蓬萊島-オキナワ-の誘惑

伝統織物をカラフルに、カジュアルに 「機織工房しよん」

  • 文・写真 馬渕和香
  • 2017年11月15日

4人の機織り作家の共同アトリエ、「機織工房しよん」の織物は、沖縄の伝統織物に現代的な感性をプラスした、カラフルでカジュアルな織物だ

 「機織(はたおり)工房しよん」の喜久村(きくむら)敦子さんは、以前ある人に言われた言葉が忘れられない。

 「織物は、染め物に比べると“重い”のよ。一生懸命織っている感じが分かり過ぎて」

 一枚の布に、持てる技法を詰め込んで織るのが織物作家として当然のことだと思っていた喜久村さんにとって、それは目の覚めるような言葉だった。

 「技法を詰め込もうと思えば、詰め込むことはできます。だけど、詰め込みすぎない、どこか抜いた感じのカラッとした織物でないと、人はカジュアルに持てないのだと、あのとき悟りました」

工房は、本島南部の静かな集落に建つ赤瓦の一軒家。店舗も兼ねていて作品の販売も行っている。希望すれば機織りの見学もできる

 小花のような紋様が浮き織りされた「花織(はなうい)」、昔は上流階級の男性が身につけたという「ロートン織」、しま模様がヤスリの目に似ている「ヤシラミ」など、沖縄には古くから伝わる織りの技法がたくさんある。そうした伝統技法を用いながらも、現代的な軽やかさやカジュアルさも感じさせる織物をしよんは目指していると喜久村さんは話す。

 「伝統を守りながらも、自分たちの現代的な感覚を織り込んでいこうというのがしよんのコンセプトです。糸という字の古い字体と新しい字体を組み合わせたロゴマークも、そのコンセプトを表しています」

 織物をもっと気軽に持ってほしい。使ってほしい。だから、しよんの商品のほとんどは、絹ではなく木綿の糸で織られ、天然染料ではなく化学染料で染められている。

 「ジャブジャブ洗っていただける織物を心掛けています。福木(ふくぎ)や月桃(げっとう)といった天然染料を使うこともありますが、化学染料で染めた方が、色持ちもよいですし、洗濯にも強い。コースターや名刺入れなど、普段使いするものは洗えた方が気持ちいいじゃないですか」

赤、青、ピンク、黄色の4色展開をしている巾着と後ろのポシェットは喜久村さんの作品。花火をイメージしたという巾着の模様は、花織(はなうい)という技法によるもの

 しよんの「し」は糸、「よん」は四つの意味。4本の糸が織り合わさるように、大学のクラスメートだった4人の織物作家が共同で工房を立ち上げたのは21年前のことだ。その後メンバーが入れ替わったり、工房を移転したりしたものの、4人体制はずっと変わらずに保たれてきた。設立メンバーの中で唯一残った喜久村さんは、共同で工房を持つことの良さをこう語る。

 「4人の感性がそれぞれ違うので、私1人でやっていたら思いつかないことを誰かが思いつく。刺激になりますし、勉強になります」

最年少のメンバー、牧山さんのグラデーション模様の帯(中央)と、長池さんが織った小粋な半幅帯やバッグ。「半幅帯は耳をきれいにそろえるのに技術がいります。横糸を引っ張る加減を一定にしないと、耳がガタガタになります」と長池さん

 なかでも感性の違いがあらわれるのが、色使いだ。しよんの現メンバーは、沖縄と本土の出身者が2人ずつだが、喜久村さんと並んで沖縄生まれの山城(やましろ)恵美子さんは、出身地の違いは色彩感覚の違いとなって作品にも表れていると語る。

 「沖縄出身の私が色を組み合わせると、どうしてもオレンジ色に緑色といった、はっきりした色同士の組み合わせになります。生まれてこのかた、沖縄のくっきりした色彩の風景を見続けてきたからだと思います」

 “本土組”の一人、大阪府出身の牧山昌子さんが最近、グラデーション模様の帯を制作した。山城さんは、濃淡のある同系色が並んだその帯の配色をとてもすてきだと思っているが、いざ自分で織ろうとしてもできないと言う。

 「いいなと思うのですが、自分で取り入れるとなったら難しくて。やっぱり自分の中にない色は表現できないみたいです」

 おもしろいことに、牧山さんの方も、山城さんや喜久村さんのような大胆な色使いはできないと話す。

 「お二人のパキパキした色彩感覚が本当にすごい。私にはまねできません」

子どもの頃、絵を描くのが好きだったという山城さんが織るコースターは、「色の組み合わせがおもしろい」と買っていく人が多い。「余った糸を有効利用するつもりでコースターを織り始めたのですが、予想外に売れています」

一番の人気商品はお守りの「マース(塩)袋」。昔、女性が男性に贈った帯に織り込まれた「いつ(五)の世(四)までも末永く」を意味する柄が入っている。「東御廻り(あがりうまーい)という、14カ所の聖地巡礼に持って行った塩を中に入れています。ご利益があるといいのですけれど」と山城さん

 沖縄と本土で多少の感覚の違いはあれど、4人に共通しているのは、見ているだけで心が弾むカラフルな色彩の作品が多いことだ。

 「織物をなんとなく持っているというのではなくて、普段の生活のなかで気軽に使っていただきたいから、楽しく持てる色を選んで糸染めをしています」(喜久村さん)

長池さんのブックカバー。17世紀に中国から伝わったというロートン織で織られている。文庫本、新書、単行本の3種類のサイズがある

 しよんでは、図案のデザインから、糸染め、織りまで、全ての工程を自分たちで行っている。工程は全部で15ほどあるが、織り自体はそのうちの1工程に過ぎず、大半は織る前の準備だ。もう一人の本土出身者、長池朋子さんが言う。

 「たとえば、コースターを1枚織るのにかかる時間は5分程度ですが、織り始めるまでの準備はその10倍も20倍もかかります」

織る前の準備工程の一つ、「綜絖(そうこう)通し」。綜絖子という細い針金に付いた小さな穴に経(たて)糸を1本1本通していく

 「10倍も20倍もかかる」準備のなかには、たとえば「綜絖(そうこう)通し」と言って、横一列に並んだ数百本の細い針金(綜絖子)に付いた小さな穴に経(たて)糸を1本ずつ通す作業がある。これが嫌で織物の道を断念する人もいるというぐらい、見ているだけで気が遠くなる作業だが、長池さんは、時間も手間もかかる準備工程も含めて、織物をつくることを「嫌になったことは一度もない」と話す。

 「織りを20年やっていますが、毎回織るたびにワクワクします。糸が布になっていくのが楽しいです。こんがらがりやすくて扱いにくい糸というものが、私の手を通り越すと布になる。そこに喜びを感じます」

喜久村さんがメンズ用のかりゆしウェアの生地を織っていた。「内地で販売されるもので、色合いが沖縄向けよりも落ち着いています」

しよんの4人。助け合う一方で、互いの作品づくりには干渉しない。「代表者やリーダーといった立場の者もいません。女性同士は難しくないですかとよく聞かれますが、とてもうまくいっています」と喜久村さん

 小学生の頃、近所に住んでいた大島紬の織り子さんに憧れたという喜久村さん。絵が好きで、絵を描くことに近い仕事をしたかったという山城さん。「異国的な」沖縄の織物に魅せられて神奈川県から沖縄にやって来た長池さん。百貨店の展示会で見た芭蕉布(ばしょうふ)に一目ぼれして、沖縄の織物に興味を持つようになった牧山さん。織りの道を志した理由は4人4様だが、ひとつ一致しているのは、4人とも織りがたまらなく好きだということだ。

 「おばあちゃんになるまで織り続けたいです。かじまやー(数え年97歳の長寿祝い)の年齢になっても織り続けて、『目も見えていないけど、勘で織っているみたいだよ』と言われるぐらいになれたらいいですね」

 そう語る喜久村さんは、織りについて学びたいことがまだまだたくさんありすぎて、「130歳まで生きないと時間が足りない」と話す。身につけているだけで、またはバッグにしのばせておくだけで、心が弾むしよんの織物。沖縄の海や空や花々を思わせる色鮮やかな糸と糸の間には、織物へのあふれる愛情が織り込まれている。

    ◇

機織工房しよん
沖縄県八重瀬町仲座72
098-996-1770
9:00-17:00(木曜日、旧盆、年末年始休み)
工房で作品を購入できるほか、希望すれば機織りの見学もできる
www.shiyon.info

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PROFILE

馬渕和香(まぶち・わか)/ライター

写真

元共同通信社英文記者。沖縄本島北部、やんばるの丘に建つパステルブルーの小さな古民家に暮らして18年。汲めども尽きぬ沖縄の魅力にいまなお眩惑される日々。沖縄で好きな場所は御嶽(うたき)の森。連載コラムに「沖縄建築パラダイス」(朝日新聞デジタル&M)、「オキナワンダーランド」(タイムス住宅新聞)がある。

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