にっぽんの逸品を訪ねて

時代を超えた美しさで魅了 鳥羽を彩る真珠ジュエリーやアート

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2017年11月28日

直径2㎝近くあるゴールドのパール。美しい光と存在感に目が離せなくなる。価格にも注目

 明るい日差しにきらめく海。静かな入り江に浮かぶカキや真珠の養殖いかだ……。伊勢志摩の海は心和む風景だ。

 伊勢志摩の海が育む逸品の一つが前回ご紹介した魚介類。そして、さらに「真珠」もある。

 鳥羽市では、1893年(明治26)、地元出身の御木本幸吉(みきもと・こうきち)氏が世界で初めて真珠の養殖に成功した。

 成功の地である小さな島は、今は「ミキモト真珠島」として、島丸ごとが真珠を紹介するテーマパークになっている。

世界と日本の真珠ジュエリーが一堂に

 鳥羽駅から徒歩約5分。桟橋を渡った島内は、木々の緑と青い海を望むすがすがしい景観だ。

海に架かる通路を渡ってミキモト真珠島へ(画像提供:伊勢志摩バリアフリーツアーセンター)

 真っ先に見学したいのが「真珠博物館」。1階では真珠のできる仕組みや養殖法を解説し、2階は真珠を使った宝飾品と工芸品の展示室になっている。

 2階の2つの展示室は必見。ジュエリー好きでなくても、思わず見入ってしまう。

 第1展示室では、天然真珠しかなかった時代に作られた世界のアンティークジュエリーを、コレクションの中から約60点陳列している。

 不定形なバロックパールを白鳥に見立てたアメリカの作品、小粒の真珠を組み合わせた「パリュール」とよばれる豪華なジュエリーセット、遺髪を使った18世紀のイギリスの追悼の品、アフリカやインドのブローチなど、さまざまな作品が並ぶ。

 「真珠」をキーワードにして、国や時代、文化、デザインの違いなどを一堂に見て感じとれる貴重な空間だ。コレクションの中には、約2000年前の帝政ローマ時代の装身具もあるという。

小粒の真珠を使った「パリュール」や動物を模したもの、凝った細工のブローチなどそれぞれに個性的

 第2展示室は、明治時代から昭和初期にかけて制作されたミキモトクラシックのコレクションと、真珠の美術工芸品が並ぶ。全体的に、日本らしい繊細なデザインと緻密(ちみつ)な造りが印象的だ。

 1937年(昭和12)のパリ万国博覧会に出品した「矢車」は、12通りの使い分けができる多機能ジュエリー。時代を感じさせない洗練されたデザインとともに、多彩な機能にも驚く。

「矢車」は帯留めのほか、指輪やブローチなど12種類の使い方ができる

 ニューヨーク万国博覧会に出品した「自由の鐘」や1万2541個の真珠を使った「地球儀」など工芸技術を駆使した作品も圧巻だ。

真珠の首飾りが持つ表情「連相」

 1階での、真珠についての解説も興味深い。

 真珠養殖はアコヤ貝を育てることから始まり、取り出すまでに約4年かかるそうだ。真珠の核を入れる「核入れ手術」や貝のそうじなどさまざまな作業を行い、やっと真珠を取り出しても、「花珠(はなだま)」とよばれる高品質の真珠が収穫できるのは貝全体の約5%だという。

 また、真珠のネックレスを作る作業にも大変な熟練が要ることを知った。ネックレスには、「連相」とよばれる表情がある。一連の真珠は単に大きさや色が似た玉を集めるのではなく、ネックレスにした時に最も美しい表情に仕上がるよう、連相を考慮して一玉一玉、場所を決めて選んでいくそうだ。

正倉院の「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」をモデルに2007年に制作された「真珠宝飾五絃琵琶」。アコヤ貝真珠6284個、ダイヤモンド220カラットを使用

 ほかにも、ミキモト装身具が創業100周年を記念して制作した美術工芸品「真珠宝飾五絃琵琶」の特別展示(2018年3月31日まで)や、1粒3400万円のゴールドパールなども見学できた。

 「御木本幸吉記念館」では、社交性や商才に富んだ氏のエピソードが紹介され、従業員に「大将」と呼ばれて慕われた御木本氏の人間性に触れられる。

昼食はカキのうまみたっぷりの釜めし

 伊勢志摩といえば、やはり海の幸が魅力。

 ミキモト真珠島の近くに立つ「天びん屋 本店」は、店内にいけすを備え、漁港から直送された新鮮な魚介類が味わえる店だ。季節ごとに変わる旬の素材を生かした磯料理、さらに伊勢うどんやてこねずしなどの郷土料理もメニューに並ぶ。

伊勢志摩の旅は食事も楽しみ。旬の魚介料理をたっぷり味わう

 人気の海鮮丼は、エビやタイ、ウニなどがたっぷりのっている。タイの切り身はぷりぷりと歯ごたえがあり、エビはとろりと甘い。新鮮そのものだ。

 注文を受けてからかまどで炊き上げる釜めしも人気メニュー。旬の魚介を使う「季節の釜めし」は3月末まではカキを使用。ぷっくりと大きなカキがゴロゴロと入って、さらにご飯にはカキのうまみがたっぷりとしみている。

鳥羽の歴史を伝える「かどや」と商店街

 南へ約15分歩くと、旧鳥羽街道沿いに国登録有形文化財の「鳥羽大庄屋 かどや」(旧廣野家住宅)が公開されている。

 廣野家は、江戸時代後期から庄屋の代表格である大庄屋を務め、大正時代まで薬屋も営んでいた。多額の上納金を納めていたことから、鳥羽城に部屋が与えられていたといわれる。家屋が道路の角に位置していたため、「かどや」の屋号でよばれていた。

 がっしりと重厚な造りは当時の財力を物語るが、決して華美に過ぎず、品のよい上質さを好んだ家風がうかがえる。皮付きアカマツの床柱や1800年代の赤壁、めずらしいガラスの欄間、網代(あじろ)天井、ステンドグラス風の色ガラスなど、さりげなく凝った意匠に目を奪われる。

色ガラスに染められた日差しが木造の廊下に彩りを加える

 館内には、江戸時代に伊勢で発行され、国内最古の紙幣といわれる「山田羽書(やまだはがき)」をはじめ、各地の藩札や紙幣のコレクションも展示。また、明治30年代に作られた和製オルガン「長尾オルガン」も所蔵し、音が出るように修復して演奏会なども行われている。 

 「江戸時代、一千両というから現在の一億円くらいでしょうか、寄付した記録も残っています」と、係りの方が説明してくれる。文化活動を好み、寄付に財力を使い、大庄屋と慕われたことがしのばれる建物だ。

和歌を書いたふすまやすりガラスの欄間、中庭の緑が調和する気品漂う邸内

今、鳥羽で話題の指文字アートとは?

 かどやの周辺は、「鳥羽なかまち」とよばれ、昭和のころは商店が並び、「鳥羽の台所」としてにぎわっていた。今も懐かしい雰囲気の店舗が残り、街歩きが楽しい。

 中でも話題なのが、「PRINK’M(プリンク・エム)」の「指文字体験」(要予約)だ。

 この店は、グラフィックデザイナー遠藤美和さんのアトリエ兼ギャラリー。鳥羽では数年前から遠藤さんが指で書く文字の味わいが評判になり、市内飲食店のお品書きに使われたり、土産物店で指文字入りはがきも販売している。

 「好きな言葉を文字にすることで、いっそう心に深く刻まれ、人にも伝わります。はみ出してもいい。自由にのびのびと書いてください」と遠藤さん。この瞬間の思いを記せば、旅のよい記念になりそうだ。

文字に個性的な表情が生まれる指文字アート。センスあふれるアトリエには作品も飾られている

酒好きが県外からも通う隠れた名店

 鳥羽市には知る人ぞ知る酒の名店がある。

 静かな住宅街にある「酒乃店もりした」は、三重の地酒をはじめ、貴重な酒がそろうことで知られる。昨年行われた伊勢志摩サミットで提供された酒も全種類取り扱いがある。

 店主が地道に酒蔵を訪ね、信頼関係を築き、この店だけに販売が許されている銘柄もある。「八兵衛」「半蔵」などの銘柄は、ラベルが反転文字になった「裏八兵衛」「裏半蔵」も販売。「SAKE COMPETITION(サケコンペティション)2017」の純米酒部門金賞を受賞した銘柄「作(ざく)」は、もりした専用オリジナルバージョンもある。

 この店でしか買えない酒はお土産に喜ばれそうだ。

オリジナル銘柄も比較的手ごろな値段から買える

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【問い合わせ】

ミキモト真珠島

天びん屋 本店

鳥羽大庄屋 かどや

PRINK’M(プリンク・エム)

酒乃店もりした

伊勢志摩バリアフリーツアーセンター

*伊勢志摩地方はバリアフリー化が進み、車イスの方も観光がしやすくなっています。ここでご紹介したほとんどの施設が車イスで利用できます。

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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