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大和朝廷の古代へタイムスリップできる最北の「城柵」 秋田城

  • 文・写真 萩原さちこ
  • 2017年12月1日

秋田城は古代につくられた城柵のひとつだ

 JR秋田駅で新幹線を降り、20分ほどバスに揺られると、秋田城へ着く。天守や石垣はなく、そこには広い空間があるだけ。「いったいどこに城があるのか」と不思議に感じてしまうだろう。それもそのはず、秋田城は、古代に築かれた「城柵」のひとつであり、天守がそびえる城とは、築かれた時代がまったく異なるのだ。

 「城柵」とは大和朝廷が地方支配の拠点とした軍事・行政施設のことで、東北地方では、支配領域の拡大と蝦夷(えみし)の征討を目的として、越後(現在の新潟県)、陸奥(現在の福島県、宮城県、岩手県、青森県)、出羽(現在の山形県、秋田県)に設置された。 

 『日本書紀』によれば、城柵は 647(大化3)年の淳足柵(新潟県新潟市)にはじまり、出羽柵(山形県沿海部)や多賀城(宮城県多賀城市)など、20以上が設けられたとされる。蝦夷が服従すると軍事拠点としての役割は薄れ、多賀城には鎮守府、秋田城には国府が置かれ、東北開拓の中心地として政治や経済の拠点となっていった。

発掘調査をもとに復元された政庁

 秋田城は最北の城柵で、奈良時代から平安時代にかけて設置された大規模な地方官庁だった。733(天平5)年に出羽柵として移され、760(天平宝字4)年頃に秋田城と呼ばれるようになったという。奈良時代には国府が置かれ、津軽・蝦夷のほか渤海(中国東北地方にあった国家)などとの北方交易・交流の拠点でもあったようだ。10世紀中頃まで機能したとみられる。

 秋田城は、現在の県庁や市役所のように機能しながら、治安維持に努めつつ外敵に備える兵士が常駐していた。最北の城柵であるため、東アジア諸国との外交などの窓口としても重要な役割を担っていたという。

横長の政庁は東北の古代城柵では唯一の例だ

 城柵内はとにかく広大で、たっぷりと時間を確保していかないと、全体像をつかめないまま終わってしまいそうだ。とはいえ、史跡公園として整備されているのは城域の一部。外郭は東西・南北約550メートルのいびつな正方形、中枢部の政庁域だけでも東西94×南北77メートルに及びかなり広い。政庁は、国内外からの使節を迎えた儀式などを執り行った場所で、現在は創建時の政庁が復元されている。

展示されている、政庁のレプリカ

 圧倒されるのは、最大の見どころである、復元された東門と築地塀だ。秋田城は内側(政庁域)と外側(外郭線)の二つの区画から構成され、外郭線の東西南北にそれぞれ門があったと考えられている。2.2キロにも及ぶ外郭線は、すべて泥土を固めた築地塀で覆われていたようだ。

 築地塀に葺(ふ)かれた瓦は、律令国家の権威を示す部材だという。雪国にはあまり望ましくないにもかかわらず用いられていたのは、壮観な見栄えを考慮してのことだろうか。秋田城が、特別な施設であることを連想させられる。

1997(平成9)年に復元された、東門と築地塀

城の外側を囲む施設の変遷は、大きく五つの時期に分けられるという。城壁は築地塀から材木塀へと変化するようだ

築地塀は粘土と砂を交互につき固める版築技法でつくられていた

 東門を抜けると、古代沼が広がる鵜ノ木地区がある。城柵には付属寺院がつきもので、この地区には寺院が立ち並んでいたという。おもしろいのが、付属寺院の北東隅に立体復元されている古代の水洗トイレ。奈良時代に使われていたことがわかっていて、沈殿槽にたまった排泄物の上澄みだけが沼地に流れる、高低差を生かしたしくみだ。沈殿槽内の土から発見された寄生虫の卵から、トイレの使用者が大陸からきた渤海人たちである可能性が高いと推定されている。

復元された古代水洗トイレ。沈殿槽内の土から発見された寄生虫の卵は、ブタ食を食習慣としていないと感染しないものだったため、飼育が盛んな渤海人である可能性が高いとされる。東アジアの諸国と交流の窓口になっていた秋田城の実態を示すものとしても興味深い

発掘調査により平面表示されている。出羽柵が移された奈良時代の頃につくられたとみられる井戸も見つかっており、復元されている

 古代の人々の生活、城の姿を想像しながら歩けるのが楽しい。まるで、古代にタイムスリップしたようだ。秋田城は城柵のなかでもよく整備され、建物の一部が復元されているため全体のイメージがわきやすいのだ。さらに、2016年には、展示が豊富な秋田城跡歴史資料館が開館した。思いのほか充実した展示で、かなりの時間を費やすこと間違いなし。発掘された漆紙文書を赤外線カメラで見られたことには感激してしまった。

秋田城跡歴史資料館。わかりやすい展示で秋田城および城柵を知ることができる

(秋田城の回・おわり)

交通・問い合わせ・参考サイト

■秋田城

JR「秋田」駅からバス「秋田城跡歴史資料館前」下車、徒歩3分
018-845-1837(秋田市立秋田城跡歴史資料館)
http://www.city.akita.akita.jp/city/ed/ac/default.htm (秋田市立秋田城跡歴史資料館)

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PROFILE

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)城郭ライター、編集者

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。
http://46meg.com/

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