にっぽんの逸品を訪ねて

厚さ・やわらかさにびっくり! 海女(あま)たちが支える伊勢志摩のぜいたくな海の幸

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2017年11月14日

海女が活躍する伊勢志摩の海

 年始に伊勢神宮のお参りを考えている方も多いだろう。その時、ひと足延ばして訪れたいのが鳥羽市の相差(おうさつ)だ。

 鳥羽市街から車で約25分の海沿いに広がるこの地域は、伊勢志摩の中でも、素潜りで漁をする「海女(あま)」が特に多い。

 相差には、現役の海女さんたちが海女小屋で新鮮な魚介を炭火で焼いてふるまう「はちまんかまど」があり、普段あまり知ることのできない海女文化に触れられる。また、女性の願いなら一つはかなえてくれるといわれて信仰を集める「石神(いしがみ)さん」や、おしゃれな宿もあって、女性や外国人観光客も多く訪れる。

海を望む海女小屋で笑顔に迎えられる

 海女小屋「はちまんかまど」へは、鳥羽駅前から無料送迎バスが出ている。食事は予約制で、食材と内容によって6種類のコースがある。

 この日は、伊勢エビもアワビも付いた豪華な「海女小屋体験まるでセレブコース(1時間15分)」を選んだ。

この日の“海女小屋体験まるでセレブコース”2人前。豪華!

 「相差では、私たちの時代、海に潜(もぐ)れないと嫁(とつ)げない、まさしく海女のまちでした」と、迎えてくれたのは「はちまんかまど」を束ねる野村禮(れい)子さん、86歳だ。実に、80歳まで70年近く海女を続けていたという。

 小屋に通され、カマドを囲んだ席に座ると、この日はまずタイの刺し身が出された。生きたタイを直前にさばいたそうだ。

 刺し身を味わっているうちに、海女さんが大アサリやヒオウギ貝、生きサザエを炭火で焼いてくれる。

笑顔が印象的な野村禮子さん(左)。現代の海女はウェットスーツで漁を行うが、それまでは白木綿の磯着だった。頭の星印が目を引く

 焼き上がりを待ちながら、野村さんに気になっていた頭の部分に描かれた星印について聞いてみた。

 「海女たちは、持ち道具に必ず星形の『セーマン』と格子状の『ドーマン』というマークを記します。セーマンとよばれる星印は、一筆書きで必ず同じところに戻ってくることから、潜水しても必ず戻ることを表します。セーマンもドーマンも海の災難や魔物から海女を守る魔よけのシンボルですね」と話してくださった。

 セーマンは平安時代の陰陽(おんみょう)師である安倍晴明の“セイメイ“から、ドーマンはそのライバルの蘆屋道満(あしやどうまん)の名からとったといわれる。

肉厚のアワビも甘みのある伊勢エビも絶品

目の前のカマドの炭火でアワビが焼かれる

 香ばしい匂いが立ちのぼり、ジュワッと汁が湧いて、貝が焼き上がった。

 身も貝柱も大きい。ぷりぷりと弾力があり、かむごとにうまみがにじみ出る。

 アワビは炭火にのせると熱さに身をよじらせ、まさに踊っているようだ。

 大ぶりで厚みがあるのに、驚くほどやわらかい。

 「アワビは生だとコリコリした食感だけど、焼くとやわらかくなるよ」と、海女さん。伊勢志摩の海の幸を知り尽くした海女たちだからこそ、最良の焼き加減で出してくれるのだろう。

厚さ、やわらかさにびっくり。思わず「東京で食べたらいくらするのだろう」と考えてしまった

 伊勢エビは、殻をむくと身がはちきれんばかりに詰まっていた。甘みがあっておいしい。エビみそもたっぷりだ。

 ほかに、ひじきの煮物や伊勢エビ汁、ご飯、フルーツも付いた。食材は季節によって変わることもあるそうだが、ボリューム満点だった。

伊勢エビもまるごと1匹。かぶりつくぜいたくさも味わえる

おもりを付けて一気に潜る海女たちの漁

 海女さんの仕事についてうかがった。

 「1日で海に潜るのは、朝9時から10時30分ころまでです」と聞いて、「1時間30分働けばいいのか、うらやましい」なんて思ったら大間違いだった。素潜りなので、1回に潜れる時間は約50秒。早く深く潜るために約9㎏の重りをつけるそうだ。その上で潜って上がっての繰り返しを考えると、いかに重労働かが分かる。

 「海から上がると海女小屋で火をたき、約3時間温まってから帰宅します」とのこと。それほど体の芯まで冷えるのだ。

 1年の流れは、3月のワカメから漁が始まり、4月はヒジキ、やがてアワビのシーズンになり、アワビ漁は9月15日まで続く。期間が決められているのは、水産資源を守る昔からの知恵なのだろう。11月からまたサザエやナマコを捕り、12月27日まで漁をするそうだ。

 7の付く日は海の事故が多いから漁は行わないなど、海女独特の風習も聞くことができて、有意義な時間だった。

女性の願いをかなえる海女たちの守り神

全国から参拝客が絶えない石神さん

 海女さんたちも古くから参拝していたのが、「石神さん」だ。

 海女の文化を紹介する相差海女文化資料館(入館無料)の脇の参道を進むと、相差町の氏神である神明神社があり、石神さんはその境内の小さな社(やしろ)にまつられている。御祭神は神武天皇の母であり、海神の娘である玉依姫命(たまよりひめのみこと)。

 女性の願いなら一つはかなえてくれるといわれ、地元での信仰があつかったが、いつしか口コミで広まり、全国から参拝客が訪れるようになった。お礼参りの人も多いというから、ご利益が期待できそうだ。

 すがすがしい境内は、この日も女性参拝客でにぎわっていた。

「海女の家 五左屋」2階のカフェ。レトロな造りの窓辺に静かな時間が流れる

 参道の途中には、築約80年の古民家を再生したショップ&カフェ「海女の家 五左屋(ござや)」がある。

 海女の魔よけのマークであるドーマン、セーマンをモチーフにした相差オリジナルグッズや、鳥羽の特産品などを販売している。

 2階のカフェは、太い梁(はり)や木枠のガラス窓など、昔ながらの造りにほっと心が和む。コーヒーを飲みながら、相差の思い出をゆっくりと心に刻みたい空間だ。

女子旅にも人気のおしゃれな宿

ウッドテラスやバスルームから爽快な眺めが広がる客室「藪柑子」

 相差の旅の宿としておすすめの一軒が、石神さんに隣接する「花の小宿 重兵衛(じゅうべえ)」だ。

 女性客に人気と聞いていたが、古民家風の館内は、さりげなく置かれた調度や季節の花など、センスにあふれ、目からも癒やされる。

 この夏に新装した特別室「藪柑子(やぶこうじ)」は、展望ウッドテラスや、窓を全開口できる展望バスルーム付き。大自然を望み、ゆったりとした憩いの時間が過ごせる。ほかにもガラスのランプシェードや陶器のちょうず鉢、カウンターテーブルを備えた和モダンの客室などもある。

 食事は、伊勢エビやアワビ、カキなど地元の旬の魚介類を豪快に盛り、米や野菜は自家栽培のものを使用。風呂にはとろりとしてなめらかな泉質の社宮司温泉を引いている。

立ち寄りカフェにもなっているロビーをはじめ、洗練されたしつらえに心癒やされる

 次回は、鳥羽市街に戻り、真珠の逸品や女性アーティストによる指文字体験を紹介します。

*食事内容は取材日のものです。季節や漁の都合で、質はそのままに食材が変わることがありますのでご了承ください。

【問い合わせ】

海女小屋「はちまんかまど」
http://amakoya.com/

石神さん(神明神社)
http://www.toba-osatsu.jp/ousatu_miru.php

「海女の家 五左屋」
http://www.toba-osatsu.jp/ousatu_gozaya.php

「花の小宿 重兵衛」
http://www.ju-bei.com/

相差町内会
http://www.toba-osatsu.jp/

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伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
http://www.barifuri.com/

*伊勢志摩地方はバリアフリー化が進み、車イスの方も観光がしやすくなっています。ここでご紹介したほとんどの施設が車イスで利用できます。

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。 『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、 『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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