史的建造物で、その文化的価値から国定史跡として保護が義務づけられています。そのためホテルとしてオープンするにあたり、水回りなど設備は最新のものを導入しましたが、個室の間取りなどはそのまま保存しているため、ひと部屋ずつレイアウトが異なり、それぞれの部屋に合ったインテリアをデコレーションしているそう。

 そんな歴史的建造物のこのホテルでは、天井の高い石造りの音響効果を生かして、なんとオペラディナーを開催していました。クスコ地方のもともとのことばである「ケチュア語」で歌われるオペラを鑑賞しつつ、キャンドルの明かりで食事するロマンチックディナーと聞き、料理にはあまり期待せずとりあえずセビーチェを注文してみると、意外にもレベルが高くてびっくり。

 というのも「ペルー料理を世界へ」という波はクスコにも来ていて、クスコのシェフ同士がネットワークを組み、日々技術を研鑽(けんさん)しているそう。また、このホテルのすぐ隣には、同じベルモンド系列のホテル「ベルモンド パラシオ ナザレナス」があるのですが、ここのレストランでは前回リポートしたラテンアメリカ料理界のヒーロー、「セントラル」のヴィルヒリオさんが働いていたことがあるとか。ごく若いころ短期間だけとはいえ、「自分たちと同じ環境からスタートして世界へ羽ばたける」というモデルケースは、いま働くシェフにとって夢でありあこがれ。そんなわけで料理は日々進化しているそうです。これがひとつめの方法。

「目指せ、セントラル」を目標に世界を視野に入れて活動するホセさん(左)と共同オーナーでシェフのポールさん。彼らが見せているのはインカの伝統的な暮らしを表現したドールハウス。これを見ながら引き出しを引っ張ると食後のチョコレートが出てくる仕掛けです

 さて、ひと晩眠ってみて、恐れていたほどは高山病に苦しんでいないことに気が大きくなった私は、旧市街から先のレストランに足を延ばしてみることにしました。というのも「セントラル」訪問時に、初めてのペルーなら当然マチュピチュに行くけれど、クスコでは何を食べるか決めかねているという話をしていたのです。正確に言えば有名シェフがプロデュースしているお店など、クスコ旧市街にもいくつか評価の高いレストランはあるのですが、いずれも観光客向けのガイドブックでおなじみのタイプ。「でもあなたが行きたいレストランは、これらのお店ではないでしょう」とヴィルヒリオさん。さすが、わかっている。そんな彼が「いまおもしろいことをやっている若手」として紹介してくれたのが、クスコの外れ、サン・セバスチャンという隣町との境界あたりにあるレストラン「タイタフェ」でした。

「タイタフェ」のアミューズ。切り出したマラス塩田の塩にのっているのは、コーン粉で具材を包んで蒸すアンデスの伝統食「タマル」に米粉を加えて透明感を出したものと、ワカタイというアンデスハーブで風味をつけた地下茎のピクルス

 「セントラル」のヴィルヒリオさんと「タイタフェ」のシェフ、ホセさんの話を簡単にまとめると、ペルーのガストロノミー界をいま盛り上げている「セントラル」や同じく前回リポートした「まいど」は、第3の波の世代。彼らがつけた世界への道筋を追って、いま第4の波の世代ががんばっていて、ヴィルヒリオさんや「まいど」のミッチャさんは、彼らの活動をサポートしているそう。第4の波の世代は、自分たちができることは何かという会議をして、いまは伝統文化の再発見と、食における貧富の差の解消をテーマに活動しているそうです。

 そんな若手たちがすごい熱量でつくりだすクリエーティブなモダンペルー料理に、まさかクスコで出合えるとは。これが二つめの方法。まあ、正直に言いますと彼らの料理はまだまだ伸び盛り。いまが盛りと世界の表舞台で輝く「セントラル」や「まいど」と同じめくるめくような体験ができるわけではありません。

ヴィルヒリオさんが働いていた「ベルモンド パラシオ ナザレナス」にはクスコ初のアウトドアプールがあります。私が泊まった「ベルモンド ホテル モナステリオ」は国に指定された建造物でプールなどを新造できないため、プールやスパ施設はこちらを利用することになります

 でも、ですね。レストランの予約に合わせて旅のプランを組み、4時間もかけて食事をしたい私のような人ばかりではないと思います。私の学生時代からの旅仲間もそう。東京で話題のレストランの食べ歩きは大好きだけれど、旅行はレストランの都合ではなく自分の休みに合わせてプランを立てたいし、レストランのために観光を犠牲にはしたくない。けれどもガイドブックに載っている定番のお店ばかりじゃなく、ちょっと人とは違う体験をしてみたい。そんな欲張りなトラベラー。そんな人に「タイタフェ」はうってつけ。

 いま世界が注目するペルーのガストロノミーとはどんなものかしっかり体験できるし、お値段もリマの一流店よりずっとお手頃だし。何よりシェフたちが一生懸命で、ペルーの食材や料理について基本的なことから根気よく教えてくれます。私のようにヴィルヒリオさんが紹介した外国人客がときどきやって来るそうで「自分たちはあのヴィルヒリオさんからクスコの美食を任されているのだ」という自信とやる気がみなぎっていて、そのパワーに圧倒されました。

「ベルモンド ホテル モナステリオ」のスパのリラクセーションルーム。高山病は酸素不足が原因で発症するため、到着したらまずゆっくりと深い呼吸を繰り返すリラクセーション系のトリートメントを受け、マチュピチュから戻ったら、インカ時代に疲れを癒やすために考えられたというインカマッサージを受けるのがおすすめだそう。私はインカマッサージだけ体験しました

 こうしてすっかりクスコに慣れた私は、もっとペルー料理を知りたくなり、料理教室に参加してみました。これが三つ目の方法。オーストラリアやアメリカなど海外で働いていたこともあるペルー人シェフ・クリスさんが主催する「クスコカリナリー クッキングスクール」は、おもに外国人ツーリストに向けてペルーの料理や食材を紹介しています。

「クスコカリナリー クッキングスクール」のシェフ、クリスさん。レッスンではピスコサワーのほかに3種類のテイストで味わうセビーチェ、乾燥させて水分を抜いたジャガイモ(アンデスの保存食)を使ったポテトグラタン、アンデスのスーパーフード、キヌアのリゾット、チリモヤというフルーツのパフェをつくりました

 プログラムは、クスコの台所「サンペドロ市場」をクリスさんと一緒に見学。おみやげ選びを手伝ってもらったり、今日の料理に使う食材を調達したりして、街を歩いてキッチンスタジオへ移動。ここでまず、ペルーの国民的カクテル「ピスコサワー」をつくり、これを飲みながら前菜、セカンド、メイン、デザートの4品を調理して味わうというもの。デモンストレーションを見学するのではなく、自分で実際に調理を担当します。

同じ魚を使いながら、3種類のフレーバーで味わうセビーチェ。手前がオーソドックスなタイプ、真ん中がペルー原産のフルーツなどを加えた近ごろのムーブメントのモダンペルー料理、奥がしょうゆなどを加えた「ニッケイ料理」アレンジ。ドリンクは「チチャモラーダ」というペルーでよく飲まれる紫コーンのジュースです

 きれいな英語を話し、食に関心の高い外国人ツーリストに慣れたシェフのクリスさんは、いわばペルー食材を翻訳してくれるような存在です。見慣れない食材を、そもそもこれが何なのかというところから丁寧に解説してくれるのです。

 あぁ、やり直せるものなら、先にこの料理教室である程度、基礎の基礎を学んでから「タイタフェ」や「セントラル」を体験したかった。まあそもそも予約的に「セントラル」を自分の都合でコントロールするのは不可能でしたが、これから行かれる方は、ぜひ先に「クスコカリナリー クッキングスクール」で基本を学び、それがどうモダンなガストロノミーに進化したのかを「タイタフェ」で体験すると、より楽しめると思います。

禁酒も覚悟していたのに、けっきょく毎日お酒を飲んで美食を堪能したクスコから、いよいよマチュピチュへ向けて出発です。マチュピチュへのアクセスはエレガントなラグジュアリートレイン「ハイラムビンガム」がおすすめ。単に楽しいだけでなく、いざという時の心強さといったらありませんでした

■MEMO:旅と交通
クスコの旧市街の中心にある「アルマス広場」から、今回ご紹介したレストラン「タイタフェ」のある繁華街あたりへは、タクシーで移動するしか交通手段がありません。所要時間は25分。料金は、往路は交渉せず言い値で20ソレス(約740円)、復路はレストランがいつも使っているタクシーを呼んでもらって10ソレス(約370円)でした。クスコはリマと比較して治安がよいそうで、タクシーは空港から旧市街を除けば、私の体験上それほどひどい料金を吹っかけられることはありませんでした。私のようにスペイン語を話せない人はとくに、自分でタクシーをつかまえるより、ホテルやレストランで呼んでもらったほうが安全かつ安上がりです。

[PR]

■取材協力:
デルタ航空
ベルモンド(英語)
クスコカリナリー(英語)

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)トラベルジャーナリスト

江藤詩文

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

今、あなたにオススメ

Pickup!