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安房里見氏の居城・館山城と近代の戦争遺跡をめぐる

  • 文・写真 城郭ライター 萩原さちこ
  • 2017年11月20日

里見氏の居城だった館山城。現在の天守は丸岡城の天守をモデルに建てられたという

 館山城(千葉県館山市)と聞くと、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』を連想する人も多いのではないだろうか。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの玉で結ばれた八犬士が登場する、安房の戦国大名・里見氏の興亡を題材にした物語だ。その里見氏の最後の居城こそ、館山城なのである。

 房総半島の南西端、館山湾に面した丘の上に、館山城はある。この立地が、館山城最大の注目ポイントだろう。現在の標高は65メートル(もとは72メートル)だが、眺望のよさは格別。まさに、城を築くには最高の立地だ。さほど登らずに絶景を楽しめるため、現在は市民が憩う城山公園として整備されていて、たくさんの人とすれ違う。

標高65メートルの小高い丘の上に築かれている。近づくと天守が目に入り、気分が高まる

 館山城は、1590(天正18)年に上総を没収され安房一国となった里見氏が、1614(慶長19)年に伯耆(ほうき)の倉吉(現在の鳥取県倉吉市)に転封になるまで居城とした。

 里見氏はもともと上野出身で、室町時代に台頭し、房総半島に勢力を拡大した一族だ。戦国大名となって安房地方の礎を築き、江戸時代に入っても1614年まで170年にわたってこの地を治めた。

 戦国時代には北条氏と40年にわたる抗争を繰り広げ、水軍を編成して最盛期には下総まで進出した。しかし、1590年の豊臣秀吉による小田原攻めの際に、大名同士の私闘を禁じた惣無事令(そうぶじれい)に違反して秀吉の怒りを買い、上総は没収され、領地は安房一国のみとなったのだった。山のふもと東側には居館や重臣の屋敷を守るために鹿島堀と呼ばれる総構の水堀があったが、これは関ケ原合戦の後、常陸鹿島領を加増されたことにちなむのだという。

 里見氏の館山城在城はわずか20年ほどになるが、どうやら戦国後期にも、館山城は当時の居城である岡本城の直轄の支城として、館山湊(みなと)を抑える機能を果たしていたようだ。三方を海に囲まれたこの地は、古代から他地域との交流が盛んに行われ、鎌倉時代には経済や文化面で幕府の影響を強く受けていたようだ。

天守は館山城(八犬伝博物館)となっていて、内部には『南総里見八犬伝』に関する資料展示もある

 太平洋戦争中には高射砲陣地が置かれ、城内に軍の施設がつくられた。近代になっても、その軍事的な立地のよさは健在だったということだ。発掘調査からも、天守台と千畳敷はかなり改変されていることが判明している。里見氏が倉吉に転封後の館山城は徳川幕府によって接収されているから、このときにも徹底的に破却されているのではないだろうか。

 近代に改変されたため、残念ながら館山城の遺構はほとんどない。しかし、なにか残っていないかと歩きまわると、堀切(ほりきり)を発見した。おもしろいのは、近隣にある里見氏の城、稲村城を彷彿(ほうふつ)とさせる規模だったこと。切岸(きりぎし)もよく似ている。

館山城からの館山湾方面の眺望、海上自衛隊館山航空基地、稲村城も見える

 館山城から館山湾を見渡すと、自衛隊館山航空基地が見える。現在でも、館山は軍事的要衝であり続けている。かつては今よりも海岸線が迫っていたらしい。

 東京湾の入り口にある館山には、幕末から太平洋戦争の終結まで、多くの砲台や海軍航空隊などがつくられた、館山城のほど近くにある館山海軍航空隊赤山地下壕(ちかごう)跡も、戦争遺跡のひとつだ。標高60メートルほどの凝灰岩質砂岩などからできた岩山に、総延長2キロの地下壕と、巨大な燃料タンク基地などが残っている。

館山海軍航空隊赤山地下壕(ちかごう)跡。太平洋戦争末期に本土決戦に備えて拡張したとみられる

 近隣を散策していると、住宅の間の空き地に掩体壕(えんたいごう)と呼ばれる戦闘機の格納庫もあった。時が止まったままの空間が、館山の立地と歴史を教えてくれた。

掩体壕。河岸段丘を利用してつくられているところが館山の掩体壕の特徴だ

(館山城の回・おわり)

交通・問い合わせ・参考サイト

■館山城(八犬伝博物館)

JR内房線「館山」駅東口からバス「城山公園前」バス停下車、徒歩5分
http://www.city.tateyama.chiba.jp/hakubutukan/page015688.html (館山市ホームページ)

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PROFILE

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)城郭ライター、編集者

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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